空前のカーリングブームの陰で、苦しい実態

14日からミックスダブルスの日本選手権が始まるが、オリンピアンによるペアが出場するということで、既に全日程のチケットのべ1500枚が即日完売するなど、カーリング人気はいまだ沸騰中だ。

もちろんそれは喜ばしいことだが、カーリング狂騒が続く中だからこそ、本橋麻里の言葉、「4年に一度のカーリングと言われているのを、しっかり根付く努力をし続けないといけない」が重く響く。人気があり選手の知名度や発言力が強いうちに次のステップに進みたいところだ

具体的には予算やハード面の整備が求められる。

カーリングはサッカーやアイスホッケーのようにピックアップチームが日本代表になるのではなく、日本選手権や代表トライアルで勝ったチームがそのまま代表チームになる。大国カナダをはじめ、カーリングの世界ではそうしたチームが多く、日本も少なくともここ20年はそれに倣ってきた。

その中で強化方法はそれぞれのチームに委ねられてきた。JCA(日本カーリング協会)はある程度の強化の指針を示し、日本選手権などで上位に入賞したチームである強化指定チームには予算の補助をしてきたが、逆に言えば、具体的な強化のスケジュールなどはチーム任せになっている。

例えば、中部電力、富士急などの企業がバックにいる実業団チームはその勤務形態や予算との兼ね合いで遠征や合宿などの規模やスケジュールが決まってゆく。

しかし、今回の平昌五輪に出た両代表チームは、地域に根ざしたクラブチームだ。

男子のSC軽井沢クラブは総合型地域スポーツクラブを運営するNPO法人で、女子のロコ・ソラーレ北見(以下LS北見)も、常呂カーリング倶楽部に籍を置くスポーツクラブだ。

選手はそれぞれの所属や勤務先があり、そこでの仕事や業務をこなしながらトレーニングを積んできた。活動費はSC軽井沢クラブであればシチズンやエステー、LS北見は國分皮膚科(北海道北見市)や株式会社アルゴグラフィックス(東京都中央区)などのスポンサーやサポーターの出資によるところが大きい。LS北見の本橋麻里がチーム創世記にスポンサー集めに奔走したのは有名な話だが、その一方で「果たしてそれは選手の仕事なのだろうか」という疑問はどうしても残る。選手が氷上での競技のみに集中できる環境はまだ整っていない。

マイナースポーツだから仕方ない、と乱暴なカテゴライズをしてしまうのは簡単だ。しかし、今回の平昌オリンピックでの熱狂や注目はもはやマイナースポーツの域を完全に超えている。今が史上最高のチャンスで、普及や資金集めのための策を打ち出すべきではないか。

(C)The Asahi Shimbun/Getty Images

スポンサー獲得の可能性は?

具体的には冠スポンサーの獲得、あるいは交渉だろう。

現在、国内の最大タイトルである日本選手権は全農が冠につく「第●回 全農 日本カーリング選手権大会」が正式名称で、2011年大会から8年連続で継続中だ。

副賞として授与される米俵を優勝チームの選手が掲げる絵も定着してきたし、来場した観客におにぎりや豚汁、果物などの無料配布をするなど、「ニッポン人の活躍を『ニッポンの食』で支える。」というスローガンに沿ったスポンサードが実現できている。

さらに全農は女子代表のオフィシャルスポンサーも兼ねていて、海外遠征の際には全農ブランドのお米や惣菜を提供するなど、タフな合宿の中で「日本のものを食べられるのは本当にありがたい」と選手は感謝しきりだ。全農を引っ張ってきたJCAの大きな功績だろう。われわれメディアに対しても「全農」をしっかりつけて報じてくれ、という正式な要請を出すなどのケアも怠っていない。

ただ、やはり女子に比べて男子はスポンサーが集まりにくいのが現状だ。全農は男子代表については現在、ノータッチだ。以前から女子代表のスポンサーであったJALが今季から男子ともスポンサー契約を交わしたが、どうしても女子の延長の契約といった形が目立つ。

それならばいっそ、男女の日本選手権を切り離し、別に開催するという手段はどうか。

カーリング大国のカナダは毎年、カナダ選手権を男女別の日程と会場で開催している。スポンサーも男子には大手ドーナツチェーンのティム・ホートンズ、女子には世界最大のティッシュ会社のカナダにおける系列社スコッティズが、それぞれ冠大会としてついていて「スコッティ、今年はどこが勝つだろう」などと、企業名が大会名としての略称になるほど定着し、愛されている。全農は女子、男子に新規をつけて実現の可能性はあるだろうか。ぜひ探ってほしいところだ。

(C)The Asahi Shimbun/Getty Images

放映権は現状維持のNHKでいいのか?

