文=菊地高弘

シートノックから際立つ猛烈なスローイング

 東京六大学リーグの試合前、いつもシートノックで立教大のライトに目が釘付けになっていた。

 本当に同じボールを使っているのかと勘ぐりたくなるようなエネルギッシュなボールが、その右腕から放たれる。遠投距離は125メートルを計測するというが、単純に「肩が強い」というだけでなく、この選手が内蔵する馬力の強さを感じさせた。

 そのライトこそ、田中和基。楽天から3位指名された強肩外野手だ。

 田中は高校時代、福岡県内で進学校として名高い西南学院高で3年間を過ごした。野球部としての実績はなく、立教大には指定校推薦で進学している。そんな無名な存在が東京六大学の名門で2年秋から定位置をつかみ、3年秋のシーズンには打率.353、4本塁打と結果を残した。4年時からはプロ入りへのアピールのため、高校時代に取り組んでいたスイッチヒッターに再挑戦。春秋ともに打率は2割台と芳しくなかったが、左右両打席で本塁打を放ってみせた。

 多くのメディアは田中のことを、「走攻守三拍子揃った外野手」と報じる。そのことに異論はないのだが、頭に「粗削りだが」という但し書きが必要だろう。

 特に打撃面は、とてつもない飛距離の打球を放つ日もあれば、見ていて何も感じない内容の薄い凡打を重ねる日もある。大学リーグ通算記録で安打数が50本なのに対して、喫した三振数が54と上回っているところにも、田中の粗さが表れている。

プロの指導者から「鍛えがいがある」と思われるタイプ

©共同通信

 田中の打撃を見ていると、左右両打席ともボールを迎える形が一定していない点が目につく。タイミングがしっかり合えば、強く振れるだけの馬力はあるだけに猛烈な打球が飛んでいく。だが、ボールを待つ形が安定しないため、対応できる投球の幅が狭く、緩急にもろさが見える。つまり、現状では「出合い頭の一発」しか期待できないのだ。

 守備、走塁もスピードや肩の強さはあっても洗練されていない印象で、細かな部分の技術はこれから勉強が必要だろう。だが、裏を返せばそれだけ成長の余地があるとも言えるのだ。

 ある球団のスカウトが、こんなことを言っていた。

「いますぐ使えそうな小器用な選手よりも、教えたら使えるようになるスケールのある選手のほうが魅力を感じます」

 田中は完全に後者のタイプ。また、プロの指導者に「鍛えがいがある」と思わせるだけの潜在能力がある。プロで身体能力の高さを生かすだけの技術が身につけば、近い将来、楽天の外野陣の一角を担える存在になるに違いない。

 センター・オコエ瑠偉、ライト・田中和基――。いずれそんな外野陣が形成されたなら、きっと楽天はいま以上にお客を呼べるチームになるだろう。

(著者プロフィール)
菊地高弘
1982年、東京都生まれ。雑誌『野球小僧』『野球太郎』編集部勤務を経てフリーランスに。野球部研究家「菊地選手」としても活動し、著書に『野球部あるある』シリーズ(集英社/既刊3巻)がある。


BBCrix編集部