文=池田純

日本では爆発的な盛り上がりを見せていたWBC

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 ロサンゼルスで行われたWBC決勝、アメリカvsプエルトリコ(ドジャースタジアム、日本時間4月23日)を現地観戦する機会に恵まれた。

 日本を出発する前、WBCの日本での盛り上がりは絶頂に感じた。

 このまま優勝することができれば、これまで日本で過去何度も感じた、いっときの絶頂で終わる「ブーム」を超えた、スポーツ「文化」が生まれるのではないかとおぼろげながらに感じていた。アメリカでいつも感じる、全国民がこぞってスポーツ観戦を楽しんでいるかのような、生活に密着したスポーツ観戦「文化」にまで昇華するかのような錯覚さえ感じていた。

 2次ラウンドの世帯平均視聴率は、日本vsオランダが25.2%、日本vsイスラエルが25.8%。このご時世に、連続で25%を超える数字を叩き出している。

 本来はドジャースタジアムで行われた21日(日本時間22日)の準決勝アメリカvs日本も現地で見たかったが、仕事の都合により、出発前の成田空港で結果を知ることになった。日本はアメリカのピッチャーを攻略できずに惜敗を喫した。

 平日の昼の時間帯にもかかわらず、視聴率は20.5%とのことだった。報道をみる限り、東京の街中でも盛り上がっていたようだった。

 私は仕事で野球に向き合っていたため、侍ジャパンに関しても、応援する、という姿勢ではなく、どうしても客観的に見てしまう。応援していた皆さんには恐縮だが、出発前に日本が負けたものも、何というか、一つの「流れ」なんだとすぐに割り切った。別の何かを見てこい、ということなのだろうと考えた。

 果たして、開催国であり、野球先進国であるアメリカでのWBCの決勝で、どんな光景を目にすることができるのだろうか? むしろ、ワクワクするような感覚で飛行機に乗った。

アメリカ到着、まさかの反応2連発

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 ロサンゼルス空港に到着し、税関でお決まりの会話を交わす。

「Youは何しにアメリカに来たんだ?」

私「Baseballを観に来た。WBC、知ってるか?」

「知ってるよ。そういえば、アメリカは日本に勝ったんだよな? 何対何で勝ったんだ?」

私「2-1」

「Oh !? けっこうギリギリだったんだな」

 正直、あり得ないと思った。勝ったということしか知らない。スコアも知らなければ、どんな試合展開だったのかにも、興味がないのだろう。

 空港からホテルまでタクシーに乗った。

「Youは何しに来た?」

私「Baseballを観に来た」

「Baseball? 今、ロスで何かやってるのか?」

 またか、と思った。2連発。さすがにそんなわけはないだろう。たまたま続いただけだろう、と考えた。

 ホテルに到着した。18時の試合開始までまだ6時間近くあったので、ホテルの部屋でテレビをつける。私はいつもアメリカに来ると、チャンネルをESPNに合わせたまま、部屋で流しっぱなしにしている。しかし、ずっと見ていても、「今晩」のWBC決勝の話は一切テレビから流れてこない。「放映権の関係で、ESPNではやらないのか?」と思って、FOXを見たり、あらゆるチャンネルをザッピングしまくってみたが、一向にWBCの話題に出会うことはできなかった。

 ESPNでは、アリゾナでのスプリングキャンプのMLBのオープン戦を放映したり、NFLのドラフトのネタが多く流れていた。カレッジバスケットボールの話も盛り上がっていた。MLBのオープン戦より、NFLのドラフトについてのトーク番組より、カレッジバスケより、WBCの決勝のほうが、自国の初優勝がかかる試合のほうが圧倒的に重要なのではないか? コンテンツとして、価値があるのではないか? そう思ったが、残念ながら、試合開始前のテレビでは、WBC決勝に向けた盛り上げに出会うことはできなかった。

 NFLのスーパーボウルなら、試合開始前どころか、試合前数日間は、テレビ全体がスーパーボウル一色になるのに。これまた不思議な違和感とともに、会場であるドジャースタジアムに向かうこととなった。

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WBC決勝の会場で販売されていたのは……

 ダウンタウンのホテルからスタジアムに向かう道中にも、広告や装飾などはほとんど見かけることができなかった。スタジアムに到着すると、スタジアムの壁にはさすがにWBCの装飾がなされていた。いつもどおり、まず、いの一番に、グッズショップへ足を運ぶ。WBCグッズは数えるほどしかない。「ドジャースグッズばっかりじゃないか」と思わず口にしてしまったほどだった。コンコースのグッズショップにも、日本、オランダなど、各国一つくらいのグッズはあるにはある。ただ、私はジャパンの「J」とWBCのワッペンの入ったオーセンティックキャップでも土産に買おうかと思い探したが、オーセンティックどころか、レプリカのキャップさえ、売っていなかった。

 仕方なく、MLBで訪れる時のように、ドジャードッグ(8.5ドル)をほおばった。クラフトビールも飲んでみた。15ドルもした。いい値段だ。もはや日本のほうが安い。

 コンコースでは、ラテンのノリらしく、プエルトリカンが太鼓やマラカスで、大騒ぎをしている。プエルトリコの国旗を持つ人もたくさんいた。日本の決勝進出を期待して来た、日本からの方もかなりの数いらっしゃったように思う。

 私は、プエルトリコ側が楽しそうだったので、プエルトリコ側の席に座った(3塁側)。そこから1塁側を見渡すと、上段のほうの席にはかなりの空席が目立っていた。

 ドジャースタジアムは、センター後方にある重低音の出るスピーカーが特徴的なスタジアムである。流行りでノリやすいブルーノ・マーズがかなりの頻度でかかっていた。

 試合開始まで、グラウンドの端に、コメンテーターが今日の見所などをテレビ中継するためのブースが出ていた。「WBC」の表記もあったが、ほぼ「MLB」仕様のままだった。

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池田純

1976年1月23日生まれ。 横浜出身。 早稲田大学商学部卒業後、住友商事株式会社、株式会社博報堂を経て独立。 2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、執行役員としてマーケティングを統括する。 2012年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。 2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員数は1.8倍に増加、黒字化を実現した。 著書に「空気のつくり方」(幻冬社)、「しがみつかない理由」(ポプラ社)がある。