また、スポンサーと同じく新規あるいは改善が必要なのは、放映権だ。

これまでの実績からみて、カーリング中継の経験と技術にもっとも長けているのはNHKだろう。近年、日本選手権のほとんどを中継してきた経験があり、今回の平昌オリンピックでも多くのゲームを放送してくれた。民放各局もそれぞれのカラーを出そうと奮闘していたが、特にアナウンサーの質に一日の長があったように思える。終盤になるにつれてもぐもぐタイムに寄せがちなきらいはあったが、それでもNHKの安定感は群を抜いていた。

ただ、今後も日本選手権などの注目を集めるであろうコンテンツはNHK一択でいいのだろうか。

関係者の多くは「昔からお世話になっているから」と現状維持でNHKを推す。その気持ちは分からないでもない。まだカーリングが認知されていない時期にBSでも地上波でも中継に踏み切った英断は他局にできるものではなかったし、一ファンとしても感謝の念は惜しまない。

しかし、カーリングはもはやマイナースポーツを脱却し、ビジネスに昇華させてゆくフェーズに入りつつある。プロ野球やサッカーを見ても、高く売れるところに売るのは当然のことだ。民放に放送してもらってこそ、真の普及につながるのではないか。このあたりも一考の余地がある。

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グッズ展開にもポテンシャルがある

あとは細かいことになるが、グッズ展開も必須だろう。

今回、SC軽井沢クラブが使用していた軽井沢国際カーリング選手権の大会オリジナルノート「Curling Notebook」が話題になり、オリンピック終了後に注文が殺到した。3月9日にクラブはFacebookで完売と在庫切れの報告をした。

同じく女子のLS北見が抱いていた常呂カーリング倶楽部のマスコット「とっかりくん」にも注目が集まり殺到、ネットでは一時、1万円近くで取り引きされていた。常呂カーリング倶楽部はHPにて素早く「このような事態は好ましいものではありませんので、この一時的なブームに対応するため、期間限定になりますが広く販売させていただくことにしました」と声明を出し、全国販売を開始したがそれも間も無く完売。グッズ需要は大きそうだ。

グッズだけではなくユニホームやウエアもポテンシャルは高そうだ。

平昌での日本選手団のオフィシャルウエアはアシックスだった。開会式や閉会式で来ていたオレンンジのアウターや、グリーンのニットキャップが印象的だったが、あれは一般のファンも各地のアシックスストアなどで購入可能だ。アウタージャケットが6万3720円、キャップが8100円という強気な価格だったにもかかわらず、競技が進むにつれて品薄になっていったと聞く。

今回のカーリングウエアはミズノだった。競技志向の強いデザインで、一部の競技者とファンが買うのみに止まったが、サッカーのユニホームのように選手と同じウエアを来て応援できれば一体感もあり、選手もファンもさらに高揚したのではないか。ぜひミズノさんには商品化と販促の検討してほしい

さらに、SC軽井沢クラブは代表として日の丸を背負って出る大会以外は、クラブのロゴやスポンサーが入ったヨネックスのユニホームを着用している。彼らのシンボルカラーとして定着する鮮やかな青の勝負服や、移動などで着るカジュアルなウエアにも、ビジネスチャンスは眠っている。

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資金繰りの先にあるリーグ戦とハードの整備

スポンサーや放映権を見直して、グッズなどで脇を固めたら、全国リーグ、あるいはアジアリーグまで夢は広がる。来春には京都府宇治市に通年のシートが完成予定で、北海道の稚内でも専用リンク建設の計画が進んでいる。

男女ともに異なる魅力と、それぞれのファンが存在するようになりつつある途上のスポーツだけに、このあたりで大きなテコ入れをしてもいい時期だ。

もちろん、スムーズに強化や普及が進むわけがない。それでも現在のカーリングに求められているのは、ファンの視線と、多方面からのさまざまな意見だ。まずは論じられること自体が何よりのプラスになるだろう。関係者は「無理だ」と切り捨てずに、この美しくも奥深いスポーツを発展させていくためにあらゆる手段を講じてほしい。

<了>

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竹田聡一郎

1979年神奈川県出身。フリーランスライター。著書に『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリング09年から取材を始め、Yahoo!ニュース個人で「曲がれ、ストーン!」を連載中。https://news.yahoo.co.jp/byline/takedasoichiro/