文=平野貴也

普段以上の集中力と体力が要求された舞台

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 東京五輪の前哨戦は、ラウンド16で幕を閉じた。2020年にU-23として東京五輪に臨む世代であるU-20日本代表は、30日にU-20ワールドカップの決勝トーナメント1回戦でベネズエラと対戦し、延長戦の末に0-1で敗れた。大会では、エースストライカーであり、前線の起点として機能していたFW小川航基(磐田)が第2戦で負傷離脱するという決定的な打撃を受けながら、当初の目標であったグループリーグ突破を達成。ベネズエラ戦は、狙い通りに終盤勝負に持ち込んで善戦したが、延長後半にセットプレーでゴールを奪われ、力尽きた。

 培ってきた力を出し切り、新たな課題を知る大会になった。内山篤監督は「2年半にわたって、判断材料を増やせということと、勝者のメンタリティと冷静な判断ということを言い続けて来ました。感情でプレーすることの多かった選手たちが、この大会では少し整理されて、少しずつ言葉の意味を分かって来てくれたんだなと思います。すべてに正解があるわけではないですが、この習慣を持っておくと、今後にも繋がっていくという話は(これから選手たちに)すると思います。東京五輪、その後の日本代表を含めてそうですね。的確な判断と常に強いメンタリティ。それが伴っていれば、必ず良くなります。確信を持っています」と大会を総括した。

 振り返れば、グループリーグの初戦では、失われた10年の影響が大きく出た。5大会ぶりにアジア予選を勝ち抜いた日本は、ワールドクラスのスピードに圧倒され、立ち上がりの失点で守備が混乱。経験値のなさが如実に表れた。それでも、慣れれば対応でき、逆転勝利に成功した(2-1で勝利)。落ち着いてボールを持てば、日本が近年注力して来たパスワークを基盤とする攻撃でチャンスを作れることは、敗れた第2戦のウルグアイ戦(0-2)や2点差から追いついた第3戦のイタリア戦(2-2)でも証明できた。また、アジア予選で無失点優勝を果たした守備陣がグループリーグ3試合で5失点と崩壊した点も、積極的なラインコントロールで修正。ベネズエラ戦は、4バックの安定感が善戦の要因となっていた。対世界の驚きを味わいながら、世界基準にフィットしていく順応性が見えた。

 ただし、普段以上の集中力と体力を要求される場となり、優位性を持って戦える時間が少なかった分、試合を重ねる毎にチーム力は確実に削られていった。連戦の疲労は、日数の違いはあるが、他チームも大差ない条件だ。大会の視察に訪れた日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長も「Jリーグで試合に出始めた選手たちは、通用する部分があったと思いますが、疲れてきてからはできなかった。私は、相手が先にバテるのではないかと期待していたが、日本も相当にバテていた。後半の終わり頃から延長戦にかけては、日本の良い所を出せなかった」とチームがガス欠状態に陥っていた印象を受けていた。

今回の経験を、どのように東京五輪につなげていくか

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 世界の強豪とは、エネルギーの使い方に違いがある。例えば、優勝候補であるウルグアイは、日本戦で立ち上がりに猛攻を仕掛けて先手を奪い、自らのペースで試合を進めた。そして、リードを生かして省エネモードで戦い、カウンターを狙って効率よく追加点を挙げた。対して、日本は試合の序盤から相手の対応に追われて体力を使い、不慣れなスピードへの対応に神経を使い、普段よりも早く消耗していった。DF杉岡大暉(湘南)は、第1戦、2戦と出番がなく、第3戦にフレッシュな状態で臨んだが、それでも「イタリア戦の後とかは筋肉痛も来ましたし、本当に強度が高い試合だと思います」と疲労感の違いを明かした。出場時間の長い主力は、ベネズエラ戦で完全に足が止まった。FW岩崎悠人(京都)、MF堂安律(G大阪)らは、大会を通して守備面でも貢献度が高かったが、その分、連戦の影響は大きく、精度を保つのに苦労した。

 指揮官は、今後の課題について「的確な判断力」というキーワードを挙げた。

「日本人はテクニックが優れていると言いますけど、間違った判断とそれに基づいた技術では(いけない)。この厳しいプレッシャーの中での的確な判断。それにプラスして、我々の組織力である、同じ絵を描いて共有すること。これをもっと早い年代から、ちゃんと世界で戦うイメージを持った上で、やっていく必要がある。世界の舞台に出ていく回数は、どうしても少ない。意識をより小さな年代から教えていかないといけない。もう1つ、2つ、ステージを上げていく。それは、我々の責任だとも思っています」(内山監督)

 世界大会における的確な状況判断は、世界で戦うためのフィジカルと、駆け引きの感覚を伴わなければ、実現できない。選手が意識を高めるだけでなく、それが日常となるように、リーグ全体のプレッシャーを世界基準に引き上げていくことも重要だ。最後のベネズエラ戦が接戦だったため、非常に惜しい終わり方になったが、結果を実力と受け止めて先に進まなければならない。得られた収穫を次に生かせるかどうかが大切になる。

 世界基準を肌身で感じた選手たちは、Jリーグなど普段の舞台で、個々に目指す基準が変わるに違いない。また、守備のリーダーとして活躍したDF中山雄太(柏)ら1997年の早生まれから、2001年生まれで最年少15歳の久保建英まで幅広い世代がプレーしたことでそれぞれが同学年に与える影響も期待できる。特に久保は、今年10月にインドで行われるU-17ワールドカップに出場する可能性がある。参加することになれば、久保自身がこの大会で感じた課題に取り組めるというだけでなく、世界で戦うために必要なことを仲間に還元できるチャンスにもなる。

 JFAの田嶋会長は「U-20でこの悔しさを得たことは、次の五輪、ワールドカップ予選に必ず生きて来る。それは、間違いない。本当に彼らが出てくれて良かったと思っています。この悔しさをJリーグでぜひぶつけてほしいし、もっと上手くなるんだと思ってくれないと、東京五輪もどうなるか分からない。アジアの大会で勝って(初優勝)、世界はもっと上だったわけでしょう。それを知ってくれた意義はとてつもなく大きいと思っています。これで発奮してくれなかったら先はないと思う」と大会を終えて自国開催の大舞台へ視線を切り替える選手たちに叱咤激励の言葉を贈った。韓国で得た経験が生きた――東京五輪では、そんな言葉が聞かれることを期待したい。


平野貴也

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト『スポーツナビ』の編集記者を経て2008年からフリーライターへ転身する。主に育成年代のサッカーを取材しながら、バスケットボール、バドミントン、柔道など他競技への取材活動も精力的に行う。