1打席目から圧巻のホームラン
最初の打席は1回表、2死三塁の場面で訪れた。味方走者の2つのミスでアウトを2つ取られ、流れがプエルトリコに向いかけているところだった。ここでバレンティンは2ボール2ストライクからの5球目を叩くと、打球は左中間スタンドへと吸い込まれていった。オランダに流れを引き寄せる先制の2ランホームランを放ったのだ。
しかしその裏、オランダの先発投手であるバンデンハークはプエルトリコに1死二塁のピンチを許し、ここで3番のコレアに左中間へ同点の2ランホームランを浴びてしまった。さらにバンデンハークは続く2回裏にも、プエルトリコの8番打者であるT・リベラにレフトスタンドへソロホームランを打たれ、2対3と1点のリードを許してしまうのだ。
バレンティンの2打席目は、3回表2死二塁という一打同点の場面で訪れる。しかしプエルトリコバッテリーは絶好調のバレンティンとの勝負を避けた。敬遠されてしまうのだ。1点勝ち越された直後だけにバレンティンは打ちたそうな様子だったが、ここは一塁へと歩く。続く5番のスクープが三振に倒れて、オランダはこのチャンスを活かせなかった。
そのまま中盤の5回となる。この回のオランダは二者が倒れ、2死走者なしでバレンティンの3打席目を迎えた。ここでバレンティンは豪快なスイングで思い切り振りぬくと、もう少しでホームランというフェンス直撃のツーベースヒットを放つ。これでオランダは2死二塁となり、続くスクープは敬遠されて一、二塁に。このチャンスに次のサラガがレフトへタイムリーツーベースを打って、オランダは3対3の同点に追いつくのだ。
バレンティンの4打席目は7回だった。2死走者なしの場面で打席に入り、ここは強振せずにライト前へゴロで抜けるシングルヒットを放った。ここまでの4打席は3打数3安打1敬遠となり、もはや手がつけられないほどの状態であるといっていいだろう。しかし後続が倒れ、この回のオランダは無得点に終わった。
顔付近のボールであわや乱闘寸前に
©️共同通信 試合は3対3のまま9回で勝負がつかず、延長戦へと突入した。10回表のオランダの攻撃が始まる際に、プエルトリコは6人目のディアスをマウンドに送ってきた。ディアスはシアトル・マリナーズでクローザーを務めている投手だ。この回のオランダは3番のプロファーから。しかしプロファーは空振りの三振に倒れて1死となる。ここでバレンティンの5打席目を迎えた。
バレンティンは初球の158キロのストレートをファウルすると、2球目の161キロのストレートもファウルとなって、2ストライクと追い込まれてしまった。そして3球目、158キロのストレートがバレンティンの顔近くに投げ込まれたのだ。バレンティンはのけ反って避けるとともに、ディアスを怒鳴りつけた。プエルトリコの捕手・モリーナが、慌ててバレンティンをなだめにかかる。しかしそれと同時に両軍ベンチから選手が飛び出して、あわや乱闘という状況になりかけた。しかしモリーナがバレンティンを抱くようにして話しながら諭したため、両軍はぶつかり合うことなくそのままベンチへ引き返すことになった。
審判が両チームに警告を発して、試合が再開された。次の4球目。ディアスの投じた外角低め159キロのストレートに手が出ず、バレンティンは見逃し三振に倒れてしまった。
この場面において、ディアスが故意に顔付近に投げたのか、たまたま行ってしまったのかはわからない。訊いたところで、故意とは決して言わないだろう。しかしいずれにせよ顔近くに158キロのストレートが来たことによってバレンティンは怒りを禁じえず、またその残像が残っていたのか、次のストレートを見逃してしまったのだ。もしあの3球目のボール球がなかったら、絶好調のバレンティンは4球目を見逃すことはなかったように思う。打ち返していたかどうかはわからないが、少なくとも1球目、2球目のようにファウルにはしていたのではないだろうか。故意かそうでないかはともかく、あの3球目があったからこそ、バレンティンは三振に倒れたように見えた。
試合は11回にもつれ込み、タイブレークの末にプエルトリコが11回裏にサヨナラ勝ちを収めて、4対3でオランダを降した。これでプエルトリコの決勝進出が決まった。
バレンティンはこの準決勝で4打数3安打1本塁打2打点1四球の成績だった。大会通算では26打数16安打の打率.615、4本塁打、12打点というとてつもない結果を残し、2017WBCを終えた。