構成・文=キビタ キビオ
パ・リーグはこちら大型補強の巨人は新戦力が出遅れても問題ない
©共同通信──今回はセ・リーグの順位予想をお願いします。ちなみに、昨年の中畑さんの予想は、1位から順に阪神、ヤクルト、DeNA、巨人、広島、中日でした。
中畑 今年の優勝は巨人だね。そして、2位はDeNA。3位は阪神にしようか。そうなると広島は4位だな。で、中日は5位で、最下位は……ヤクルトだな。
──巨人、DeNA、阪神、広島、中日、ヤクルトという順ですね。上から順に理由をうかが
います。まず、優勝は大型補強で戦力がますますアップした巨人です。
中畑 大型補強をしたとはいえ、その柱だった山口(俊)は故障で出遅れてしまい、トレードで獲得した左腕の吉川(光夫)もオープン戦ではいまひとつ。オフの段階から気にしていたことだけども、新戦力が額面どおり働いてくれるかどうか? という不安はつきまとうよ。
──にもかかわらず、優勝と予想した根拠は?
中畑 山口については、DeNAで苦楽をともにしてきたからよく知っている。アイツは開幕には間に合わなかったけども、復帰するときにはしっかり作ってくるよ。元々、春先はエンジンがかからないタイプだし、5月、6月あたりに出てきてくれれば、球は速いしスタミナは抜群だからな。高いレベルの投球を続けてチームの勝ちにつなげられるだろう。
──ご本人とは、直接話をしましたか?
中畑 したよ。「(開幕は)ちょっと無理ですね……」と言っていた。でも、アイツは本当に生真面目なタイプでさ。へたをすると、チームに迷惑をかけてはいけないと無理しても投げようとするんだよ。しかも、FAで人生初の移籍だろう? 気張って無茶してしまうのではないかと心配していたんだ。でも、そこを踏みとどまって自重したからね。「お前が我慢するなんて珍しいじゃないか?」とからかいながらも励ましたら、「焦らずやっていきます」と前向きだった。それだけでも、DeNAにいた頃より精神的にひと皮むけて成長してきているよ。
──復帰後の活躍は期待できそうですね。ただ、野手のほうでも同じくFAで獲得した陽岱鋼が下半身の故障でファームスタートとなりました。
中畑 そうだな。陽については、昨年までの巨人にはいなかった明るいキャラクターということもあって、どちらかというと暗かった巨人の雰囲気に陽の光をあててくれることを期待しているんだけどな、「陽」だけに(笑)。いやまあ、キャラクターだけではなく、プレーぶりも含めてチームのカラーを大きく変えられる要素を持っている選手なんでね。万全の状態で一軍に上がってきたら、勢いをつけてくれると見ているよ。
──開幕には間に合わなくても、長い目で見れば十分期待できるということですね。それまでの間はどう戦いますか?
中畑 そこは元から戦力があるチームだから。他に中軸を担うであろうマギーも新戦力として計算できる。だから、序盤はそこそこのスタートが切れさえすれば、ジャイアンツのペースになるだろう。(高橋)由伸監督も、やり甲斐を持って指揮できるシーズンになりそうだね。
愛しのDeNAは2位予想も優勝は十分狙える
©Baseball Crix──2位の予想は、中畑さんが監督として4年間指揮し、昨年はクライマックスシリーズに出場したDeNAです。
中畑 今年も大いに期待しているよ!
──昨年は開幕前から「DeNAは投手陣がいい」と力説していましたが、今年は山口(俊)がFAで抜け、大ベテランの三浦大輔も引退しました。それでも、投手力は十分ですか?
