文=池田敏明

打順を無視しても、バレなければOK

 競技を面白くするか、つまらなくするか。そのカギを握る要素の一つがルールだ。各競技はそれぞれルールを持っており、時代とともに改正されていく。メジャーリーグ(MLB)では、今年から「敬遠申告制」という新たなルールが導入された。相手打者を敬遠したい時、申告すればピッチャーが4球投げなくても四球が成立するというルールだ。

「敬遠申告制」の新ルールが、セントルイスで行われた開幕戦のカージナルス-カブスで初めて適用された。カージナルスの九回一死二塁の攻撃で打者・モリーナを迎えた場面でカブスのマドン監督が球審に敬遠の意図を伝え、投球せずに打者は一塁に歩いた。
カージナルス-カブス戦で「敬遠申告制」初適用 - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)

 これは試合を円滑に進めるためのルール改正だが、各競技には「どうしてそうなったの?」、「なんでそうする必要があるの?」という“珍ルール”がいくつも存在する。各メディアに何度も取り上げられ、意外と有名な珍ルールには以下のようなものがある。

●まわしが外れたら負け(相撲)
前褌(まえみつ)が外れて局部が露わになった力士は“不浄負け”となる。過去に2度、実現している。

●試合の時には白いハンカチを携帯する(アマチュアレスリング)
出血した際に素早く止血できるよう、マットに上がる際に審判に提示し、シンクレットの中に入れてから試合に臨む。

●ビキニの側幅は7センチ以下(ビーチバレー女子)
両サイドの部分が極端に細くなっているのは、ルールでそう規定されているから。「7センチ以上」ではなく「7センチ以下」。さらに細くしてもOKということだ。

 MLBで敬遠申告制が適用された野球にも、理不尽とも思えるルールが存在する。

●一方のチームが9人未満になった場合、相手チームの勝ちとなる。
サッカーは「最低7人」、ラグビーは「5人でスクラムが組めればOK」など、既定より選手の数が少なくても試合を行えるが、野球は1人でも欠けると、その時点で負けとなる。外野手2人、内野手3人などでも何とかなりそうだし、その気になればピッチャーとキャッチャーだけで試合を成立させることもできそうだが、決して認められない。

●打順の無視は、バレなければOK
下位打線になり、本来なら8番バッターの打順のところで4番バッターが何食わぬ顔で打席に入っても、審判はそれを咎めることができない。そして、ピッチャーがその打者に対して最初の投球をする前に相手チームがクレームを入れなければ、打席が成立する。フィールドプレーヤー9人、ベンチ入りの選手、監督やコーチ陣と、誰もが気づかないとはまず考えられないし、そもそもスポーツマンシップに反する行為だが、どうしても1点が欲しい場面では、試そうと思えば試せる。

 野球のルールは非常に細かく多岐にわたるので、細かく見ていけば不可思議な規則がもっと出てくるかもしれない。

“刀を落とすことは死”……剣道の過酷なルール

©Getty Images

 これまであまり取り上げられていないが、競技者が「がんじがらめ」にされるルールが複数存在する競技がある。それは剣道だ。

 剣道は基本的に3本勝負で行われ、2本先取したほうが勝ちになるのだが、反則行為がいくつか設定されており、反則を2回犯すと相手に1本が与えられる。そして、その反則がなかなか厳しい。

●両手から竹刀が離れたら反則
元々、侍どうしが真剣で斬り合っていたことを考えると、刀を落とすことが死を意味することは理解できる。しかし、一方が竹刀を落とした際、相手は一太刀だけ浴びせることができる上、落としたほうが「真剣白刃取り」などしようものなら「竹刀の刃部に触れてはいけない」というルールが適用されてさらなる反則が科されてしまう。ちなみに、実力差があれば自分の竹刀で相手の竹刀を巻き込んで弾き飛ばし、反則を誘うこともできる。

●場外に出たら反則
試合は9~11メートル四方のコートで行われるが、そのコートから片足が出ると反則が科せられる。流れの中で場外に出た場合、試合が中断して中央に戻るだけの柔道やアマチュアレスリングとは大違いで、コートの中だけで試合を完結させなければならない。剣道には相手と接近した「つばぜり合い」の状態から下がりながら放つ技もあるが、その際に下がりすぎて場外に出ると、有無を言わさず反則になってしまう。また、相撲の「押し出し」のような形は認められていないが、体当たりやつば競り合いからの一押しで相手を場外に弾き出すのは可。強い選手はそこを逆手にとって相手の場外反則を誘い、試合を優勢に進めることもできる。

 そして試合進行に関しても、過酷なルールが課せられる。

●勝負が決しない場合は時間無制限一本勝負
日本一の剣士を決める全日本剣道選手権大会では、試合時間の5分(準々決勝以降は10分)で決着がつかない場合は、プロレスよろしく時間無制限一本勝負となる。柔道のような判定勝ちや優勢勝ちはなく、どちらかが1本を取るまで延々と試合が続く。こうなると、もはや精神力の戦い。ほんの一瞬の気の緩みが敗北につながる。

 ルールがよく分からない競技はどうしても見るのを敬遠してしまいがちになるが、こういった不可解なルールをきっかけに少しでも興味を持ち、実際に観戦する機会があった際には、一つのポイントとして見ていただければ幸いだ。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。