タイで開催されたクラブ世界一決定戦

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フットサルのクラブ世界一を決めるワールドインターコンチネンタルカップが、2年ぶりに開催された。この大会は1997年にブラジルのポルトアレグレで第1回大会が行われ、過去17大会が開催されてきた。本来であれば毎年開催される大会なのだが、フットサルはマイナースポーツであり、大会の開催に協力してくれるスポンサーが見つからない年は、開催できていない。2年前にはカタールのドーハで開催されたが、昨年はスポンサーが見つからずに行われず、今年2年ぶりに開催されることとなった。

開催地に立候補したタイは、フットサル人気が年々高まっている。同国の代表チームは00年のグアテマラ大会から5大会連続でフットサルW杯に連続出場をしており、12年のタイ大会、16年のコロンビア大会では、2大会連続でベスト16に進出している。そして、今大会を開催する最大の要因でもあるのが、同国の強豪クラブ、チョンブリ・ブルーウェーブが17年に開催されたAFCフットサルクラブ選手権を制し、アジア王者になったことだ。資金力のあるオーナーが、アジア王者になったクラブをバックアップし、今年から20年までの3年間、ワールドインターコンチネンタルカップの開催に名乗り出たのだ。

こうして開催されることとなった大会には、フットサル史上最高の名手であるファルカンを擁する前回王者のマグヌス・フットサル(ブラジル)、過去に2度の欧州制覇を果たしているバルセロナ(スペイン)、2017年にコパ・リベルタドーレスカップを制したカルロス・バルボーザ(ブラジル)といった、世界のフットサルをリードするクラブが集まった。

6クラブを2つに分けて行われた1次ラウンドでは、強豪クラブが順当に勝ち点を集めた。グループAでは、現在ブラジルの全国リーグでも首位に立っているカルロス・バルボーザが完成度の高さを見せて2連勝。地元の大声援を受けるチョンブリは、初戦を苦しみながらクラブ・アトレティコ・ロサンゼルス・フットサル(赤道ギニア)に逆転勝利。一時は0-3とされたカルロス・バルボーザ戦も、終盤に2点を返して1点差の接戦に持ち込み、2位通過を果たした。

グループBの第3節では、大会連覇を目指すマグヌスとバルセロナが対戦。マグヌスは組織だった戦いを見せるバルセロナを相手に我慢の試合を強いられる。それでも、かつて日本でもプレーした経験のあるロシア代表のエデル・リマが、プレーが切れた瞬間にマークが緩んだのを逃さず、キックインから豪快なボレーを決めて1-0で勝利。グループBの首位に立った。このエデル・リマが決めたシュートは、大会後にはベストゴールに選出されている。

前回王者を追い詰めたアジア王者チョンブリ

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フットサルW杯では、強豪国が絞り込まれる準々決勝以降からの戦いは、試合のレベルが一気に高くなる。この大会でも、タイトル獲得が近付いた決勝トーナメントの戦いの緊迫感は、1次ラウンドとは別物となった。

準決勝の第1試合、カルロス・バルボーザとバルセロナの一戦で先手を取ったのはバルセロナ。前半15分に左サイドからカットインしたディエゴのシュートが決まり、1点をリードする。カルロス・バルボーザはGKも攻め上がり、数的優位を作りながらシュートを放っていったが、同点に追いつけずに前半を終えた。

後半もバルセロナは追加点を狙いに攻める。しかし、ブラジル代表FPフェラオのシュートがGKジャンカルロ・ラモスに阻まれるなど、2点目を決めきれない。時間の経過とともに、カルロス・バルボーザが攻め込む時間を増やしていく。バルセロナの所属するスペインリーグはシーズン開幕前であり、徐々にコンディションやチームの完成度の差が出始める。カルロス・バルボーザは後半7分にショートカウンターから同点に追いつくと、その後も前線からのプレスでボールを奪い、チャンスをつくっていく。相手のビルドアップの連係ミスからブラジル代表ヴァウジンが逆転ゴールを決めると、試合終了間際にもGKを攻撃参加させるパワープレーを仕掛けてきたバルセロナから、ボールを奪ってダメ押しの3点目を挙げた。

もう一つの準決勝には、1万人を超える観衆が地元のチョンブリの応援に駆け付けた。ホームの雰囲気の中で、アジア王者のチョンブリは見事な戦いぶりを見せる。先を読んだ守備で相手を圧迫し続け、簡単にプレーをさせない。しかしチャンスを作りながらもエースのスパウットがブレーキになり、なかなかゴールを挙げられなかった。

