文=竹田聡一郎
最高峰の技術とオーディエンスが共演した“王国”での世界戦
先日、カナダのアルバータ州エドモントンで行われたカーリングの男子世界選手権「Ford World Men's Curling Championship 2017」で、日本代表のSC軽井沢クラブは5勝6敗の7位という結果でラウンドロビン(予選リーグ)敗退となってしまったが、平昌五輪の出場権を獲得。20年ぶりの五輪ということで、そのニュースは日本でもかなり報じられた。
優勝はトリノ五輪の金メダルチームでもあるカナダ代表のグシュー(Brad Gushue)で、13戦全勝というグランドフィナーレを演じ、会場を興奮の坩堝に変えた。
大会を通してさすが王国カナダ開催の世界選手権という雰囲気だったが、特に決勝のスウェーデン戦は突き抜けていた。熱狂しすぎたオーディエンスの大歓声でラインコールがかき消されるショットすらあり、グシューが「静かにしてくれ!」というジェスチャーを見せた。ただ、そのショットこそ苛立ちを隠さなかったが、グシューは決勝後に「素晴らしいオーディエンスのおかげで楽しめた」とコメントし、1万人近くのファンといつまでも鳴り止まぬ拍手のなか、喜びを分かち合った。
カーリングの発祥は15世紀のスコットランドとされているが、現在、競技の中心はカナダだ。世界選手権は男女共に最多優勝を誇り、男子は47回開催されているがそのうち26回、女子は39回の開催で16度の戴冠をそれぞれ果たしている。ワールドカーリングツアーに名を連ねるボンスピル(大会)の7割がカナダでの開催であり、カナダには「どんな田舎街にも銀行と協会とカーリングホールはある」という冗談、というかそれはほとんど事実なのだが、とにかくそういった認識の国民的スポーツだ。
そんな王国での世界戦だったが、ともかく素晴らしい雰囲気だったの一言に尽きる。前述のオーディエンスは地元カナダ代表以外のチームの好ショットにもことごとく反応し、惜しみない声援を送り続けた。キーショットに向かうスキップを拍手で鼓舞し、フルスイープをするスイーパーをYesのシャウトで後押しした。正しく美しいカーリング観戦が凝縮されていた9日間と言える。
また、運営面も申し分なかった。よく曲がるアイスを仕上げてきたメーカー、ホスピタリティ溢れるボランティアをはじめ、すべての関係者から経験と愛を見て取れた。
冠スポンサー企業である『Ford』は約20台の車両を提供。ボランティアスタッフの運転で会場と選手村を送迎してくれた。我々、メディアも乗ることができて、深夜や早朝などの移動もまったく苦にならなかった。
カナダ選手権の冠スポンサーでもある地元ドーナツチェーン、『ティム・ホートンズ』はつねに温かいコーヒーとドーナツを選手とメディア、すべてのスタッフに用意してくれた。
会場には前日のハイライトやその日の見どころなどを報じた日替わりの新聞『EYE OPENER』が無料で配布され、参加型のスポンサーブースが並び、『50/50』というくじも販売された。エンド間には『SLIDER』という名の決してゆるくないキャラクターが記念品をスタンドに投げ込むサービスもあった。
最高峰のカーラーが技術を競うスポーツイベントであると同時に、出色のサービスを受けることのできる洗練されたエンターテイメントの現場だった。
最短で2021年、最高の日本開催を目指して
©Getty Images では、日本でこのレベルの世界選手権を開催できるかといえば、やはりポジティブな部分と難しい点の両面が浮かんでくる。
女子の世界戦は07年に青森、15年には札幌でも開催されている。両大会の他にも、最近では2月に札幌で開催された冬季アジア大会も開催された。地元の札幌協会は大勢のボランティアと共に、大きなトラブルもなく運営を成功させている。そのあたりの実績とノウハウはJCA(日本カーリング協会)をはじめ、各協会に蓄積されているだろう。カーリング愛を持った大勢のボランティアの存在、加えて今回、はるばるエドモントンまでSC軽井沢クラブの応援に自腹で駆けつけ世界戦を体感した協会関係者も多い。彼らの存在や経験も日本のカーリングが持つ大きな武器になってくれるだろう。
それでも例えば、キャパシティの問題がある。青森大会の会場であった青森県営スケート場(現在の盛運輸アリーナ)は約2000、札幌の月寒体育館は約3000という収容人数しかなかった。当時を知る関係者は「アジアでは初開催の世界戦ということで、どうしても競技を無事に終わらせることが優先されてしまい、ファンサービスまで気が回ったかといえば十分でなかったと振り返るほかない」と言う。まず1万人規模のキャパシティがある会場を確保できるのか、そこが埋まる有料興行を運営できるのか、世界から来るファンを満足させるエンターテイメントを提供できるのか。
また、『Ford』のような世界的な企業が支援してくれるのか、といった金銭面の問題もある。日本代表クラスのチームでも容易に活動費を得ているかといえば難しいのが、我らが国のカーリング事情だ。課題は少なくないし、小さくもない。
日本代表のSC軽井沢クラブのセカンド・山口剛史はかねてから「僕のゴールはカーリングをメジャースポーツにすること」と言い続けていた。
スキップ・両角友佑(もろずみ・ゆうすけ)も語る。
「僕らの(カーリングの)環境はだいぶ良くなってきたけれど、世界的に見るとまだまだな部分も多い。世界で、とくに五輪で結果を出しカーリングを有名にして、次の世代につなげていくのも仕事だと思っている」
来年の世界選手権はラスベガスで開催される。19年は都市は発表されていないがイタリアの予定だ。2020年はスコットランド・グラスゴー。早ければ2021年に日本での開催が期待される。
ちょうど東京五輪が終わるシーズンでもあるので、その経験や盛り上がりも追い風になって、今回のエドモントン大会に劣らない、素晴らしい世界戦を観戦したいものだ。
日本がカーリングの本当の意味での強豪になるために、自国開催の世界戦は不可欠だろう。カーリングを五輪に合わせた4年サイクルでやってくる刹那的なブームにしないためにも、協会、選手、ファンやメディア、国を挙げて真剣に考えていかなければならない大きな目標であることは間違いない。