名手・菊池だからこそ起きてしまったエラー
最初の失点は4回表だった。1死後、日本の先発・菅野智之がアメリカの3番・イエリチをセカンドゴロに打ち取った。しかしこの打球を名手・菊池涼介が後逸してしまう。ボールが右中間を転々としている間に、イエリチは二塁に到達した。続く4番のアレナドは三振に仕留めたものの、5番のホスマーを四球で歩かせて、2死一、二塁。ここで6番のマカチャンにレフト前へタイムリーヒットを打たれ、アメリカに先制点を許してしまった。エラーが失点に結びついたのである。
菊池がエラーしたセカンドゴロは、内野の芝の上で2バウンドし、一二塁間の走路となっている土でも跳ね、そして菊池が捕球する寸前にその土と外野の芝生の境目でバウンドして、ほんの少しだけセンター寄りにイレギュラーした。そしてキャッチしようとした菊池のグローブの小指の部分をかするようにして通過し、右中間方向へと転がっていったのである。
雨の中の強めのゴロで、晴天時の感覚を上回る速さの打球だった可能性がある。しかも内野の芝の上と走路の土の上でバウンドしたため、スピードにも変化があったはずだ。その上、次のバウンドは予測の難しい土と芝生の境目。一見すると単純なゴロのように見えるが、最後のバウンドの後のイレギュラーした球をさばくのは並大抵のことではない。こうして名手・菊池はエラーを犯してしまった。
つけ加えるならば、この失策は菊池だからこそ起きたと言えなくもない。1死走者なしの場面で、打者は左のイエリチである。普通の二塁手ならもう少し前の位置で守って、芝生の前の土の部分でゴロをさばいたのではないか。ゴロの処理に自信のある菊池だからこそ、捕ってから送球するまでが日本一素早い菊池だからこそ、左右のヒットゾーンに飛んだ当たりを処理できるように深めの場所、走路の後ろである外野の芝生に入った数メートル後方の場所に守備位置を取っていたのではないだろうか。守備力の高い菊池ゆえ、外野の芝生の上で処理しようとしたことが災いし、難しいバウンドを生んでしまったと思えてならないのだ。
決勝点を生んだ松田の不運なジャッグル
もうひとつの失点は、1対1の同点で迎えた8回表である。7回から登板していた千賀滉大が、2イニング目のマウンドに立っていた。千賀は1アウトからヒットとツーベースを浴びて、1死二、三塁のピンチを招いてしまう。ここで日本の内野陣が前進守備を取る中、アメリカの2番打者A・ジョーンズが打った三塁ゴロをサードの松田宣浩がジャッグルしてしまったのだ。松田はボールを拾って一塁に送球し、打者走者をアウトにしたが、その間に三塁走者がホームインしてアメリカに勝ち越し点が入った。これが決勝点となったのである。
松田がミスした場面だが、打者が打ったゴロはまず打席近くで一度弾み、2回目にバウンドしたところで松田が処理する形になった。この種類のゴロは、2バウンド目のあとは高く上がるのではなく、ライナー気味に野手に向かってくることが多い。当然、松田はそれを予測して下からグローブを出した。しかし2バウンド目でも思った以上に跳ねたようで、松田はグローブの土手に当てて弾いてしまったのである。
菊池のエラー同様、慣れないドジャースタジアムの内野に加え、雨による影響が彼らの手元を狂わせたと言えるだろう。松田にとっても日本にとっても、不運であったとしかいいようのない失点であった。
いつか再びこの地で―—世界で通用する侍たち
©共同通信 こうして侍ジャパンはアメリカから帰国することになるわけだが、わずか1試合とはいえ野球の母国で同国と試合できたことにより、改めて日本の選手の素晴らしさをアピールできた点は評価したい。
特に先発した菅野は6回を投げて3安打6三振1失点の好投で、この1失点も失策絡みのため自責点は0である。ストレート、カーブ、スライダー、カット、シュート、フォークといった球種を巧みに操りながらコントロール良く内外角をきっちりと突き、2年連続本塁打と打点で2冠王のアメリカの4番・アレナドを3打席連続三振に斬って取るなど、メジャーリーガーがキラ星のように並ぶアメリカ打線相手に見事なピッチングをやってのけた。アメリカのリーランド監督も、「菅野はメジャー級の投手だ」と絶賛している。
残念ながらベスト4で敗退となったが、菅野をはじめとして、エラーしたものの何度も驚異的な守備を披露した菊池など、侍ジャパンの選手が大会を通して世界に通用することを示してくれた。いつか彼らがメジャーリーガーとなってこの地でプレーすることを夢見させてくれるような2017WBCであった。