2年おきに開催する同大会は、2020年大会が新型コロナウイルスの影響で中止となり、4年ぶりの開催となる。日本代表は2012年大会、2014年大会を連覇して以来の3大会ぶり4回目の優勝を目指している。昨年のワールドカップ終了後に木暮賢一郎監督が就任し、20歳前後の若手選手たちが代表に抜擢されている。今大会では、登録メンバー14人の中に、20歳の金澤空(かなざわそら)と18歳の原田快(はらだこころ)がいる。共にドリブルが得意な活きのいい若手だ。金澤は韓国戦でゴールを決めるなど活躍を見せているが、もう一人の期待の高校3年・原田は、ここまで出場時間が少ない。ただ、原田の持つ才能と個性は、決勝トーナメントを勝ち上がっていく上で必要になるはず。

 金澤と原田について、筆者が取材したアジアカップ前に行われた9月15日(島根)と18日(愛知)のブラジルとの親善試合から紹介したい。

ブラジル監督にインパクトを与えた金澤空

 2年半ぶりの日本国内での代表戦だったが、世界最高峰のチームを相手にいずれも1対5で敗れた。

 ピト、マテウスら世界屈指の選手たちが揃うブラジルは、巧みな技と華麗なシュートテクニックで日本のゴールネットを簡単に揺らしていった。守備でも日本になかなか攻撃の糸口を与えてくれなかった。数少ない攻め手の一つになっていたのが金澤だった。165cmと小柄だが、ボールを持つと一瞬のスピードでブラジルの選手を抜き去るなど、臆せずにプレー。相手もファウル覚悟で金澤のドリブルを止めていた。ブラジルの監督は会見で印象に残った選手について質問されると、「名前はわからないが、7番(金澤)」と答えるほどだった。

 金澤自身も「全く通用しないというのはなかったので、少し自信になった」と手応えを感じていた。

撮影:大塚淳史

 所属する立川アスレティックでは、一瞬のスピードで縦に抜くドリブルで観客を魅了しているが、この親善試合では守備でも奮闘する姿を見せていた。

「試合でやりあった(ブラジル代表の)マテウスを見ていると、僕がやられたみたいに、突破してからも決めきられるというのが、(守備で)対峙していてすごく怖かった。逆に、自分もそういう相手に怖さを与えられるようになりたい。相手が強くなったら守備の時間が増える。本当に守備も頑張らないといけない。でも、攻撃の質をもっと上げれば、攻撃の時間を長くすることで守備の時間も短くなる。難しいことだけど、しっかり守備で足を使って頑張っていきたい」

フットサル界期待の高校3年生

 一方、原田快は父親が元フットサル日本代表の健司さんで、親子2代での代表選手となった期待の18歳。現在通信制高校の3年生。金澤と同じくドリブルを得意とし、足技やシュートテクニックも兼ね備える。Fリーグでもゴールを決めるなど活躍し、この8月にはペスカドーラ町田からスペインの名門FCバルセロナに、Bチームではあるが移籍を果たしている。Aチームにはブラジル代表のピトらがいる。

 原田は足技をベースに相手との駆け引き、味方との連携を上手く使いながらゴールに迫る。小学生の頃から海外の大会で得点王を取り、2018年にスペインで行われた大会でMVPと得点王を獲得するなど、早くから注目されていた。高校2年だった昨年、ペスカドーラ町田でトップチームに昇格し、リーグ戦でもゴールするなど存在感を見せていた。

 ブラジルとの2連戦では守備力がまだ弱いということもあってか、出場時間は短かった。ただ、出場した時はサイドでボールを受けてから、ドリブルを仕掛けたり、中へ切り込んでシュートを狙うなどブラジル相手でも臆せずにプレーしていた。

 出場時間の少なさに不満を感じているかなと質問してみたところ、そこは冷静に自分の置かれている状況を理解していた。

「(もっと)出たかったけど、ぐれさん(木暮監督)が多分俺を使ったら失点する可能性が高いということが使わなかった理由だと思う。3セット回しで出られるような選手に早くなりたい。ピト、マテウスとかのプレーを見たり、コート上で1対1をしたりして、やっぱり上手い。上には上がいるのがわかった」

