文=久保弘毅

アウトの打球を確実にアウトにして ヒット性の当たりもアウトにしてしまう

 以前、とある大学のコーチがショートについて興味深い話をしていた。その大学にはふたりの上手いショートがいて、最終学年ではふたりで三遊間を守っていた。彼らの名前を仮にAとBとしよう。Aは打力も兼ね備えた、野球をよく知っていると評判の選手。Bは小柄で俊敏だが、上のレベルでやるには打力が足りない地味な選手。Aの方が話題にのぼりがちだが、そのコーチの評価は違った。

「Aはアウトの打球を確実にアウトにしてくれる。でもそれだけ。Bはセーフになりそうな打球でもアウトにできる。やっぱりショートはそれくらいでないと」

 堅実なのは当たり前。ヒット性の当たりをもぎ取るぐらいのサプライズがないと、ショートは務まらないのだろう。事実、最後のシーズンではBの方がショートを守っていた。このときのコーチの言葉は、わたしにとってショートを見るための重要な指標となった。

 この観点から、昨年のドラフトで高評価だった3人のショートを比較すると、違いが良くわかる。吉川尚輝(巨人)はアクロバティックだが、たまに練習もしていないようなプレーでイージーミスをしてしまう。とっさの動きができるのは魅力だが、確実性、再現性という点では少し物足りない。京田陽太(中日)はスピードに依存せず、しっかりと股を割ってゴロを捕れる。どちらかと言えば堅実寄りのプレースタイルになる。そして源田壮亮は、両方の要素を兼ね備えている。股を割って基本に忠実な捕球もできれば、とっさのプレーも軽やかにこなす。アウトの打球を確実にアウトにできて、なおかつヒットをアウトにできる、本物のショートストップだ。

守備専門の選手がいても許される環境で 出場機会を得るうちに成長していく可能性も

©共同通信

 源田がすごいのは、とっさのプレーをアドリブで片付けるのではなく、想定して準備しているところにある。とある地方球場での試合で、源田はイニング間にファーストが転がす球を色んなバリエーションで捕球していた。土のグラウンドで基本通り股を割って捕るだけでなく、逆シングルで捕ってみたり、時には右手でのベアハンド(素手での捕球)も試したりしていた。想定外のプレーにも再現性を求めるあたりは、大学生のショートと意識が違う。間一髪のプレーでも、源田からするとアウトの打球をアウトにしただけなのかもしれない。

 ここ数年、西武のショートは固定されていない。2016年シーズンは呉念庭、鬼崎裕司、永江恭平らで争ったが、決め手に欠ける。それでも12球団屈指の重量打線だから、9番ショートで源田を使っても、さほどマイナスにならない。むしろ守りの面でのプラスの方が大きいと思われる。さすがに炭谷銀仁朗と源田が並ぶと、自動的にアウトふたつを献上してしまうことになりかねないが……今季からは強打の森友哉がマスクを被る機会が増えるという。キャッチャー森は、源田にとって最高の追い風になるかもしれない。
 
 トヨタ自動車での打順はずっと9番。「バッティングはちょっと……」と自信なさげな表情を浮かべて、レフトへの流し打ちとセーフティーバントに徹していた。しかし脚力とバネがあるので、プロで数多く打席に立つうちに化ける可能性はある。右方向にも強く引っ張れるようになったら、ショートのレギュラーは源田で決まりだろう。

(著者プロフィール)
久保弘毅
1971年、奈良県生まれ。地方局のアナウンサーで実況などを担当した後、フリーのスポーツライターに転身。アマチュア野球とハンドボールを中心に活動している。神奈川大学野球リーグの取材は会社員時代を含めて20年以上。フリーになってから社会人野球の奥深さに目覚め、地方大会にも足を運ぶようになった。


BBCrix編集部