文=Baseball Crix編集部
4月上旬に新人の加藤&床田がプロ初勝利!
2位の巨人に17.5ゲーム差をつけ、独走状態で25年ぶり優勝を果たした昨季の広島。チーム打率.272、同防御率3.20はともにリーグ1位。投打ともベテランと若手が融合し、チームバランスでも他球団を圧倒した。
連覇を狙う今季は、昨年限りで引退した黒田博樹の穴埋めが大きなテーマだった。ドラフトでは田中正義(ソフトバンク)と佐々木千隼(ロッテ)を抽選の末に外してしまったが、1位で慶応大の加藤拓也、2位で花咲徳栄高の高橋昂也、3位で中部学院大の床田寛樹らを獲得。上位3名はいずれも投手で、補強ポイントに見合った人材を新たに加えた。
即戦力として期待されていた大卒の加藤と床田は、キャンプ期間の練習試合、その後のオープン戦と、切磋琢磨するように好投を続けた。その結果、両投手とも開幕ローテーション入りを果たし、加藤は初登板であわやノーヒットノーランかという快投でプロ初勝利をマーク。床田も貴重な先発左腕として好投し、春先の10連勝に貢献した。
ニューフェイスの共闘に、岡田明丈、九里亜蓮らも追随。若手投手陣は好調な打線に引けをとらない活躍を見せ、メディアには「黒田の穴は埋まった!」「投手王国再来」などの見出しが躍った。
勢いは続かず……四球連発の大乱調、4戦連続でイニング途中に降板
©共同通信 ところが、若手の勢いは長続きしなかった。4月28日のDeNA戦では、4度目の先発となった加藤が大荒れで、自身最短となる3回2/3でKOされ3敗目。2日後の同カードでは九里が4回までに7点を失い、チームは今季2度目の2ケタ10失点を喫した。
そして5月5日からの阪神3連戦では、初戦に4点リードを逆転され5-8で敗戦。続く第2戦は一時9-0と大量リードを奪いながら、5回裏からまさかの12失点で阪神に首位の座を奪われた。球史に残る大逆転負けを喫した翌第3戦は、無抵抗のまま0-6で完封負け。この3試合は加藤、岡田、九里を先発させたが、3投手とも役目を果たせず、チームは2年ぶりの同一カード3連敗を喫した。
この3連戦は救援陣も崩れたが、原因は突然の乱調に陥った先発陣にあった。加藤と岡田は大量援護を得たにもかかわらず、それぞれ4回1/3、5回2/3で降板。第3戦の九里も5回1/3で降板し、イニング途中でリリーフを仰いだ。さらにこのカードの直前、5月4日の中日戦でも、大瀬良大地が5回1/3を投げ6失点で降板。つまり4日以降は4試合連続で先発がイニング途中に降板し、救援陣に負担をかけてしまっていた。
しかも5日、6日の阪神戦では、2試合とも中継ぎ投手がイニングを跨ぎ登板。指名打者制ではないセ・リーグでは、打順の兼ね合いもあり投手起用が難しい。先発陣の不調で継投策が前倒しになったことで、首脳陣の計算にも狂いが生じた。
引退年でも抜群の安定感を誇った黒田が緊急降板後に残した言葉
そこで、黒田博樹だ。レジェンド右腕の引退年の成績を振り返ると、改めて頼もしさが見えてくる。41歳にして10勝8敗、防御率3.09の安定感もさることながら、24度の先発登板で、イニング途中での降板は1度しかなかった。
メジャー時代は100球が交代目安だったためイニング途中での降板は多かったが、黒田は若手時代から完投意識が高く、広島復帰後も先発投手としての貢献度を示すクオリティースタート(6回以上、自責点3以内)達成率は、2015年が76.9%、2016年は66.7%と、最後までスターターとしての優良ぶりを示し続けた。
その意識の高さは、自身最後のマウンドに凝縮されていた。昨年の日本シリーズ第3戦、黒田は日本ハム打線を5回まで1失点に封じていたが、6回途中に両ふくらはぎの違和感を訴え、3番・大谷翔平を打ち取ったところで緊急降板。二死まで漕ぎつけ、あとひとり打ち取れば6回を投げ切れる状況。しかし、チームファーストのベテランは、「自分の判断で降板した。(4番の中田は)一発があるし、ランナーなしで次に任せた方が良い。迷惑は掛けられない」と、2番手・ヘーゲンズにバトンを渡した。
黒田の背中を追う新エース・野村、若手は今後の変化に期待
今季の広島はジョンソンが開幕戦登板後に咽頭炎を発症し、1試合に先発しただけで出場登録を抹消された。そんな状況で投手陣をけん引しているのが、右のエース・野村祐輔。昨シーズン最多勝と最高勝率(16勝3敗)を獲得した右腕は、今季も4月4日の初登板からカード頭で腕を振り続け、快調に白星を重ねている。
投壊状態にあった5月上旬もただひとり安定感を失わず、昨季の黒田と同じようにしっかりイニングを投げ切り後続にバトンを渡している。
どん底状態を抜け出した感のある広島投手陣だが、未だに先発防御率3.93はリーグワーストだ。改めて日米通算203勝を挙げた黒田の偉大さを感じるシーズンとなっているが、そもそも若手先発に同じような働きを求めるのは酷な話。まずは各々が与えられた任務をまっとうし、後続投手が万全に近い状態で登板できる状況でマウンドを降りてほしい。
※数字はすべて5月18日終了時点