世界陸上の“出場資格”は2時間9分台

 今夏開催される世界陸上ロンドン大会の代表選手選考レースを兼ねた第72回びわ湖毎日マラソンが3月5日に行われる(皇子山陸上競技場発着。12時30分スタート)。ここでは改めて代表選手の選考基準と現状についておさらいをしておきたい。

 男子マラソンの代表枠は最大3。昨年12月の福岡国際、今年2月の東京、そして今回のびわ湖毎日の3大会の中で日本人1位となり、派遣設定記録の2時間7分以内のタイムをマークすれば自動的に代表選手内定となる。ただし、この基準を満たす者がいなければ、前出の3大会で日本人3位以内と今年2月の別府大分毎日の日本人1位の選手が選考対象となり、記録、順位、レース展開、レース当日の天候等を総合的に勘案し、代表選手が選ばれることになる。

 3大会を終えた現時点でロンドン行きが有力視されているのは以下の3選手。福岡国際で日本人1位(総合3位=2時間9分12秒)となった川内優輝(埼玉県庁)。別府大分毎日において2時間9分32秒で優勝した中本健太郎(安川電機)。東京で日本人1位(総合8位=2時間8分22秒)となった井上大仁(MHPS)も一気に圏内に入った。

 上記の3選手を上回るためには、びわ湖毎日で日本人1位になることはもちろん、中本がマークした2時間9分32秒を上回ることが絶対条件となるだろう。ただし、びわ湖毎日は記録が出にくい。ここ3年間のレースを振り返っても優勝タイムはいずれも2時間9分台。高低差の少ないコース設定だが、30キロ手前の平津峠のアップダウンをいかに攻略し、終盤の走りにつなげるかでタイムも大きく違ってくる。また、当日の気象条件次第だが、びわ湖から吹き込む風の強弱もレースの命運を分ける。

有力候補は佐々木、石川、園田、一色の4選手

 では、ロンドンに行ける可能性を秘めたランナーはいるのか?

 今大会では海外招待選手9名の他に国内から有力な4選手が招待されている。まず目を引くのは昨年のリオ五輪に出場したベテラン2人。リオで16位に終わった31歳の佐々木悟(旭化成)は自身5度目のびわ湖毎日となるだけにコースを熟知しており、2時間8分56秒の自己記録更新とリオに続く2度目の世界挑戦に意欲を燃やす。同36位と惨敗を喫した37歳の石川末廣(Honda)も4度目のびわ湖毎日となるが、1年前の同レースで日本人2位(総合4位=2時間9分25秒)に入り五輪出場を確定させた験のいい大会だけに復帰を飾るには格好のレースとなる。昨年の福岡国際で川内に次いで日本人2位(総合4位=2時間10分40秒)に食い込んだ園田隼(黒崎播磨)も今大会で再びロンドン行きに挑戦する。

 一色恭志(青山学院大)の走りからも目を離せない。箱根駅伝3連覇と大学駅伝3冠の原動力となった花形ランナー。上下動が極めて少なく、ブレのない安定した柔らかなランニングフォームはマラソンに適しており、青学大の原晋監督も将来性を高く評価する逸材だ。昨年の東京(日本人3位、総合11位=2時間11分45秒)に続く2度目のフルマラソン、そして学生最後となるレースで22歳の若き才能が一気にブレイクするかもしれない。

時に「速さ」以上に重要な「強さ」を発揮できるか

©共同通信

 一般参加選手の中にも有望な若手はいる。一色同様、東海大時代に箱根で絶対的エースとして名を馳せた村澤明伸(日清食品グループ)、ハーフマラソンで日本歴代5位の記録を持つ宮脇千博(トヨタ自動車)はともに25歳。今年元日のニューイヤー駅伝で区間賞を獲得し優勝に貢献した24歳の双子ランナー、市田宏(旭化成)も満を持して初マラソンに挑む(兄の孝も先月の東京に出場したが2時間19分24秒で50位に終わった)。

 また、1年生ながら箱根駅伝第6区に抜擢された19歳の中島怜利(東海大)をはじめ、大学生ランナーのエントリーが目立つのも今大会の特徴だ。トラックや駅伝で十分に経験を積んでからマラソンに挑戦するといったこれまでの長距離ランナーの“常識”に明らかな異変が生じてきている。

 先の東京でウィルソン・キプサング(ケニア)が国内レース史上最速となる2時間3分58秒をマークするなど、高速化にますます拍車が掛かる現在のマラソン界。国内においても記録のみが大きくクローズアップされがちだ。もちろん世界と伍して戦うためには絶対的な速さが必要不可欠であることは言うまでもない。とはいえ、五輪や世界陸上でのマラソンの多くが夏場に行われることを考えれば、単なるスピードとは違った側面もトップランナーには必要となる。例えば、暑さへの適応力であったり、急激なペースアップ&ダウンへの対応力であったり、レース展開での駆け引きだったり、等々。2020年東京五輪の男子マラソンは8月9日に行われることがすでに決まっている。

 日本最古のマラソン大会であるびわ湖毎日の歴代優勝者には、アベベ・ビキラ(エチオピア)をはじめ、君原健二(八幡製鉄所・当時)、フランク・ショーター(米国)、宗兄弟(ともに旭化成)、瀬古利彦(エスビー食品・当時)など、伝説のランナーが名を連ねる。時代は異なるし、単純に現在と比較するわけにはいかない。しかし、彼らのいずれもが速さを凌駕するような、圧倒的な勝負強さを誇っていた。「速い」よりも「強い」ランナーだった。

 東京五輪に向け、王国再建に挑むニッポンマラソン陣営。世界陸上ロンドン大会の最後の代表選考レースとなるびわ湖毎日は確実に3年後へとつながっている。日本人選手、中でもマラソンに意欲を見せる若手ランナーたちがどんなタフな走りを見せてくれるのか大いに注目したい。


VictorySportsNews編集部