中畑 問題ない。左の3枚がいいからな。
──左投手というと、昨年、シーズンを通して活躍し、今年の開幕投手となった石田(健大)、新人ながら主戦級の働きをした今永(昇太)と……3人目は砂田(毅樹)ですか。
中畑 いや、濱口(遥大)だよ。
──ドラフト1位の新人左腕・濱口ですね。
中畑 砂田にも期待はしているけど、先発の3枚としては石田、今永、濱口だね。濱口は昨年の今永に劣らないくらいの生きのいい球を投げるよ。度胸もよさそうだし。あとは、 外国人投手のウィーランドとクラインのふたりがやってくれそうだから。
──少なくとも先発5人は揃いますね。
中畑 リリーフにしても、昨年のメンバーに新外国人のパットンが加わる。
──クローザーの山﨑(康晃)に、その前を投げる三上(朋也)、田中(健二朗)、須田(幸太)といった昨年力を発揮した布陣は、今年もほぼそのままいけそうですしね。
中畑 それと、野手陣もセンターラインの選手がある程度ガッチリ固まったから、以前のような層の薄さを感じなくなったのは大きい。
──そうですね。キャッチャーの戸柱(恭孝)、ショートの倉本(寿彦)、センターの桑原(将志)が、レギュラー定着2年目とは思えないほど、順調に調整してきています。そこに、筒香(嘉智)、梶谷(隆幸)がいるわけですからね。
中畑 そのくらいしっかりしたレギュラーが揃わなかったら、1年間戦い抜いて勝ち試合を作り、本気で優勝を目指すことなどできないよ。
──逆に考えれば、メンバーが揃ってきたDeNAは優勝を争えるチームになってきたと?
中畑 そういうこと! 楽しみがいっぱい、という感じになってきたよ。ぜひ、期待していてよ!
3位予想の阪神は昨年優勝の広島を上回りそうな気配あり
©共同通信──3~4位、5~6位は、それぞれ候補を2チームずつに絞り、比較した結果を順位に落とし込むようにして決めました。3位は阪神と広島で迷って、最終的に阪神が3位、広島は4位の予想です。
中畑 もちろん、昨年の覇者の広島だって、簡単に下位に沈まないとは思うよ。田中(広輔)、菊池(涼介)、丸(佳浩)の1、2、3番に鈴木(誠也)もいて、攻撃力は抜群だから。ただ、投手力の層がやや薄いという不安な面が、今年はどういう結果になっていくかと考えると、必ずしも昨年のようにはいかないよ。
──昨年も先発投手の4人目、5人目あたりは不足していて、福井(優也)や中村(恭平)、岡田(明丈)などが1カ月おきくらいに入れ替わりとなるような綱渡り状態でした。
中畑 そう、そう。リリーフ投手と打線が良かったから、後半であれだけの逆転劇を演じることができたけど、若手で固定できた先発ピッチャーはいなかった。そこにきて、気持ちの寄りどころだった黒田(博樹)が引退しただろう?
──はい。誰がその穴を埋めるかも課題ですね。
中畑 大瀬良(大地)あたりがその役割として期待されているけど、こればかりは何度か先発で投げてみないとわからない。それに、昨年最多勝の野村(祐輔)が、今年も継続して調子がいいかと問われたら、オレはそこまでは期待できないとみているよ。ジョンソンはしっかりしてるから、トータルで結果を出すと思うけど。
──それで、阪神を3位予想と?
中畑 うん。シーズン前のオープン戦の戦いぶりからすると、安定して結果を出しそうな雰囲気をすごく感じるのよ。金本(知憲)監督が昨年から取り組んできた育成重視のチームづくりが身を結ぶ年になるんじゃないかな? という雰囲気が、オレのなかでは広島に勝ったということだね。
──そして、中日とヤクルトで迷って、5位に中日。ヤクルトが最下位です。
中畑 ヤクルトはなあ……。打線は文句ないけど、やはりピッチャーが足りないと思うんだ。だから、下位になってしまうかなと。ただ、本当に客観的な目線でいうと、最下位は中日だと思っているんだよ。でも、モリシゲ(森繁和監督)は、駒澤大学時代の後輩だからさ。彼の手腕自体もオレは高く評価しているのでね。その期待値込みで、ひとつ順位を上げたのよ。ただ、温情だけではなくてね。中日は若手の競争が激しくなってきている。チームの上昇機運が高まれば、台風の目になる可能性はあるよ。
──その期待に押し出された結果、ヤクルトがやむなく最下位ということですね。
中畑 このあたりはつらいのよ。特にセ・リーグは力の差がほとんどないから。それに、最近判明したことなんだが、真中監督はオレと誕生日が同じ日なんだ。
──そうなんですか!
中畑 そう、1月6日。それがわかってから、より親しくなったんだけど……。でも、攻撃力頼りのヤクルトよりは、阪神、広島のほうが総合的みて勝てるチームだよ。だから、順番をつけるとこうなってしまうな。まあ、これはあくまでオレの予想。ぜひ、これを覆すような展開になって、ペナントレースを大いに盛り上げてほしいね。昨年は広島やDeNAが旋風を起こしてくれた。今年も筋書きのないドラマを期待しているよ。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。