都心に現れた桜の花畑

 六本木の駅からほどなく、六本木ヒルズに到着すると目の前には圧巻の光景が広がっていた。本来はここにあるはずもない桜の花が、そこにはあった。季節外れの寒さもあり、咲き誇るという状態ではなかったものの、1000本もの桜を使った『桜の花畑』には、増加している外国人観光客だけではなく、桜を見慣れているはずの日本人の足も自然と止まる。

「お花見」と言えば、桜の木を下から見上げる形で食事やお酒を楽しむ形がイメージされるだろう。しかし、ここにある桜は、立っているときや椅子に座っているとき、ちょうど目の前に来る高さで咲いているのだ。そのため、食事をしながら、お酒を飲みながら、会話をしながら、自然と桜が目に入り、春を感じられるようになっている。

 偶然、六本木ヒルズを訪れた人は、このイベントをプロデュースしているのが、サッカー日本代表で活躍した中田英寿氏であるとは、まず気づかないだろう。建築家の藤本壮介氏、プラントハンターの西畠清順氏とともに中田氏が洗練されたアートのような空間に、元日本代表MFの名前はほとんど見当たらない。

「誰もが楽しめる空間をつくりたい」「季節を感じてほしい」。そう語る中田氏はプロデューサーであり、この空間の『花』ではないのだ。「少しずつ緑も出てきていますが、桜はピンクがすべてではありません。その変化を楽しめることが大事だと思う」と、主役を立てる。

思い込みへの挑戦

©CRAFT SAKE WEEK2017

 このイベントの『桜』と並ぶ、もうひとつの主役が『日本酒』だ。現役引退後、中田氏は世界各国を旅し、その後、6年半にわたって日本中を旅してまわった。さまざまな日本の魅力を再認識した中田氏は、2015年に日本酒や焼酎を扱う会社「JAPAN CRAFT COMPANY」を設立。日本のお酒の持つ魅力を広める活動を、国内外で展開している。今年で2年目を迎える「CRAFT SAKE WEEK」も、その活動の一つだ。そもそも、このイベントをやろうと思ったきっかけは何だったのか。

「今は日本酒のイベントもたくさんありますし、結構、日本酒が多くの方に、特に若い世代からも受け入れられています。ただ、日本酒として飲まれているということはあるけれど、銘柄はきちんと覚えられていない。知識として情報がちゃんと入っていない。そこがすごく課題であるのではないかな、と思いました」

 日本中を回った中田氏だけに、紹介したい日本酒の数は膨大になる。そこで来場者に銘柄を覚えてもらうために工夫もしている。「1日に100件の銘柄を出しても覚えられないかもしれません。だからこそ1日に登場する銘柄を10蔵に絞って覚えてもらいやすくしています」。

 日本酒とともに提供している食事は、和食だけではない。その理由については「イタリアン、フレンチ、ケーキ屋さんを出しているのは、日本酒は和食に合うけれど、ほかには合わないと思ってしまいます。だけど、こういう形で美味しいごはんを食べながら日本酒を飲めば、『日本酒って合うね』となるかもしれません。こちらから教え込むのではなくて、勝手に気づいてもらえるプラットホームをつくりたい。自動的に情報を出して、教育をして、マーケットを広げていくことをしていきたかったんです」と、説明する。

 その姿勢は、どこか現役時代にも重なる。中田氏の出すラストパスは、味方が受けやすい場所にピタリと出すものよりも、全力で走ってぎりぎり追いつけるかどうかのスペースに出されていた。最初はチームメイトが追いつけず、ミスと断じられたパスも、チームメイトに理解されるようになると、より相手にとって危険なラストパスと評価が変わっていった。

「たとえば、昔、和食屋さんにワインがたくさんありましたか? それも時期によって変わってきて、今ではどこの和食屋さんでもワインが入っている状態になっています。思い込みがすごく多いから、そういうのを変えたいんです」。振り返れば、中田氏が海を渡った当時、ヨーロッパのトップリーグで主力としてプレーする日本人選手は皆無だった。だが、現在ではイングランド、ドイツ、イタリア、スペインに日本人選手がいる。ピッチを離れても、根本で表現しているものは、変わっていないのかもしれない。

浅田真央選手のセカンドキャリアは?

©Getty Images

 10代の頃から世代別日本代表に選ばれ続け、29歳で現役を引退するまで日の丸をつけて戦った中田氏と同様、現役引退を表明したフィギュアスケートの浅田真央選手も、そのキャリアを通じて世界と戦い続けた。

 小学生の頃から3回転ジャンプを跳んでいた天才ジャンパーは、08年、10年、14年と世界選手権で3度の優勝を飾り、バンクーバー五輪では同い年のキム・ヨナ選手に続き、銀メダルを獲得。また、グランプリファイナルを4度、全日本選手権は6度も制している。2014年5月から、約1年間の休養期間を経て現役に復帰してファンを喜ばせると、同年11月のグランプリシリーズの中国杯で優勝を飾り、健在を示したかと思われた。しかし、その後は思い通りの演技ができずに、16年12月の全日本選手権では12位となり、世界選手権への出場権を逃していた。現役引退を表明したブログでは、復帰後の苦悩がつづられている。

復帰してからは、自分が望む演技や結果を出す事が出来ず、悩む事が多くなりました。 そして、去年の全日本選手権を終えた後、それまでの自分を支えてきた目標が消え、選手として続ける自分の気力もなくなりました。このような決断になりましたが、私のフィギュアスケート人生に悔いはありません。 これは、自分にとって大きな決断でしたが、人生の中の1つの通過点だと思っています。この先も新たな夢や目標を見つけて、笑顔を忘れずに、前進していきたいと思っています。
浅田真央公式ブログ ご報告致します。

 現役引退後の女子フィギュアスケート選手の多くは一般企業に就職する。国際レベルで実績のある選手の多くは、伊藤みどり氏、荒川静香氏、安藤美姫氏のようにプロ転向したり、コーチに転身したりしている。また、実姉の浅田舞氏はタレントに転身しており、村主章枝氏のように振付師に転身した変わり種もいる。

 引退を表明した浅田選手が、第2の人生でどのような道を選ぶのかは現時点では明らかになっていない。伊藤氏が切り開いた女子フィギュア界の人気を、もうひと段階、高めていった浅田選手。サッカーでいえば、三浦知良氏と中田氏の関係に近いものがある。誰からも愛された浅田選手が、第2の人生でも広く活躍してくれることを期待したい。

©CRAFT SAKE WEEK2017

中田英寿氏プロデュースの日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK 六本木」
開催日/2017年4月16日(日)まで
開催時間/12:00~21:00
会場名/六本木ヒルズアリーナ(東京都港区六本木6-11-1)
入場料/CRAFT SAKEスターターセット3,500円(税込) ※2回目以降の入場料は、イベントで配布したグラス持参で無料
定休日/なし
※4月12日からは、出店レストランが切り替わります。

CRAFT SAKE WEEK 公式サイト

VictorySportsNews編集部