チョンブリは、試合巧者の前回王者に先制点を決められる苦しい展開になるが、相手のミスを誘うと、成長著しいロナチャイが同点ゴールを挙げる。その後、再びセットプレーからマグヌスに勝ち越しゴールを決められたが、相手のバックパスで得た間接FKからキャプテンのクリッサダがゴールを決め、再び同点に追いついた。これで勢いづいたチョンブリは、前半のうちにナタブットがショートカウンターから逆転ゴールを決めると、会場は熱狂に包まれた。

前半を3-2とリードして折り返したチョンブリは、勝利を予感させる戦いを見せていた。しかし、守備の要であり、鋭い攻め上がりで攻撃にも絡む、チームの要のブラジル人選手のシャパが前半途中で負傷してしまう。それでもGKカタウットの好守もあり、リードを保っていたチョンブリだったが、勝利まで残り5分を切ったところで同点に追いつかれる。ゴールを決めたのは、生ける伝説ファルカンだった。かつて04年のフットサルW杯で、タイ代表を相手にGKをヒールリフトで抜き去るスーパーゴールを決めたブラジルの英雄も41歳となり、全盛期のスピードやキレは見られない。それでも技術は衰えることなく、再現性の高さからセットプレーやパワープレーでは、脅威となっていた。このときもパワープレーで、針の穴を通すような正確なシュートをDFの股下からゴールへ突き刺している。

エースのゴールで追いついたマグヌスは、その後もGKを加えたパワープレーを続けてチャンスをつくり、左サイドにこぼれたボールをロドリゴが1タッチで中央に入れると、マルケスがゴールに蹴り込み、再びリードを奪った。結局、このゴールが決勝点となり、マグヌスが2大会連続の決勝へ、駒を進めた。

ブラジル対決となった決勝戦

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マグヌスとカルロス・バルボーザというブラジルのクラブ同士による決勝戦は、手堅い試合となった。ここまでの勝ち上がりを見れば、カルロス・バルボーザの方が質の高いプレーを見せており、優位にあるかと思われた。しかし、相手のことをよく知るマグヌスは、ハーフまで引いた守備を見せ、最前線のピヴォの選手にボールが入ると2人で挟み込んでプレーをさせない。敵陣まで押し込みながら、ボールを縦に入れられなくなったカルロス・バルボーザの攻撃が機能不全に陥ると、マグヌスは一気のカウンターでチャンスをつくり出す。前半3分にはゴール前で数的優位をつくり、レアンドロが先制点を挙げる。

流れの中で、思うようにチャンスをつくれなかったカルロス・バルボーザは、パワープレーからチャンスをつくろうとする。しかし、ブラジル代表GKチアゴがことごとくシュートをブロックして、得点を許さない。後半18分にはカルロス・バルボーザのブルーノ・ソウザがこの試合2度目の警告を受けて退場となる。それでも攻めなければいけないカルロス・バルボーザに対し、マグヌスはカウンターを仕掛け、近くスペインリーグのインテルに移籍するマルケスがダメ押しゴールを決めた。

このままマグヌスが2-1で勝利。これまでのキャリアで、ほぼすべてのタイトルを手にしていたファルカンは、今季限りでの現役引退が濃厚であり、キャリア最後となる国際大会で得た優勝を喜び、チームメイトやチームスタッフと抱き合いながら男泣きした。

決勝の前に行われた3位決定戦では、バルセロナがゴールラッシュを見せて12-2でチョンブリに勝利。最後は大差をつけられて敗れたチョンブリだが、今大会でマグヌス、カルロス・バルボーザ、バルセロナという世界有数のクラブと真剣勝負ができた経験は、大きなプラスになるだろう。中心選手の高齢化が進み、守備の中心となるフィクソの台頭に欠けるチョンブリだが、今後はブラジル人選手のシャパを帰化させる動きもある。この大会で得られる経験は非常に大きく、選手が得られる刺激は計り知れないものがある。今後もタイ、そしてアジアを代表するクラブとして活躍を続けそうだ。

来年、再来年もタイで開催されることが決まっている今大会。主催者側には来年は規模を拡大し、参戦チームを8か9に増やしたい意向があるようだ。開催地枠でタイのチョンブリ、そして「フットサルの普及・発展に大きな可能性を広げるクラブ」(ハビエル・ロサーノLNFS会長)として、バルセロナの参戦がすでに決定しているという。また、2大会連続優勝のマグヌスも3大会連続の出場に前向きだ。現時点ではFIFA主催のクラブ王者決定戦が行われていないが、もし開催されるとなった場合は、この大会がベースとなっていくだろう。2020年までの大会開催が約束された今、そこで繰り広げられるハイレベルな戦いはもちろんだが、大会自体がどこまで整備されていくかに、世界中のフットサル関係者が大きな期待を寄せている。

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河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。