文=福嶌弘

グラブはプロ野球選手のポテンシャルを引き出す“商売道具”

 数多くのスポーツのなかで「はじめるまでにお金がかかるスポーツ」と言われている野球。他の球技のように、ボールさえあればすぐにできるというわけではなく、最低でもボールを打ち返すバットと打球を捕るグラブは欠かせない。

 他にもスパイクや手袋、キャッチャー用具も必要になってくるだろう。そのうえで、ユニフォームもそろえなければならない…というように、1試合するのにたくさんな用具が必要なことがわかる。

 プロ野球選手にとって、バットやグラブはいわば“商売道具”。自分の感覚にフィットした野球用具を使うことは、自身のポテンシャルを最大限に引き出すのに必要不可欠だ。そのため、選手のなかには大手メーカーとアドバイザリー契約を結んで、自分好みのグラブをオーダーし、提供されたグラブでプレーする者もいる。

 というわけで、プロ野球選手には欠かせない野球用具、なかでも選手の“手のひら”となる野球用具の代表格「グラブ」について詳しく調べてみた。

坂本勇人のゴールデングラブ賞初受賞を支えたミズノの特注グラブ

©️共同通信

 調べた結果、日本で野球用具を販売しているスポーツメーカーはおよそ50社。他のスポーツ用品も販売しているメーカーもあれば、野球用具、それもグラブのみというメーカーも存在する。

「高校野球ドットコム」内のアンケート「野球用品専門店に聞く! 2016年度の野球用具売れ筋ランキングは?」によると、2016年のグラブ売れ筋ランキングで人気を集めたのはミズノ。それも「グローバルエリート」「プロモデル」とワンツーを記録するほどの人気ぶりだ。

高校球児たちからの人気を集めるミズノは野球用具の国内シェアの約3割を誇る超大手メーカーである。公式HPを見ると、坂本勇人(巨人)、筒香嘉智(横浜)、中田翔(日本ハム)ら侍ジャパンに選出された選手らが名を連ねただけでなく、イチロー(マーリンズ)、田中将大(ヤンキース)といったメジャーリーガーともアドバイザリー契約を結んでいる。

 ミズノのグラブの魅力はなんと言っても使用している革の質感にある。手にはめたときにしっかりフィットする感じが多くの選手たちに信頼される理由となっているようだ。また、選手のリクエストにも的確に応えることでも知られ、坂本の場合は逆シングルの打球を先端でしっかりと捕球できるように2016年からウェッブ(グラブの網目部分)の革の面積を増やした。

 この変更が功を奏したか、同年に坂本はゴールデングラブ賞を初受賞。昨季の坂本の堅守をミズノのグラブが支えていたことは言うまでもないだろう。

 アドバイザリー契約を結んだ選手の数ではミズノに匹敵するのがZETT。昨年のセリーグ最多勝投手の野村祐輔(広島)やWBCで活躍を見せた小林誠司(巨人)がアドバイザー契約を結んでいるのをはじめ、主にバッテリーの使用者が多い。

 野村&小林の2007年広陵高校バッテリーだけでなく、藤浪晋太郎(阪神)-森友哉(西武)の2012年の夏の甲子園で大阪桐蔭を優勝に導いたバッテリーが揃って愛用しているというのが面白い。

 ZETTのグラブも革の質感には定評があるが、それ以上に重厚感のあるデザインが多いのが特徴。縫合がしっかりしているため、他のメーカーのグラブよりも長持ちする傾向があり、投球を一日に何度も受ける捕手に愛用者が多いのも頷ける。ちなみに古田敦也も現役時代、ZETTのキャッチャーミットを長年使用していた。

選手の絶大なる信頼で話題になった久保田スラッガー&ハタケヤマ

©️共同通信

 数多くの選手がアドバイザリー契約を結ぶ大手メーカーの多くは、野球以外のスポーツも手掛けているところばかりだが、なかには野球用具専門というメーカーも存在する。そのなかでも内野手から絶大な支持を集めているのが「久保田スラッガー」の名称で知られる久保田運動具店である。

 守備の名手である辻発彦(現・西武監督)が現役時代に愛用していたことで注目された久保田スラッガーのグラブはすべて手作業で作られ、さらにお湯に付けて型を付ける独自の「湯もみ型付け」で硬い革で作られたグラブでもすぐに使用できる。その使いやすさに惚れ込んだ鳥谷敬(阪神)や浅村栄斗(西武)ら、二遊間を守る選手たちがこぞってアドバイザリー契約を結んでいる。

 また、アマチュア時代から愛用している選手が多く、昨年1月にアドバイザリー契約を結んだ中島卓也(日本ハム)は「高校時代から使っていますが、革が硬く、へたれないからいい」とその使い心地の良さを語り、契約を大いに喜んだ。

 選手の厚い信頼を得ている野球用品専門メーカーと言えば、ハタケヤマもそのひとつ。もともとは美津和タイガーのグラブを製造していた工場の人物4人で立ち上げた小さな会社で、1985年の創立当時は使用するプロ野球選手はほとんどいなかったが、グラブには珍しい和牛の革を使用することで長持ちするグラブは選手たちの口コミで評判が広がっていったという。

 なかでも、ハタケヤマのグラブを愛用していた選手として知られているのが谷繫元信(元・横浜、中日)。高校時代から愛用していた谷繫は、「(チームメイトの)佐々木主浩のフォークはハタケヤマのキャッチャーミットでないと捕れない」と、自らアドバイザリー契約を希望したほど。以来、ハタケヤマのグラブを使用する選手が増え、現在では50人以上のプロ野球選手の御用達グラブとなっている。

ドナイヤの「手のひらに吸い付く感覚」に惚れ込んだ山田哲人

 選手にとって、メーカーとアドバイザリー契約を結ぶことはグラブなどの用具を無償で提供されるだけでなく、自身の好みに合わせてオーダーできるメリットがある。しかし、2年連続のトリプルスリー達成の山田哲人(ヤクルト)が2016年にアドバイザリー契約を結んだ「ドナイヤ」は山田にも市販品のグラブをそのまま提供しているということで話題になった。

 2010年に創業したドナイヤは野球用品のなかでもグラブのみの製造をしているというメーカーで、社員が社長の村田裕信氏のみというメーカーである。

 社長自らすべての製品を検品するため、大量生産ができないドナイヤは選手のオーダーを受けられないためアドバイザリー契約を結ばず、選手たちは市販のグラブを自ら購入しないと使用できなかった。しかし、ドナイヤのグラブの品質の良さが選手たちの間で話題になり、自費で購入する選手たちが続出。すでに他社とアドバイザリー契約を結んだ選手は試合でもドナイヤのグラブを使いたいがために、ラベルをはがして試合にも使用した例もあるという。

 プロ入り3年目の2013年に初めてドナイヤのグラブを使用した山田は、「ボールが手のひらに吸い付く感覚」に惚れ込み、以来、自費でグラブを購入して使い続けていた。初めてトリプルスリーを達成した2015年には他社のアドバイザリー契約のオファーが殺到したが、それでもドナイヤのグラブを使用し続けていたという。

 そんな山田の思いも実り、2016年の年明けにドナイヤはアドバイザー契約選手第1号として山田と契約。山田が購入し続けていた内野手用グラブ「DJIM」は無償提供されるようになった。ちなみに、このグラブは市販されているため一般のファンでも購入可能できる。

 メーカーごとに個性が見られるグラブ。選手だけでなく、選手の使用しているグラブに注目すると、プロ野球観戦がもっと面白くなるかもしれない。

BBCrix編集部

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