文=久保弘毅
打者を見て投げられる 根拠と再現性のある駆け引き
2016年の都市対抗野球で有吉優樹は西部ガスの補強選手に選ばれ、7月20日に行われた初戦・対日本通運戦の先発を任された。179cm79kgの数字以上にずんぐりした体型で、球速は140キロ前半。パッと見ではまず目立たない。ボールの質は悪くないが、当時で大卒4年目の26歳。社会人でもまれた投手らしい雰囲気はあっても、プロでとなると少々歳を食っている。良くも悪くも、「社会人にありがちな右の好投手」という第一印象だった。
しかし、有吉の投球を見ているうちに考えが変わってくる。「上(プロ)でも意外とやれるんじゃないか?」と思わせるような、駆け引きの巧さがあったからだ。右打者ならカットボール、左打者ならチェンジアップを織り交ぜ、丁寧に外にボールを集める。打者が外を意識してつま先重心になってきたら、ストレートで懐を攻める。内角をひとつ見せた後も安直に外に投げるのではなく、打者が踏み込んできそうな雰囲気を察知して、もうひとつ懐にズドンと続ける。まさに王道の駆け引き。有吉の投球からは、1球ごとに「そこに投げる理由」が伝わってくる。マスクを被る金澤達弘のリードもあるだろうが、打ち取ったときに「うん、そうだよね」と思わずつぶやきたくなるような説得力が、有吉の投球から感じられた。
かつての伊藤義弘のような 手薄な中継ぎ陣を支える存在に
©共同通信 抑えるときの理由がわかれば、打たれるときの理由もわかる。対する日本通運の4番で2017年のドラフト候補・北川利生に右中間へ本塁打を打たれたのは、懐を狙った球が甘くなったから。7回に同点にされたきっかけは、決めにいった外のチェンジアップが少し内に入ったから。球質は重そうでも、ストライクゾーンでねじ伏せられるような絶対的なボールはない。それでも丁寧に両サイドを突く投球は、中継ぎの1イニングで戦力になるだろう。右と左の違いはあるとはいえ、相手を見て投げる姿はロッテ時代の成瀬善久にも似ている。
ロッテの右の中継ぎには南昌輝、内竜也、大谷智久らがいるが、2年続けて南が好成績をあげられる保証はなく、内や大谷が去年のようにシーズン途中で離脱する可能性も考えられる。西野勇士が先発に回れば、益田直也がクローザーに繰り上がり、中継ぎがさらに手薄になる。そこを有吉でカバーできたら、ロッテも年間通して戦える中継ぎ陣を構成できる。それこそ、昨年限りで引退した伊藤義弘のような役回りで、一軍で40試合ぐらい投げてくれたら合格点ではないだろうか。投手陣にへばりが見える夏場に、「有吉がいてくれて、良かった」と思える場面が何度も出てくると、勝手ながら予想している。
(著者プロフィール)
久保弘毅
1971年、奈良県生まれ。地方局のアナウンサーで実況などを担当した後、フリーのスポーツライターに転身。アマチュア野球とハンドボールを中心に活動している。神奈川大学野球リーグの取材は会社員時代を含めて20年以上。フリーになってから社会人野球の奥深さに目覚め、地方大会にも足を運ぶようになった。