文=石塚隆

調子の上がらないレギュラーを信じつづける

「できれば貯金を5にして交流戦に突入したい」

 横浜DeNAベイスターズのラミレス監督は、これからはじまるセ・パ交流戦に向け抱負を語る。2年目を迎える指揮官としては、セリーグ不利と言われる交流戦をなんとか5割で抜け、より厳しい戦いを強いられる夏場を迎えたいといった狙いがある。

 現在DeNAは、約40試合を戦いBクラスに甘んじている状況。勝率5割に届くか届かないかのラインで足踏み状態がつづいている。

 チーム打率.241、防御率4.06(以下、数字は5月19日現在)は、ともにリーグ最下位であり、首脳陣の苦悩が伺われる。

 やはり打撃に関しては言うまでもなくキャプテンである筒香嘉智の不調によるところが大きい。ここまで打率.270、本塁打3、打点18は、やはり主砲としては物足りない。ラミレス監督は「筒香のことは心配していない。最終的には3割、30本、100打点してくれれば問題ない」と、絶対的な信頼を寄せているが、精神的支柱でもある筒香の調子が上がらないかぎりチームが浮上することは難しいだろう。

 そしてラミレス監督が不振にあえぎながらも我慢強く起用をつづけているのが昨年レギュラーを獲得したセンターの桑原将志とショートの倉本寿彦だ。守備ではそれなりに貢献している両者であるが、桑原は打率.204、出塁率.285と1番打者としては合格点とは言えない成績であり、現在9番を打つ倉本は一時の絶不調から抜け出しつつあるが、昨年の数字(.294)とくらべると打率.225は本調子でないことは間違いない。

 ラミレス監督はふたりについて「レギュラー選手を抜擢し、固定するということは、わたしとしても覚悟がいることです。状態は良くないかもしれませんが、彼らは熱心に練習をし、あらゆることにトライしている。わたしが嫌いなのは調子が悪いからといって下を向く選手。彼らは常に前を向いて努力をしています。信じていれば、きっとチームを優勝に導いてくれるはずです」と、確信を持った表情で語っている。

 これだと認めた選手は、最後まで信じ抜く――ラミレス監督は自身の任命責任も含め、常勝チームがそうであるように、揺るぎないチームの“核”を現在、批判を受けながらも粘り強く作っている。目の前の勝ちにこだわることはもちろん、今後常に優勝争いのできるチームを育て上げることがラミレス監督の命題である。ともすれば相反することを同時にやらなければならず、そのチームコントロールの複雑さは想像に難くない。

ラミレス監督の期待に応えたい選手たち

©共同通信

 一方投手陣を見ると、まず先発だが左のエースである石田健大が左肘の違和感で離脱し、期待されていた新外国人のクラインは制球などの課題と外国人枠の関係がありファーム暮らしがつづいていた。またローテーションを形成する井納翔一、今永昇太、新人の濱口遥大らが思うように勝てない状態がつづき、現在安定しているのは3勝を挙げている新外国人のウィーランドぐらいである。

 リリーバーを見ても、昨年フル回転しチームに貢献した須田幸太、田中健二朗、三上朋也らは本調子とはいえず、新守護神となったパットンは防御率4.19とクローザーになってから試合を壊すことが少なくない。

 これらを鑑みればチーム防御率がリーグ最下位だということも納得できるのだが、そのなかにあって輝きを見せているのが山﨑康晃と砂田毅樹である。

 山﨑は4月の阪神戦で2戦連続救援に失敗すると、すぐさまラミレス監督は、新守護神にパットンをあてた。そして山﨑は、勝ち継投の7回を任されるようになった。

 はたから見れば降格人事とも映る扱いだが、山﨑は決して悔しさを露わにすることなくラミレス監督との話し合いで納得し、前向きに中継ぎを務めた。ラミレス監督としては珍しいこの素早い判断は功を奏し、山﨑は配置転換後15試合を投げ防御率0.00と自信を取り戻している。

「もちろんクローザーにまた戻りたいという気持ちはありますが、ラミレス監督からは自分の足りない部分をしっかりと指摘していただいて、自分としてはそこをクリアできればもっと成長できるはずだと納得したんです。9回、7回、関係なく、どこで投げようが完璧な準備し、しっかりと監督に言い渡された務めを果たしたい」

 山﨑は、成長を促してくれたラミレス監督との約束を守るかのように奮闘した。そして20日の巨人戦では不調のパットンにとって代わりクローザーに復活。一安打を浴びたが、ダブルプレーを誘い三者に切って取り、横浜スタジアムに詰めかけた大勢のファンへ向けその成長した雄姿を見せつけた。

 そして育成上がりの4年目の砂田は、昨年の夏から中継ぎに転向して適性を見せると、今シーズンは19試合を投げ防御率1.20と好投している。脱力した美しいフォームから放たれるボールはリリースのタイミングが絶妙で打者からすると非常に打ちにくい。さらに昨年よりも球威を増したストレートを恐れずインサイドに投げ込み追い込むと、抜群の切れを持つスライダーとカーブで三振、あるいは凡打を誘う。現在は左打者に対するワンポイントの起用が多いが、先発経験があるのでいざとなればイニングまたぎをすることも可能であり、いまやチームにとってなくてはならない存在になっている。

 この砂田を精神面で支えているのもラミレス監督の言葉だという。

「昨年の奄美秋季キャンプで『左の中継ぎであれば君はトップを取れる実力があるから頑張って欲しい』と言われ、嬉しかったのを覚えています」

 そして今年はオープン戦で芳しい結果を出せず開幕一軍が危ぶまれたが、砂田は開幕の前日練習で次のようなことをラミレス監督に言われたという。

「『これまでの結果は気にしていない。君が公式戦になったらやってくれるのはわかっている』と、声をかけてくれたんです。それが自信になって、今は思い切ったピッチングができています」

 ラミレス監督は自分のことを、「データ重視の監督です」というが、本人や選手たちから聞こえてくる話を総括すると、やはり優れたモチベーターでもあると言えるだろう。

 打撃陣と投手陣が冷え込むなか、データと向き合いつつ難しい舵取りを強いられるラミレス監督だが、果たして“選手を信じる力”と“言葉力”でチームを浮上させることはできるのか。指揮官のモットーは「Tomorrow Is Another Day」(明日は明日の風が吹く)。常にポジティヴにチーム一丸となり、厳しいペナントレースを悲願の優勝に向け戦い抜く――。


石塚隆

1972年、神奈川県生まれ。スポーツを中心に幅広い分野で活動するフリーランスライター。『週刊プレイボーイ』『Spoltiva』『Number』『ベースボールサミット』などに寄稿している。