絶好調の松田に命じた“まさか”のプレー 編集 ここに追加

 5対1と日本が4点リードで迎えた7回裏の攻撃だった。この回先頭の平田良介が四球で出塁した。続くバッターはキューバ戦で3ランホームランを放つなど、今大会の1次ラウンドにおいて日本で最も当たっている松田宣浩。この日も2回の第1打席でヒットを放ち、続く小林誠司の2ランでホームへと還ってチームに貢献。この7回の打席入りの時点で、通算10打数6安打の打率.600、1本塁打5打点1盗塁と絶好調だった。

 その初球。なんと松田は送りバントを試みたのだ。130キロの外角低めのストレートだったが、松田はバットにボールを当てたものの、地面から跳ね返ったボールが再びバットに当たってファウルになった。

 1ストライクとなったことでサインが変わり、2球目から松田は打ちにいって、結局この打席はショートゴロ。一塁走者の平田が二塁でアウトとなったが、ダブルプレーを取ろうと一塁へ転送されたボールがカメラマン席に入り、打者走者の松田は二塁への進塁が認められた。結果的に送ったのと同じ、1死二塁となった。

 この松田の打席で、今大会で初めて小久保裕紀監督の勝利への執念が一瞬垣間見えた。初球のわずか1球だったが、絶好調で打ちまくっている松田にさえ、必要ならば送りバントをさせるのだということをナインに知らしめたからだ。前日に日本の2次ラウンド進出が決まり、同時に1次ラウンドで中国は敗退が決まっていたが、4点リードしていてもその相手から1点を取りにいくという厳しい姿勢を見せつけたのである。

 ちなみに松田はソフトバンクの主軸を打っており、2015年と16年の2シーズンはいずれも全143試合に出場しているが、犠打はひとつもない。

機動力を使ってものにした追加点

©共同通信

 次打者の内川聖一はセンターへのライナーに倒れ、2死二塁となったが、この日初スタメンの1番・田中広輔がセカンドへの内野安打を放って2死一、三塁になる。続く菊池涼介の初球に田中は二盗を試みて成功。2死二、三塁となった。ここで菊池はショートへゴロを打ったが、懸命のヘッドスライディングでセーフとなり、三塁走者の松田が生還。さらにショートからファーストへの送球が大きく逸れてカメラマン席に入ったため、二塁走者の田中もホームインが認められた。

 こうして日本は2点を追加し、7対1とリードを6点に広げている。3回終了時点で5対1とリードはしていたが、4回から6回までは四球が1 つあったものの併殺打があり、3イニングとも三者凡退に終わっていた。点差は4点あったが、実際にはこう着状態だったのである。完全に勝利を決定づける意味でも、7回の場面では“虎の子の1点”を取るべく、指揮官は松田にバントを命じたのだ。

 この7回の2点は相手の2つの送球ミスがあったとはいえ、四球と盗塁、それに内野安打2本という起動力を使って挙げたもの。わずか1球だったが、松田へ命じたバントのサインは選手たちの士気を上げたに違いない。試合はこのまま7対1で日本が勝利し、1次ラウンド3勝となってB組1位での2次ラウンド進出が決まった。

徹底される「自分の仕事をしっかりする」意識

 試合後のお立ち台に上がったひとりが、9番で先発した小林だった。小林は1対0と1点リードの2回2死一塁の場面で、レフトスタンドへ突き刺さる2ランホームランを放っていた。

 ヒーローインタビューで小林は「2ボールでバッティングカウントだったので、思い切っていった結果」と語ったが、直後に「自分としては自分の仕事をしっかりするだけだと思っているので、また2次ラウンドからはしっかりバントを決められるようにやっていきたいなと思います」と話した。

 大会前に行われた強化試合などの5試合を終えたときには、いろいろと不安視する声が強かった侍ジャパンだが、勝利のために徹底して求められたプレーをやり抜くという意識が選手に浸透しているように見えた。2次ラウンドも期待できそうだ。


BBCrix編集部