文=李リョウ

楽しむコツは、初心者の状態を早く脱すること

 サーフィンは、初心者には手厳しいスポーツです。サーフボードに立って波を滑るというシンプルなスポーツでありながら、いざ海にサーフボードを浮かべて試してみると、なかなか思ったとおりにはいかず、あげくの果てには波に巻かれ砂浜に打ち上げられてしまったーーそんな経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。

 しかしながら、サーフィンは上手くなればなるほど面白くなっていくスポーツです。だから初心者の状態をできるだけ早く脱して、次のレベルにステップアップするのがサーフィンを楽しむコツと言えます。でもほとんどの人は、最初のつまずきでサーフィンを難しいと思ってしまいがち。

 これを別のスポーツになぞらえると自転車に似ています。つまり、たった数回転んだだけで、自転車に乗ることを諦めてしまうようなものです。自転車だって、誰も最初から乗ることはできません。ツールドフランスに出場するような選手でも、最初は乗り方を練習したはずです。

 サーフィンも自転車も同じで、慣れてしまえば誰にでもできるのです。一度コツを覚えてしまえば一生忘れることもありません。初心者をできるだけ早く脱するための、効果的な二つの方法をアドバイスしましょう。

方法その一、海に行かずに上手くなる

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 実は海に行かなくてもサーフィンが上手くなる方法があります。自宅が海から遠くてサーフィンに時間が取れない人にはお勧めです。それはパドル筋とポップアップの強化です。

 パドルはサーフィンの脇役ですが、最も重要なテクニック。サーフィンの上達というとライディングを考えてしまいますが、そこまで考える必要はありません。パドルをマスターすることは、サーフィンをマスターすることだと考えてもいいくらいです。「サーフィンとはパドルだ」。これはサーフレジェンド、ジェリー・ロペスがいみじくも語った言葉です。またポップアップとはサーフボードでプローン(腹ばい)の状態から立ち上がるまでの動作のことです。このパドルとポップアップをサーフィンの実践前に準備しておくのです。

 具体的な方法としてはスイミングプールで泳ぐのも良いでしょう。サーフィンのパドルに近いようにビート板を腹の下に入れたり、両足でそれを挟んで上半身だけで泳いだりすると効果があります。トレーナーがいればトレーニングを相談するのも良いでしょう。

 プールに行けない人は、トレーニングチューブをドアノブにくくりつけて手と腕で引っ張れば効果があります。ポップアップは説明するまでもなく床があればどこでもトレーニングできますね。サーフィンをイメージしてプローンの姿勢からポンとリズミカルに立つ練習です。これらパドルとポップアップを日課にして、数回でも構わないから続けることです。

 パドルの強化はサーファーにとって永遠の課題であり、終わりがありません。本格的なサーファーは常に自分のパドル力を意識しています。しかし、強化といってもボディビルダーのようになる必要はありません。サーフィンに必要なのは力強さよりもエンデュランスです。パドルで波を捕えて、ポップアップで立って波に乗り、パドルで沖に戻る。その繰り返しが続けられるようになれば良いのですから過度な筋トレは必要ありません。

 また、ポップアップも数回の練習で大丈夫です。もたもたしないで、そつなく立てるようになるのが目的です。それには毎日数回続けて筋肉に覚えさせるのが効果的。海で試してみると、これも驚くほどの効果があります。実際、2時間サーフィンして10本から20本の波で楽しめる基礎体力がとりあえずはあればいいのです。

方法その二、サーフショップは上達の学び舎

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 ネットでなんでも買える時代ですから、サーフショップの存在価値は薄くなりつつあるような気がします。でもそれは大きな間違いです。もしサーフィンが上手くなりたいのならば、ホームと呼べるようなサーフショップを見つけることは必須です。サーフショップはクラブハウスという役割も兼ねているからです。

 サーフィンの愛好家が集まってサーフショップは成り立っています。その人たちとの交流はサーフィン上達に大きく役立ちます。というのもサーフィンは海と波のメカニズムやマナー&ルールを学ぶ必要があるので、その情報を得るにはサーフショップに行くのが一番なのです。有料波情報も便利ですが、サーフショップはもっと詳しい生の情報を得られます。

 例えば「夕方から波が上がってきたから明日の朝は良いかもしれない」とか「河口に砂が溜まって良いマウンドができた」とかグッドウェーブを手にいれるための新鮮な情報がサーフショップにはどんどん集まってきます。またサーフィンのテクニックに関しても店のオーナーや常連客はあなたに無償でアドバイスしてくれますし、サーファーが使う専門用語やスラングを覚えるチャンスもサーフショップにはあります。

 ときにはアマのチャンピオンやプロサーファーとの出会いもあり、試合や海外の波の話なども聞けることがあります。さらにお店が主催するサーフコンテストなども参加すると自分のレベルが分かりますし、目標や思いがけないライバルが出現することもあるかもしれません。ちなみにサーフショップといっても個性豊かです。コンペ志向のお店もあれば、毎週のようにBBQを始めてしまう和気あいあいのお店もあります。まずは勇気を出してお店のドアを開けてサーフワックスを買うところからスタートしてみましょう。自分のフィーリングに合ったサーフショップがきっと見つかるはずです。
  
 波に乗って滑る感覚は不思議です。一度体験すると病みつきになります。でもサーフィンにはスキー場のリフトのようなものがないので、とにかく波を捉えるまでが大変なんです。だからこそサーフィンは素晴らしいのだとも言えます。今回ご紹介した二つの“コソ練”を実践して週末のサーフィンを楽しんでいただけたらと思います。必ずその効果に驚かれると断言しましょう。


李リョウ

サーフィンフォトジャーナリスト。世界の波を求めて行脚中に米国のカレッジにて写真を学ぶ。サーフィンの文化や歴史にも造詣が深く、サーファーズジャーナル日本版の編集者も務めている。日本の広告写真年鑑入選。キャノンギャラリー銀座、札幌で個展を開催。BS-Japan「写真家たちの日本紀行」出演。自主製作映画「factory life」がフランスの映画祭で最優秀撮影賞を受賞。