文=中島大輔

先発3番手以降がカギ

 開幕2カードを終えて2勝3敗。今季の前評判が決して高くなかった西武にとって、ペナントレースでの上位進出に向けた課題と可能性が同時に見えた5試合だった。

 2勝を挙げたのは、開幕戦を任された菊池雄星と3戦目に投げたウルフ。先発の軸として期待される二人が好スタートを切ったのは、プラス材料と言える。

 しかし、両投手は1年間を見越してある程度の計算をできるのに対し、チームの浮沈を左右する先発3番手以降の野上亮磨、多和田真三郎、髙橋光成はそろって負け投手になった。野上は5回3失点、髙橋は6回途中2失点と、普段より力が入りやすいシーズン初登板という点を差し引けば悪くない結果だったものの、ホーム開幕戦を任された多和田は4回6失点。辻発彦監督が「もっと真っすぐで(押せば)いいと思った」と振り返ったように、甘く入った変化球を打たれたのは悔いが残るところだ。シーズン前、「狙われても、ファウルや空振りを取れるストレートを目指しています。今年はストレートをもっと磨いていきたいと思います」と話していただけに、持ち味の力強い真っすぐでどれだけ押せるかが今後の鍵となりそうだ。

駒のそろった中継ぎ陣

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 一方、ポジティブな点としては、リリーフ陣が総じて好スタートを切ったことが挙げられる。

 勝ちパターンで投げるクローザーの増田達至、セットアッパーの牧田和久と武隈祥太ともにここまで無失点。新外国人のシュリッターは195cmの長身を生かして角度のあるストレートを投げ込んでおり、試合終盤の勝負どころを任せることができそうだ。大石達也、小石博孝もキレのある球を投げていて、ブルペンに厚みを持たせている。

 こうした陣容によって6回から逃げ切り体制を図ることが可能となっているだけに、先発3番手以降の野上、多和田、髙橋、さらに十亀剣、本田圭佑、岡本洋介、キャンデラリオ、ガルセスラがどれだけ戦力になれるかが、チームの成績に大きく関わってくるだろう。

新指揮官とともにベンチの雰囲気一変

 辻監督を迎えた今季、西武は変革期にある。そのなかでとりわけ明るい兆しは、ベンチの雰囲気が昨年から変わっていることだ。開幕戦を勝利した直後、先発の菊池はこう話している。

「イニング間に『ナイスピッチング』と声をかけてもらったり、僕からもファインプレーに『ありがとう』と言ったりする関係は、去年はなかなかありませんでした。かなりメンバーも変わり、去年以上に一体感があると思います」

 そうした空気をつくり出しているのは、指揮官の起用法にも関係がある。開幕戦から外野では田代将太郎、木村文紀を抜擢し、多くのチャンスを与えてきた。オリックスに敗れた4日の試合後、「ふたりを辛抱強く起用するのは、一定以上の打席を与えなければ成長を引き出せないからか」と質問すると、辻監督はこう答えている。

「(チームの布陣として)ベストだと思っているから使っている。レギュラーだから、変えられない。でも、まだ本物のレギュラーではない。それでもこっちとしては、レギュラーだという強い気持ちで使っている」

 こうした監督の言葉は報道を通じて選手にも伝わるはずで、田代と木村が粋に感じることは想像に難くない。前年までの指揮官が、メディアを通じて選手にメッセージを送ることはほとんど見られなかった。5日のオリックス戦で田代はスタメンから外れたものの、辻監督の巧みな手腕により、競争の生まれたチームにはいいムードが漂っている。

一級品の守備力を誇る新人遊撃手・源田

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 長らくレギュラーを固められていないショートでチャンスをつかんでいるのが、ドラフト3位の源田壮亮だ。新人では石毛宏典以来36年ぶりにショートとして開幕戦の先発メンバーに名を連ねると、プロでもトップクラスの守備力に加え、俊足、コンパクトな打撃で攻守に欠かせない戦力となっている。

 特に目を見張るのが守備だ。5日のオリックス戦では7回1死、大城滉二が三遊間深くに放ったゴロを逆シングルで捕球すると、両足でポンポンと細かくステップを踏み、一気に力をためたところから1塁にワンバウンド送球してアウトにした。投げるまでにもう1テンポ遅ければ、セーフになっていたタイミングだった。

 このプレーだけでなく、源田は好守を連発している。技術はもちろん、優れるのは守備への高い意識だ。たとえば3月20日に行われたオープン戦の楽天戦の7回、俊足の聖澤諒が三遊間の深くにゴロを放ち、間一髪のタイミングでセーフとする場面があった。逆シングルで捕った後にステップを数歩踏んでからすぐに送球したプレーについて、試合後、源田は反省の弁をこう述べている。

「(アウトにするにはステップを少なくして)一発で投げるしかなかったですね。投げようと思えばそうできましたけど、それでは球が弱くなるかなと思いました。ただピッチャーとしては打ち取っていると思うので、どうにか送球を早くするように工夫して、アウトにしなければと思いました」

 こうした心がけがあるからこそ技術が身につき、試合では瞬時に適切なプレーを選択できるのだ。

 今後の課題は打撃面と、長いシーズンを乗り切るだけの体力があるかどうかだが、源田の調子が落ちたときには永江恭平や外崎修汰が控えている。抜擢したルーキーがシーズン序盤から好プレーを見せることで、既存メンバーが刺激を受けながらチームに相乗効果が生まれれば、選手層の薄さという弱点を埋めることができる。金子侑司がコンディション不良で出遅れた外野にとっても、同じことが言える。

 決して前評判の高くない西武にとって、開幕5試合は課題とポテンシャルが同時に見えた戦いぶりだった。ただし、レギュラー陣の実力と爆発力は球界でもトップクラスにあるだけに、チームを底上げする選手が台頭してくれば、パ・リーグの上位争いに加わるだけの可能性を十分に秘めている。

(著者プロフィール)
中島大輔
1979年、埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材し、『日経産業新聞』『週刊プレイボーイ』『スポーツナビ』『ベースボールチャンネル』などに寄稿。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)がある。


BBCrix編集部