 Fリーグの試合ではもう少し思い切ったプレーをしていたが、やはりブラジル相手だとそうもいかなかったという。

「ドリブルして点を決めきるのが俺の仕事だった。それができなかったのが悔しい。後ろの位置からドリブルをしていたので、カウンターが怖かった。特に1試合目で、俺のシュートが弱いとわかり、(GKに)取られちゃう。このレベルだとキャッチされてカウンターくらってしまう。もっと近づいて打ちたいなとは思っていたけど近づけなかった」(原田)

 とはいえ、原田のプレーが萎縮していたかというと、そうではなく、ボールを持っている時に一回り以上体の大きいブラジルの選手たちが奪いに来ても、体を当てられながらも上手にキープするなど堂々とプレーしていた。

撮影:大塚淳史

 原田は関西出身だからなのか物おじしない性格で、金澤とは3学年離れているが、よく絡んでいた。全体練習の合間に、2人で1対1の勝負をするなど仲が良い。

 「快(原田)はいつもついて来るんで(笑)。コミュニケーションもよく取るし、(プレースタイルの)フィーリングも合いますね」と金澤が言えば、原田も「(今春の)UAE遠征の時から一緒に出て、5月のマレーシアであったアジアカップ予選でもずっと一緒に出ている。俺と空(金澤)が出たらサイドで1対1。(やっぱり感性があう?)そうですね。慣れているからやりやすい」と話していた。

 アジアカップでは今のところ、二人そろって出場する機会は少ない。決勝トーナメントでは、攻撃を活性化したい時に、同時起用もあるだろう。両サイドからドリブルを次々と仕掛けるワクワクさせられるシーンが見られるかもしれない。

なぜ日本対ブラジルは島根で?実は初の代表戦開催

 ところで、9月にあった親善試合2試合の開催発表時、疑問を感じたのが「なぜ島根?」ということだった。愛知県はまだ名古屋オーシャンズというFリーグ最強チームがあるし、都市部ということで開催は理解できる。日本サッカー協会(JFA)が各都道府県協会に募集を通知し、島根県協会が手を挙げて選ばれたという経緯だというが。

 フットサル日本代表の国内での試合は、コロナ禍の影響で2年半ぶり。コロナ前もほぼ毎年2試合しか開催されてこなかった。しかもブラジル代表はドル箱カード。松江での第1戦はチケット完売で1,684人だった。2試合の内1試合でも東京で開催すれば、少なくとも4,000人以上は来場し、協会もチケット収入が見込めただろう。

 ただ、今回は島根におけるサッカーやフットサルの普及宣伝も兼ねていたという。実は島根県ではサッカーなど含めても、これまで日本代表の試合が行われたことがなかった。今回はまさに初開催。8月30日に代表メンバーの発表会見の際、北澤豪フットサル委員長はこう発言していた。

「全てのカテゴリーの中でも初めて行われる地域。お待たせした。(代表戦を)見た時の印象は子ども達にとって大きい。そのインパクトによって、大きな夢を持って、始めてみようというところの地域が広がることが大事。島根の皆さんにはもちろん、中国地方の皆さんに特に関心を持ってもらうのは、普及発展の目線ではやっていきたいこと」

撮影:大塚淳史

 実際、9月15日に試合会場の松江市総合体育館で、客席に座る人達に話を聞いてみると、その意義を実感させられた。

「初めて日本代表の試合を見る。JリーグやFリーグ(浜田市にチームはあるが、松江から車で数時間)を見る機会がなく、いつもスマホで見ていた」(松江市在住の中学生と小学生の兄弟)

「鳥取県倉吉市から車に乗って観戦に来た。山陰地方は日本代表の試合が見られる機会がなかったので、今回松江で開催してくれて嬉しかった。これまでは広島や神戸まで行って観戦してました」(倉吉市在住30代男性と小学生の息子)

 来場者は島根県在住者が多かったが、やはり鳥取を含めて山陰地方には大きなインパクトだったのは確かだろう。

 さらには、大会運営のオペレーションを完遂できたことが重要だ。なかなか大規模スポーツイベントを開催する機会のない島根県でも、地元スタッフが運営を経験したことで、今後同様の国際親善試合を開催しやすくなったはずだ。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。