山田哲人が打った幻のホームラン

 国・地域別の国際野球大会であるワールド・ベースボール・クラシックが開幕した。1次ラウンドはプールBに入った侍ジャパンこと日本代表は、3月7日に東京ドームで初戦を迎えキューバ代表と対戦。8番の松田宣浩(福岡ソフトバンク)や4番の筒香嘉智(横浜DeNA)のホームランを含む、計14安打11得点を奪った侍ジャパンは、11-6でキューバに快勝した。

 世界一の称号を取り戻すために、上々のスタートを切った侍ジャパンだったが、試合中のとある事件で一時不穏な空気に包まれた。

 1-1の緊迫した展開で迎えた4回裏、2死2塁の状況で1番に入った山田哲人(東京ヤクルト)の打席を迎えた。カウント2ボール1ストライクからの4球目、山田哲人は真ん中スライダーをレフトスタンドへ運び、場内は歓喜に沸いた。しかし、キューバからのアピールによりビデオ判定となった。その結果、スタンドに入り切る前にファンが手を伸ばして捕球したと判断されて、山田哲人の本塁打はエンタイトルツーベースの判定が下され、幻のホームランとなってしまった。

 その直後からインターネット上はいわゆる炎上した状態となり、捕球をした少年を責める批判の声が挙がった。それだけにとどまらず、警備員から注意されている姿がネット上に流れてきたり、一緒に観戦に来ていた友人のTwitterも特定されたりし、ものの数十分の間に個人が特定されてしまう事件が発生していた。その友人のTwitterアカウントはすぐに削除されたが、一説によると本名、年齢、学校などの個人情報がインターネット上に流れてしまったという。

 その後、山田哲人の飛球をキャッチしてしまった男子中学生は、パーカーのフードを目深にかぶったまま涙目で観戦したようで、「思わず捕ってしまったのか」と問われ「はい」と力なく答えていたとのことだ。

非難派も擁護派もマナーを問う

©共同通信

 結果として、侍ジャパンが快勝したおかげで大事にはいたっていない。また、緊迫したムードから快勝ムードに試合展開が変化するにしたがって、その炎上は沈静化を見せたが、TwitterなどのSNSを中心としたインターネット上の一部では、今でも議論が続いている。

 「余計なことをするな」、「スポーツ観戦マナーがなっていない」、「気持ちはわかるが前にグローブを出すな」「永久に出禁」など、国の威信をかけた戦いに水を差した観戦者を批判する声もあれば、「野球少年ならホームランが来たら普通は捕る」、「子どもを責めるなんて大人のすることか」など、非難に対して擁護する意見も見られる。

 非難の総括としては、観戦者は野球のルールを理解した上でスポーツ観戦のマナーを守るべきとの声が多い。また、擁護の総括としては、大人として子どもは守られるべきと意図しているものがほとんどとなっている。その言葉の過激さは別問題として、どちらもマナーを問うていて、正しいことを主張しているだけに、しばらくの間この議論は続きそうだ。

 野球観戦に興奮していて捕球してしまった少年だが、その出来事でインターネットの恐怖に包まれてしまったことだろう。これが、試合に負けていたら、少年ではなく青年だったら、と想像すると、笑い話ではすまされない事件である。

 その翌日となった8日、オーストラリアと対戦した侍ジャパンは、5番の中田翔(日本ハム)、4番の筒香嘉智に本塁打が飛び出し、前日の山田哲人による幻のホームランを消し飛ばすかのような好調ぶりを見せて連勝し、2次ラウンドへの進出を決定的な状況にした。


VictorySportsNews編集部