文=河合拓

フットサルリボンとソーサルの出会い

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 肺がんと闘いながらも、現役のFリーガーとしてプレーを続けている選手がいる。湘南ベルマーレの久光重貴選手だ。サッカーの名門校・帝京高卒業後にフットサルを始めた久光選手は、カスカヴェウ(現ペスカドーラ町田)でプレーした後に湘南へ移籍し、チームでキャプテンも務めた。また、2009年にはフットサル日本代表にも選出されてリビア遠征を戦っている。

 そんな久光選手の体に異常が見つかったのは、2012/2013シーズンの開幕前だった。シーズン開幕に向けてFリーグに登録する全選手が受けるメディカルチェックで、肺がんが見つかったのだ。胸部の骨の下で育ったがん細胞は、かなり大きくなっていたため、その時点で根治することは不可能だった。

 余命宣告を受けることを拒否した久光選手は、その後、自身に合った治療法を探りながら、現在も抗がん剤を毎日投与してプレーを続けている。がんとの闘病だけでも健康な人よりも体力を消耗するはずだ。フットサルは交代が自由にできる競技とはいえ、トップアスリートとしてプレーを続けるのは、並大抵のことではない。

 病気と闘い、フットサル選手とプレーする久光選手は、さらに「フットサルリボン」という団体を立ち上げた。この団体は、小児がん患者を支援すること、一般の人にがん検診を受けるように勧めること、そしてがんになった人たちに希望を持ってもらうことを目的に、様々な活動をしている。

 この活動を知り、何か一緒にできないかと申し出た人がいた。フットサルをプレーしたいという思いを持った人たちを集め、プレーする機会をつくる「ソーサル」という団体の代表である中島涼輔さんだ。自身もFリーグの試合を見に行くことがあるという中島さんは、いつかFリーガーと一緒にイベントをしたいと考えていた。そして、フットサルリボンに問い合わせたところ、久光選手も「がんを経験した人たちが一般の人たちと一緒にプレーできる場をつくりたい」と同意し、フットサルリボンとソーサルで、フットサルをプレーする合同イベントを行うことが決まった。

 7,000人以上が会員登録をしているという「ソーサル」では12名の参加者を募集したところ、「募集を開始してから、あっという間に定員に達した」(中島さん)と、大きな反応があり18歳から20歳前半の若者を中心とした人たちが集まった。また、「フットサルリボン」も、がんになった経験のある人たちの参加を募ったところ、3名が集まった。さらに久光選手が親交のあるFリーガーに声をかけたところ、藤原潤選手(バルドラール浦安)、ボラ選手、岡村康平選手(ともにフウガドールすみだ)、そして元Fリーガーであり久光の実弟である久光邦光さんが、協力をしてくれることになった。

一緒にプレーし、違いを見せたFリーガー

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 こうして4月23日、フットサルポイントSALU池袋で、「フットサルリボン」と「ソーサル」の合同イベントが行われることになった。イベントに参加したのは男性10名、女性5名。最初の1時間半は、Fリーガーと参加者を合わせた全員が4つのチームに分かれてゲームを行い、残りの30分はFリーガーチームを一つつくり、参加者を3つのチームに分けて、Fリーガーチームと対戦する形で行われた。

 イベントでは、昨年夏に行われたFリーグオールスターでもMVPに輝いたボラ選手が、持ち前のテクニックを見せつけて参加者を沸かせ、日本代表GK藤原選手はフィールドプレーヤーとしてプレーし、普段とは違う一面を見せた。逆に今オフに湘南からすみだへ移籍した岡村選手は、GKとしてゴールを守り、ボールを投げる際にはボールを上空に投げる「スカイツリーパス」を投じて、新天地に馴染んでいることをアピールしていた。試合の待ち時間に久光選手は、慰問先の子供たちから送られた手紙を紹介するなど、自身の行っているフットサルリボン活動の説明をし、時間を有効に使っていた。

 今回のイベントを通じて久光選手は、がんの啓蒙活動や患者支援といったフットサルリボンの活動だけではなく、Fリーグを盛り上げることも意識していた。自身の所属する湘南の選手ではなく、イベント開催地である池袋に近いすみだ、浦安の所属選手を集めたのは、「Fリーグにも足を運びたいと思ってもらう機会にしたかった」という意図があったからだ。ソーサル代表の中島さんは「もともとソーサルは、フレンドリーな人が集まっていたのですが、Fリーグの選手たちもすごく楽しませてくれて盛り上がりました。また2回目、3回目を開催していきたいです」と、今後も継続的にFリーガーとのイベントを組んでいきたい意向を語った。

 このイベントを最も楽しんでいた人に送られるMVPに選出された参加者の栗原岳靖さんは、「イベントは楽しかったです。Fリーグは昨シーズン、3回くらい見に行きました。選手たちと一緒にプレーして、あらためて本気でプレーしている姿を見たくなりました」と、笑顔を見せた。

 久光選手も「ああやって若い人たちがフットサルをプレーするのを楽しんでいるのを見て、フットサルは良いスポーツだなとあらためて感じました。また、がんを経験した人たちも若い人たちとプレーできてよかったです。協力してくれたFリーガーも一緒に楽しみ、盛り上げてくれました。参加者のみんなが笑顔になっていましたし、『またFリーグを見に行きます!』と言ってくれたり、SNSを通じてメッセージももらえました。ボラがテクニックを見せてくれたことで、『試合を見たくなった』と多くの人が言ってくれましたが、プレーをする楽しみを大事にする一方で、こうして本物の競技としてトッププレーヤーのプレーを体感してもらうことに意味があると思いますし、今日の参加者たちとまたFリーグが行われるアリーナで会えるのが楽しみです」と、第1回のイベントに好感触を得た様子だった。

 フットサルはプレーするスポーツとして定着しているが、見るスポーツとしてはまだまだ認知されていないという課題を持つ。今回の「フットサルリボン」と「ソーサル」が刻んだ第一歩は、その隔たりを超える一つのきっかけやヒントになりそうだ。

河合拓

著者プロフィール 河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。