文=平野貴也

監督が要求した世界基準への対応

 積み上げて来た手応えと、わずかな隙が命取りになるリスクが見えた。U-20ワールドカップ(20日開幕、韓国)に出場するU-20日本代表は15日、エコパスタジアムでU-20ホンジュラス代表と練習試合を行い、3-2で勝利した(45分×2本の後に行われた30分1本のゲームも日本が1-0で勝利)。得点は、PKを含めていずれもセットプレーだったが、エースFW小川航基(磐田)がコーナーキックからヘディングで先制点を奪い、主将の坂井大将(大分)が先制アシストに続き、PKで追加点をマークするなど主力選手が活躍。後半から配球を得意とするMF市丸瑞希をボランチに投入して攻撃のテンポを上げ、流れの中からチャンスを作った。堂安律(G大阪)、三好康児(川崎F)の両サイドMFが中央で近い距離に入ると、効果的な連係プレーが生まれた。MF遠藤渓太(横浜FM)やFW久保建英(FC東京U-18)といったジョーカー候補も途中出場でキレのあるプレーを披露。攻撃面では一定の手ごたえを残した。選手個々が持ち味を発揮しており、内山監督は「今日が良ければ良いわけではない。ただ、ある程度、予想内のものを彼らが出してくれるレベルに達して来ていることは嬉しい」と、安定して力を発揮できるチームになって来ている手ごたえを明かした。

 一方、失点は、ともにフィジカル能力に優れた相手のカウンターを受けたものだった。21日に迎える初戦の南アフリカ戦を想定した相手に、気を付けていた速攻で2点を奪われた守備面および試合の運び方には課題が残った。内山篤監督は、カウンターを受ける前のポジショニングや判断のミスに問題があると指摘した上で「彼らが日本では大丈夫と思うことが(世界の)スピードでは、まず難しい」と世界基準への対応を求めた。1点目は、日本のコーナーキックからのロングカウンター。カバーリングの予測が遅れ、あっという間に置き去りにされた。2点目は、ミスから中盤の奪い合いになり、右MF堂安律が中央でボールを持ったところをさらわれ、ショートカウンターで決められた。攻撃面で最も存在感を放っていた堂安だが、この場面に関しては「あれは、自分のミス。球際は、世界で戦う上で負けてはいけないところ。ロッカールームで映像を見たけど、前にクリアでも良かった。ああいうミスが失点につながる。ああいうのは『不運』ではないと思うので、しっかりしたいと思う」と反省を口にした。

 世界では、瞬間的な判断の遅れが失点につながる。1失点目は、カウンターへの反応が遅れた。さらに相手がドリブルで駆け上がった際、左DF舩木翔が追いついた時点で相手がスピードを落としてくれるかもしれないという淡い期待がないわけでもなかったが、あっさりとやられた。2失点目も、ルーズボールが多くなり、やや自陣で混戦気味という程度にも見える場面から、一気に決められた。判断に甘さが出た瞬間に、相手が想定を超えて行く戦いだ。特に2点目は、日本が先制した後、ホンジュラスが追いつき、勢いに乗っていた時間帯。相手が前線からボールを奪いに来ていたことを考えると、もう少しセーフティーに試合を進めるべきだったように思う。内山監督は「相手が勢いに乗っていた。一度、堂安が中に入ってやったけど、パスをボランチに付けて相手が前に来たら、意図的に前にボールを入れて前線に起点を作れば良い。相手が引いたなら、後ろからビルドアップをすれば良い。その辺の判断が、まだまだ。後半は改善できたと思うけど、そこも課題。後ろでキープを使って組み立てて行くこと(だけ)がビルドアップだと思っている部分がある。両方を使えないとダメ」と相手の変化に対応する力を求めた。

相手の良さを消すまで、自分たちの良さを出せるか

©共同通信

 一度逆転されても冷静に戦い、最終的に再逆転で勝利を収めたことは、たくましい一面だ。だが、最終調整試合は、今後の糧にするべく反省点に目を向けたい。連動性のある守備で積極的にボールを奪い、長短のパスを駆使してスペースを使いながら迫力のある攻撃を仕掛ける――それは、日本の理想だが、ただ理想を押し付けるだけでは結果を導くのは難しい。日本の良さが出ると同時に、相手の良さが消えて行くのが本当の理想だ。同点に追いついて、これは行けると思ったホンジュラスに対し「前から奪いに行ったら背後が危なくなるから、やっぱり行けない」と思わせるしたたかさがほしい。守備もじっくり我慢する時間帯があって良い。相手の動きや試合展開を機敏に捉え、素早く判断しなければ、ほとんどの時間で良いプレーをしたのに、わずかな隙でやられたという展開に落としこまれてしまう。理屈にしてしまえば簡単に聞こえるが、ピッチレベルで体現できるのは、日の丸を背負う彼ら以外にいない。本戦になれば、選手のアンテナはより鋭く反応するに違いない。それでも初戦の南アフリカ、南米王者のウルグアイ、欧州の強豪イタリアとのスリリングなゲームを勝ち切るためには、瞬間的な甘さを限りなく削り取る機敏な判断を求めていかなくてはならない。

 U-20日本代表は、翌16日に国内での最終調整を行い、17日に渡韓の予定だ。大会2日目の21日にU-20南アフリカ代表との初戦を迎える。MF森島司(広島)が最終合宿で負傷して離脱(MF高木彰人が追加招集された)したアクシデントはあったが、調整は比較的順調に進んでいる。最後のテストマッチを終え、いよいよ本大会に向かう。日本の出場は4大会ぶり。先輩たちが苦しんだアジア予選で優勝という見事な答えを出した彼らにとって、さらなる未来を切り拓く大会になる。この大会に出られなかった16年の間に遂げた日本の進化を示し、彼らが中心となる2020年東京五輪、さらには未来の日本A代表の飛躍につなげてもらいたい。


平野貴也

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト『スポーツナビ』の編集記者を経て2008年からフリーライターへ転身する。主に育成年代のサッカーを取材しながら、バスケットボール、バドミントン、柔道など他競技への取材活動も精力的に行う。