文=福嶌弘

【野手編】 荒木、内川、阿部は当確!? 打者の華「通算2000本安打」

©共同通信

 シーズンが始まると、毎年注目される選手の通算記録達成。まずは打者の華ともいえる通算2000本安打記録から見てみよう。

 名球会入りの条件ともなっているように野手にとって最大の勲章だが、昨季は新井貴浩、福留孝介が達成したのをはじめ、過去10年で16人がこのマイルストーンに到達している。

 以前よりも達成者が増えただけに、投手の通算200勝と比べるとその価値が下がった感もあるが、それでも偉大な記録には変わらない。今年も5人の選手がこの大記録に挑もうとしている。

◆荒木雅博(中日ドラゴンズ)

 通算2000本安打達成までの残り安打数が最も少ないのが荒木。1995年にプロ入りして以来、コツコツと積み重ねてきたヒットは22年間のキャリアで通算1961本。あと39本で大記録に到達する。

 全盛期の荒木ならシーズン序盤で達成できるように感じられるが、規定打席到達を逃した2013年シーズンから荒木は下降線をたどり、昨季はレギュラー定着以来最少の93試合出場にとどまった。安打数も71本と先頭打者としてチームをリーグ優勝に導いた2011年の約半分(143本)となっている。

 大記録達成のためにも奮起を促したいが、荒木のオープン戦の打率は1割台。一方でセカンドのレギュラーを争う亀沢恭平、溝脇隼人が好調をキープしているように世代交代の波が続々と押し寄せてきている。

 開幕直後から好調だった昨季は5月終了時点で42本の安打を放っていたが、今季の荒木はレギュラーを争う立場。そのため大記録達成は7月ごろの到達になると予想する。もちろん、レギュラーで起用されればコンスタントに活躍するタイプなので、交流戦開幕頃に到達することも考えられる。

 達成予想時期:7月上旬

◆内川聖一(福岡ソフトバンクホークス)

 残り本数は104本と多めだが、今季中の達成はまず間違いないと言われているのが内川。チームで不動の4番打者を務めているように自慢のバットコントロールはまだまだ健在。シーズン前に行われたWBCでも代打の切り札として活躍したのも記憶に新しい。

 WBCは残念な結果に終わったが、侍ジャパンに選出されたことで例年よりも早い調整を行った点も内川には好材料となることだろう。ちなみに前回大会が行われた2013年、内川はソフトバンク移籍後では最多となる180安打を記録している。

 例年、8月前半にシーズン100安打を記録する内川だが、2013年は1カ月早まって7月1週目に達成している。これを踏まえると、7月前半にはマイルストーンに到達して男泣きを見せる内川が見られるかもしれない。

達成予想時期:7月上旬

◆阿部慎之助(読売ジャイアンツ)

 WBCでの小林誠司の活躍で影が薄くなった感があるが、長らく巨人のホームを守ってきた阿部慎之助も通算2000本安打にリーチをかけている。プロ入り16年間で通算1917安打をマークし、通算2000本安打まであと83本にまで迫った。

 度重なる故障により、捕手としての出場が難しくなったことで小林の入団と同時に一塁手としての起用が増え、今季は2015年以来の内野手登録に。結果的に捕手として出場しなかった昨季は91試合の出場と自己ワーストの出場数で規定打席にも到達できなかったが、身体への負担が減ったためか打率は2012年以来の3割台を記録。今季の巨人は大型補強を施しただけに起用法が気になるところだが、よほどの大ケガでもしない限り、レギュラーの座は安泰だろう。

 5月末からの復帰となった昨季とは違い、今季は開幕から出場できそうなので、通算2000本安打到達は後半戦開始直後の7月下旬から8月上旬になるか。巨人の成績次第では首位争いのなかでの達成となり、チームに勢いをつけることになりそうだ。

達成予想時期:7月下旬~8月上旬

◆鳥谷敬(阪神タイガース)

 プロ入り2年目の2005年に159安打を記録したのを皮切りに、毎年150本以上ものヒットを放ち続けてきた鳥谷敬。これまでの13年のキャリアで積み重ねてきた安打数は1872。通算2000本安打まで残り128安打にまで迫った。

 昨季開幕前までの鳥谷ならば、シーズン中の達成は当確と思われていたことだろう。しかし、昨季は例年にないほどの大スランプで、打率は自己ワースト記録となる打率.236。安打数もレギュラー定着以来最少となる106安打にとどまった。

 今までの鳥谷からは考えられないような大スランプが影響し、7月には5シーズンぶりにスタメンから外れた。鳥谷にとって2016年はまさに天中殺とも言うべきシーズンだったと言えるだろう。

 奮起を期す今季は長年守り続けたショートの定位置を若手の北条史也と競うことになったが、キャンプMVPに選ばれた北条とは対照的に鳥谷は目立った活躍を見せられず、ショートのレギュラーから追われることに。

 幸か不幸か、今季の阪神はセカンド、サードに確固たるレギュラーが不在。そのため経験で勝る鳥谷が起用されることが予想されるが、昨季までとは異なり、不安定な起用になることは確かだろう。慣れないポジションの守備が打撃に影響を与えることも考えられるだけに、今季中の通算2000本安打達成はシーズン最終盤までずれ込む可能性が高い。

 ちなみに鳥谷が通算2000本安打を達成すると、阪神の生え抜き選手としては1983年の藤田平以来の快挙となる。長年チームを支えてきた功労者だけに阪神ファンからの歓喜の声が挙がること必至だが……。

達成予想時期:9月下旬~シーズン最終戦

◆福浦和也(千葉ロッテマリーンズ)

