文=松原孝臣

似たような道を辿ってきたふたりが元気な姿を見せた

 競技生活には限りがある。いつかは、一線から退かなければならないときが来る。だから、ある時期になると、進退を取り沙汰されるときが来る。本人の意思にかかわらず。

 4月13日から16日にかけて競泳の日本選手権が行なわれた。大会では、池江璃花子が女子史上初の5冠を達成し、萩野公介、瀬戸大也らリオデジャネイロ五輪でメダルを獲得した選手たちも成果を残した。

 彼らもさることながら、印象的だったのが、入江陵介と鈴木聡美だった。ふたりは似たような道をたどって、元気な姿を見せた。

 入江は、最初の種目となった100mの予選を1位で通過すると、決勝では後半にトップに立ち、53秒46で4連覇を達成。派遣標準記録も突破(競泳の代表選考では、基準となるタイムが設定されており、それをクリアすることが代表になるための条件の1つとなっている)、世界選手権代表入りを決める。200mでは萩野に次ぐ2位で11連覇こそならなかったものの、やはり派遣標準を突破して世界選手権代表となった。

 鈴木は、初日の100m決勝で2位となり、派遣標準記録も突破する。50mでは派遣標準突破はならなかったものの、日本新記録を達成。最終日の200mでも派遣標準を突破して2位となり、この種目でも世界選手権代表となった。100mでは予選で昨シーズンのベストタイムを上回り、200mは昨年の日本選手権は6位であったことを見ても、よいレースだったと言える。

やり尽したと思えるところまで取り組んでこそ、悔いを残さずにいられる

©Getty Images

 入江は現在27歳。2度目のオリンピック出場だった2012年のロンドン五輪で、200mとメドレーリレーで銀、100mで銅メダルを獲得。その後、故障などに苦しめられながらも乗り越えて臨んだリオデジャネイロ五輪では、100mで7位、200mは8位、メドレーリレーでも5位に終わった。200mのあと、入江は言った。

「この1、2年、賞味期限切れなのかなと思うこともありました」

 進退を問われると、こう答えた。

「今はまだ答えられません」

 鈴木は26歳になる。初めてのオリンピックとなったロンドン五輪では、100mで銅、200mでは銀、メドレーリレーでも銅メダルを獲得。個人種目で複数のメダルを獲得するのも、3つのメダルを獲得するのも日本女子では初めてのことだった。その後、日本代表落ちするなどしたが、昨シーズン復活し、リオデジャネイロ五輪代表の座をつかんだ。迎えた大会では100mでは準決勝敗退に終わり、涙ぐんだ。

 入江同様、鈴木もまた、その進退をささやかれもした。ともに、すでにオリンピックでメダルを手にした選手であり、ベテランの域に達してもいる。競泳における競技人生を踏まえても、退くとしても不思議はない……だから取り沙汰されたのだろう。

 そんな2人の、レース後に浮かべたのは笑顔だった。やめていたら、きっと味わえなかったであろう喜びがそこにあった。あらためて思う。周囲の思惑は、周囲の視線はどうあれ、自分がどうしたいかを決めるのは自分自身でしかない。納得が行くところまで、やり尽したと思えるところまで取り組んでこそ、悔いを残さずにいられる。

 入江と鈴木の笑顔はそう語っているようでもあり、まだ尽きることのない競技への意欲をも物語っているようだった。そしてそこには、充実感のようなものすら感じられた。

松原孝臣

著者プロフィール 松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。