イベントのオープニングを飾ったのは豪華なギター生演奏だった。TUBEのギタリストである春畑道哉さんが登場し、93年の開幕時に国立競技場で奏でたオフィシャルテーマソング「J'S THEME」を演奏。印象的なギター音とともに30年前の高揚感がよみがえり、会場が一気に華やいだ。
演奏の後は川淵三郎・初代チェアマンと野々村芳和チェアマンが登壇し、30年前を思い出しながらのトークセッション。開幕時は慶応大学3年生だったという野々村チェアマンは、「大学に行く前は将来もサッカーを続けるかどうかを考えたことがなかった。Jリーグは当時のサッカー少年にとっては人生が大きく変わるきっかけになった」と振り返った。また、未来に向けての意気込みも表明。「僕たちはサッカーから学び、サッカーによって育った。これからもJリーグはそんな存在になれるよう、多くの皆様とともに成長し続けたい。各クラブがそれぞれの地域で圧倒的な魅力のあるクラブをつくり、60チームすべてが輝けるようにしていきたい」と抱負を述べた。
その後はファン・サポーターの投票を元に決定する「明治安田J30ベストアウォーズ」の発表が行われた。まずは「ベストシーン部門」。「雨の中のリフティングドリブル(1994年9月17日 Jリーグ第2ステージ第11節名古屋 vs 市原)」の映像が流れると、名古屋MFストイコビッチが見せた圧巻のテクニックに会場の目が釘付けになった。
ゲストの松木さんが「ピッチ状態が悪くても良いプレーができるという、サッカー選手のテクニックを証明してくれた」と懐かしそうに振り返れば、髙橋さんは「雨の中であのプレーは、まるでゲームを見ているようだった」と興奮した口調。どの世代が見ても納得の“名シーン”だった。
続く「ベストゴール部門」では、受賞者を代表して「ミドル/ロングシュート部門」の久保竜彦さん(2007年3月3日 J1第1節浦和 vs 横浜FC)、「FK部門」の中村俊輔さん(2016年4月2日 J1第1ステージ第5節G大阪 vs 横浜FM)、「ヘディングシュート部門」の山岸範宏さん(2014年11月30日 J1昇格プレーオフ準決勝磐田 vs 山形)が登壇した。
浦和戦で約35メートルの超人的なロングシュートを決めた久保さんは感想を聞かれると、「いや、嬉しいです」と現役時代のキャラクターそのままの控えめな口調。また、ヘディングシュート部門の受賞者である山岸さんがこの試合で浦和GKとして出場しているという偶然もあり、松木さんからそれを指摘された山岸さんが苦笑いを浮かべる様子もあった。
その山岸さんが受賞したヘディングシュートは、試合終了間際のセットプレーの際にパワープレーのために上がっていたことで生まれたもの。「自分で決めるつもりはなく、前線に上がって相手選手を引きつけ、相手の守備隊形にスクランブルを起こせればと思っていた」と、“想定”を超えたスーパーゴールだったことを明かした。
また、中村さんはスーパーFKの極意を聞かれ、「難しいほうがワクワクするという気持ちでやっていた」と心構えを語った。
発表はさらに続き、「ベストマッチ」は東日本大震災発生後のリーグ再開試合となった2011年4月23日のJ1第7節 川崎フロンターレvsベガルタ仙台戦が受賞。そして、ベストイレブンはGK川口能活、DF中澤佑二、DF内田篤人、DF田中マルクス闘莉王、DF松田直樹、DF井原正巳、MF遠藤保仁、MF中村俊輔、MF中村憲剛、MF小野伸二、FW三浦知良が受賞した。
この日はベストイレブンの中から井原さん、中村俊輔さん、中村憲剛さんが登壇した。表彰の際、プレゼンターを務めた国枝さんが「30年前の開幕当時、僕はその10日くらい前に車いすになった。Jリーグという新しいエンターテイメントが生まれた瞬間を病室のテレビで見ていて、非常に勇気をもらった」と懐述。当時9歳だった国枝さんがJリーグに励まされたという知られざるエピソードは感動的で、アウォーズ全体が引き締まった。
そして、栄えある「MVP」にはベストイレブンの中から遠藤保仁(ジュビロ磐田)が選ばれた。練習後の磐田のクラブハウスからオンラインで登場した遠藤は、「数々の選手、先輩方がいる中で選ばれたことを誇りに思う。まだまだ現役なのでこれからも活躍していけたらなと思う」と受賞の挨拶。報道陣との質疑応答では「Jリーグはここまでの30年、ものすごいスピードで成長してきた。この先も100年構想の中でさらにJリーグが盛り上がり、どこへ行ってもサッカーの話が出るようなリーグにしていけたらなと思っているし、僕自身、少しでもそれを手助けできればいい」と力強く前を見つめた。
第2部では、各クラブの社会連携(シャレン!)活動を表彰する「Jリーグシャレン!アウォーズ」を開催し、表彰を行った。第4回の今回は、既存の「ソーシャルチャレンジャー賞」「パブリック賞」「メディア賞」の3賞に加えて、一般投票で選ばれる「ファン・サポーター選考賞」、各クラブの投票で選ばれる「クラブ選考賞」、地域社会とのつながり・ふれあい・ささえあうをテーマにした「明治安田 地元の元気賞」の3賞を新設し、合計6クラブ(名古屋グランパス、藤枝 MYFC、カターレ富山、水戸ホーリーホック、モンテディオ山形、ガイナーレ鳥取)が受賞した。
表彰後には中村憲剛さん、石川直宏さん、一般社団法人アクトポート代表理事で現役大学生の入江遥斗さんによるトークセッションを開催。中村憲剛さんは「シャレン!」の誕生について、自身が2016年に当時の村井満チェアマンとの対談で提案したことがきっかけになったというエピソードを披露した。
開幕から30年がたち、10クラブによるスタートから今ではJ1からJ3まで合計で60クラブに増えた。全国41の都道府県にJクラブがあり、地域の人々とともに未来へ向かい、日々前進している。
30年前、Jリーグが創設された趣旨の1つは「日本のサッカーを活性化し、オリンピック、 ワールドカップに常時出場できるレベルにまで実力を高めること」だったが、ワールドカップはもはや1998年フランス大会から2022年カタール大会まで7大会連続出場中。オリンピックも1996年アトランタ大会から2021年東京大会まで同じく7大会連続出場を果たしている。また、Jクラブから海外へ移籍する選手が年々増え、世界のサッカーシーンにおいてJリーグの存在は大きくなっている。
初期に立てた目標の中で既に達成できたものは少なくない。だが、それでも歩みを止めないのは、Jリーグはつねに人々の身近な場所で元気や勇気、夢を与える存在でい続けたいという覚悟があるからだろう。この先30年、50年、70年と前進し続けるJリーグを見続けたい。