 2017年の通算2000本安打達成最後の候補はロッテの大ベテラン福浦和也。1993年にドラフト7位で地元のチームであるロッテに投手として入団し、3年目にようやく一軍に定着した苦労人が現役24年間で積み重ねてきた安打数は1932。大台までいよいよ68本にまで迫ってきた。

 本拠地のゲームでの歓声からもわかるようにチームでは屈指の人気選手だが、ここまで紹介した選手達とは異なり、最後に100試合以上に出場したのが6年前の2011年。翌2012年以降はレギュラーの座を追われ、打席数が半減。100安打はおろか、50安打も打てなくなってしまった。

 昨年までは代打の切り札としての起用である程度の出番が見込めたが、今季はその役割さえも福浦から一塁のレギュラーを奪った井口資仁に奪われてしまうことが予想されるために、よほどのことがない限り、今季中の達成は難しいと言わざるを得ない。

達成予想時期:不明(2018年に持ち越し?)

【投手編】 火の玉ストレートの復活がカギを握る「通算250セーブ」

©共同通信

◆藤川球児(阪神タイガース)

 投手の大記録として認識されているのはふたつ。ひとつは昨季、黒田博樹(元・広島)が達成した通算200勝。そしてもうひとつが通算250セーブだ。2000年に佐々木主浩(元・横浜など)がシアトル・マリナーズ時代に達成したのを皮切りに、現在までに達成者は3名。佐々木の他は高津臣吾(元・ヤクルトなど)に現役の岩瀬仁紀(中日)といずれも球史に名を残すクローザーばかりである。

 今季、そんな偉業に挑むのが藤川球児。日米通算で225セーブを挙げ、大台まで残り25セーブと迫った。球団史に残る大投手だけに心から達成してほしいと願う阪神ファンも多いが、昨季の藤川の投球を振り返ると、達成できるかは微妙なところだ。

 古巣阪神へ復帰した当初、藤川のストレートは140キロが精いっぱい。メジャー時代に受けたトミー・ジョン手術の代償は大きく、かつて「火の玉」と形容された剛速球はもう投げられなくなっていた。そのため、藤川は変化球を多用するようになり、先発投手としてシーズンに臨むことになった。

 ところが、慣れない先発に戸惑ったのか藤川の成績は上がらず、2016年は5勝6敗3セーブ、防御率4.60という平凡な成績に終わった。全盛期を知る者には寂しい数字ばかりが並び、「藤川は終わった」という声が聞かれるようになっていった。

 しかし、今季の藤川はキャンプから順調。オープン戦でも6試合、5.2イニングを投げて無失点に抑えたうえ、7奪三振を記録。シーズン前の最終登板となった3月25日のソフトバンクとのオープン戦では7回に登板すると、圧巻の3者連続三振を記録。うちふたりの打者にはストレートで空振り三振を奪うなど、代名詞のストレートが甦った印象さえある。

 首脳陣が藤川の起用法について言及していない以上、過度な期待は禁物だが、クローザーとして固定されれば、シーズン終盤までに達成できない数字ではないだろう。
くしくもチームメイトの鳥谷も今季、通算2000本安打にリーチをかけている。もしかすると秋には藤川と鳥谷というチームの功労者が揃って名球会入りを果たすかもしれない。

達成予想時期:9月下旬~シーズン最終戦

中継ぎ投手の価値を変える! 前人未到の大記録「通算300ホールド」

©共同通信

◆山口鉄也(読売ジャイアンツ)

 プロ野球史において、中継ぎ投手はあまり評価されることがなかった。中継ぎ投手の記録として知られる「ホールド」が初めて導入されたのは1996年とわずか20年ほど前のこと。やがてセリーグにも導入され、現在の規定になったのは2005年から。メジャーリーグではいまだに公式記録として扱われていない点からも、中継ぎ投手の評価の低さがよくわかる。

 そんな中継ぎ投手の価値を変えたのが山口鉄也。2008年に左のセットアッパーとして23ホールド挙げたのを皮切りに中継ぎ投手として台頭し、プロ入り11年で積み上げたホールドはなんと270。日本プロ野球史に燦然と輝く歴代1位の大記録である。

 ここまでくると狙いたいのが、通算300ホールド。残り30ホールドは山口にとって簡単そうに見える数字だが、昨季は長年の勤続疲労がたたったか、63試合に登板したものの1勝6敗1セーブ、防御率は4.88と自己ワースト。ホールドもセットアッパーに定着して以来最少となる19にとどまった。

 今季は山口と同じ左腕のセットアッパー候補、森福允彦がFAで加入したため、山口の登板数は減ることが予想される。登板数の減少で成績の低迷に拍車がかかるか、それとも登板数を減らすことでフレッシュさを取り戻し、昨季の不振から復活するか――前人未到の通算300ホールドは山口自身だけでなく、森福の存在もカギを握ることになりそうだ。

達成予想時期:9月中盤
※通算成績の数字はすべて2016年シーズン終了時点

(著者プロフィール)
福嶌弘
1986年生、神奈川県生まれ。バイク・クルマの雑誌の編集部を経て2015年からフリーライターに。父が歌う「闘魂込めて」を聴いて育ったため、横浜出身ながら生来の巨人ファン。2017年シーズンは、阿部慎之助の通算2000本安打達成、山口鉄也の通算300ホールド達成の瞬間に立ち会うべく、早くも7月以降のスケジュールを調節しはじめている。『甲子園名門野球部の練習法』(宝島社)『プロ野球2017 シーズン大展望』(洋泉社)などに執筆。


BBCrix編集部