建設時から「五輪後」を不安視されていた長野のスパイラル

「ボブスレー・リュージュスパイラルパーク」、通称“スパイラル”は、2007年からナショナルトレーニングセンターの施設として指定を受けたことで、約1億円の補助金を得られるようになった。だが、建設からの年月が経つにつれ、維持費もふくらみ、1年で約2億円を要するようになっていた。

 5年ほど前に訪ねたことがあるが、たしかに老朽化が進んでいる感は否めなかった。それは利用者の少なさを示してもいた。もっと活況を呈していれば、ここまで傷んだ感じはしないだろうと感じさせた。今後も維持管理費の赤字は毎年持続する。なくなるわけではないが、その額を縮小するための措置だった。
 
 もともと建設時から、五輪後に関して不安視する声はあった。競技人口が少ないからだ。そのため、レジャー用のソリを用いての集客など、活用手段を模索はしていた。ただ、危険性などから実現することはかなわず、赤字を積み重ねる羽目に陥った。
 
 ただ、スパイラルだけが問題であるわけではない。長野五輪・パラリンピックのとき、長野市ではスパイラルも含め、6競技会場が新設された。長野市による建設費の支払いは、今年度でようやく終わる見込みだ。20年にわたる返済もさることながら、施設利用などで得られる収入を差し引くと、維持管理費は毎年約9億円ほどと言われている。つまり、スパイラルの赤字が縮小しても、維持管理費の負担は一定の規模で続いていくのが現状である。

東京五輪の競技施設6つのうち、5つが赤字見込み

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 長野五輪の施設の状況は、2020年の東京五輪・パラリンピック後に競技会場の行く末についての懸念にもつながる。折りしも4月19日には、東京都が競技会場6施設についての大会後の運営計画を公表した。それによると、バレーボール、車椅子バスケットボール(決勝)の会場となる有明アリーナのみ黒字で、他の5つの施設は年間収支が赤字であると試算している。

 5施設の赤字の額はそれぞれ、競泳のアクアティクスセンターが6.4億円、カヌー・スラローム会場が1.9億円、ボートやカヌーの海の森水上競技場が1.6億円、大井ホッケー競技場が0.9億円、アーチェリーの会場が0.1億円との数字を出している。

 東京都と長野市では自治体としての財政規模は大きく異なるから、負担の重さの度合いもまた違う。とはいえ、毎年赤字が続くようなら、五輪後、先行きが危ぶまれてもおかしくはない。

 それは財政負担であるとともに、競技にも影響を及ぼす。スパイラルは、のちに五輪種目となったスケルトンも含め、3種目の練習、大会の拠点であったが、実はスパイラル以外に、これらの競技のための競技施設は国内にはない。つまり、唯一の拠点を失ったのである。強化にしろ育成にしろ、大きな打撃となる。五輪開催および会場建設を契機に、競技の発展へとつなげることはできなかった。

 東京の競技会場も、順調に運営していくことができれば当該競技の発展に寄与することができる一方で、運営が困難になれば、競技の基盤を崩しかねない。そういう面を考えても、大会後にどのように活用し運営していくのか、甘い見通しではなく厳しく捉えた上で、課題があれば打開していく策を打ち出さなければならない。


松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。