セオリーと異なる大砲ペゲーロの2番起用

 これまでは1番に出塁率の高い選手を置き、2番には小技のできる選手を置いて走者を進め、3、4、5のクリーンアップで還すというのが球界では当たり前であり、かつ理想の打線とされてきた。しかし梨田監督はその2番に、大砲のペゲーロを置いている。

 かつてバントをしない恐怖の2番打者として、1999年~2001年にかけて日本ハムの2番を打った小笠原道大がいる。また近年では、西武が栗山巧や秋山翔吾を2番で起用し、積極的に打つバッティングを見せたりしている。しかし長打を期待されている助っ人外国人で2番を打つのは、2000年以降では01年~02年にかけてのバルデス(ダイエー)ぐらいしか思い浮かばない。

 ペゲーロは昨年途中に楽天入りし、51試合の出場で打率.279、10本塁打、26打点をマーク。当然、今季はクリーンアップを任されると思われていた。しかし2番で起用し、オリックスとの開幕戦では延長11回に決勝の2ランホームラン、4月2日のオリックス戦では9回に逆転の2点本塁打、そして6日のソフトバンク戦では3回に決勝の2ランホームランを放ち、3本打った一発がいずれも決勝打となっているのである。しかも開幕戦と6日の2試合は、1番の茂木栄五郎を塁上に置いて打った2ランであった。ここまでペゲーロの2番起用は、大きく成功していると言えよう。

 また6日のソフトバンク戦では、先発した森雄大が4回までノーヒットながら6つの四死球を与えると、2対1とリードしていたにも関わらず、4回限りで森を降板。5回からは高梨雄平、福山博之、森原康平、ハーマン、松井裕樹を1イニングずつ投げさせて、結局3対1で勝利を収めるという采配を振るった。

 あと1イニング抑えれば森は勝ち投手の権利が手に入ったが、ヒットを打たれていなくても梨田監督は降板させ、その後の勝利への継投の中に高梨と森原のルーキーと、新外国人のハーマンを入れたのだ。リードしているリレーに調子の良い新顔を継ぎ込むのは、他の投手に大きな刺激を与えたことだろう。この結果、2番手として5回の1イニングを無失点に抑えた高梨が、プロ初勝利をマークした。高梨は新人投手の勝ち星一番乗りを手にしたのだ。

ドラフト9位でも開幕1軍を手にした高梨

©共同通信

 高梨は川越東高校の出身で、高校時代の監督はヤクルトで投手として活躍し、のちに日本ハムでヘッドコーチを務めた阿井英二郎氏である。卒業後は早稲田大学へ進学し、早くも1年の春から東京六大学野球リーグ戦に出場していた。4年間で通算41試合に登板して11勝5敗、防御率2.81の成績を残している。

 特に3年生だった2013年4月21日の東大戦では見事なピッチングを披露し、3対0で完封勝利をマーク。これが投球数109、内野ゴロ9、内野フライ7、外野フライ5、奪三振6という内容で、東京六大学野球史上3人目となる完全試合となった。ちなみにこの試合の3回裏に決勝打となる先制の2ランホームランを放ったのが1年後輩の重信慎之介(巨人)、4番打者として出場していたのが同期の中村奨吾(ロッテ)である。

 完全試合を成し遂げ、順風満帆な野球人生に見えた高梨だったが、そこから左肩を痛めるなどして不調に陥ってしまう。結局この3年春の完全試合が高梨にとって六大学リーグ戦で最後の勝利となり、3年秋、4年は春秋とも勝ち星なしに終わったのだ。

 大学卒業後はJX-ENEOSに進むが結果が出せず、入社2年目の都市対抗予選ではベンチにも入れなかった。首脳陣は高梨の打撃センスの良さに目をつけ、野手転向も検討されるようになる。早稲田時代の六大学リーグ戦での高梨は、51打数20安打の打率.392という投手とは思えない素晴らしい打撃成績を残していた。

 そんな中、昨年の6月に転機が訪れた。それまでのオーバースローからサイドスローにフォームを替えたのだ。この左の横手投げが功を奏し、楽天のスカウトから評価を受けて、ドラフトで指名されたのである。ただし楽天の9位で、ドラフト会議全体では指名された87人中85番目の指名だった。それほど低い評価での指名だったが、実力の世界であるプロに飛び込むと見事に開幕1軍を手にした。そして3試合目の登板となったこの日、プロ初勝利を挙げたのである。

 ちなみに同日、ロッテのドラフト1位ルーキー佐々木千隼もプロ初勝利をマークしたが、楽天のゲームセットの方が51分早かったため、新人の勝利投手一番乗りは高梨となった。また、ドラフト9位以下の新人投手が勝ち星を挙げたのは14年ぶり6人目の出来事で、9位以下の投手が新人勝利で一番乗りしたのはドラフト創設以来、初めてのことであった。

 今季は素晴らしい滑り出しを見せた楽天。2番で起用しているペゲーロや新人選手たちは、今後どのようなプレーを見せてくれるのだろうか。特に新人は必ず壁にぶつかるものである。果たしてそのときにどう乗り越えていくだろうか。彼らに注目するとともに、梨田監督の今後の采配を楽しみに見つめたいと思う。


BBCrix編集部