文=中島大輔

打点王獲得で内面に変化

 昨シーズン24本塁打を放った強打者だけに、今季4号となる通算100号本塁打を振り返った言葉には驚かされた。

「奇跡ですよ」

 報道陣の誰もが冗談だと受け止めるなか、西武の浅村栄斗は一呼吸置き、真意をこう明かしている。

「とにかく、今年はヒットをたくさん打つことに意識を変えています。これを機に、あまりオーバースイングにならないように。(今後も)いままで通りやりたいと思います」

 5月20日のソフトバンク戦で2回、2対1から試合の流れを大きく引き寄せる3ランについてそう振り返ると、翌日の第1打席では球場全体をどよめかせた。カード勝ち越しを懸けて迎えた初回、打点王争いでトップをひた走る浅村は、無死一、二塁から自らの意思でセーフティバントを試みたのだ。これが見事に決まり、続く中村剛也のショートゴロで先制点が入った。

「上の順位を相手に戦うわけなので、絶対勝たないといけない。あそこはゲッツーの可能性もあったので、自分がどうこうよりも、とにかく先制点、いい形で後ろにつなごうとやりました」

 高卒9年目の今季、浅村は辻発彦監督からキャプテンに任命された。20日の試合後、指揮官はこう称賛を送っている。

「チームを自分の背中で引っ張っています。無口な男ですけど、昨年までとは違ってケースにおいてチームバッティングに徹してくれたり、今日は久々に3ボールから“らしい”引っ張りのバッティングでホームランを打ってくれたり、頼もしいですね」

 プロ入り当初から、報道陣の前で多くを語るタイプではなかった。徐々に口数が多くなったのは、打点王に輝いた2013年シーズン以降だ。以前は「感覚なので」と自らの内面を表現することは少なかったものの、タイトル獲得で自信がついたのだろうか、筋を追って話すようになった。

 そうした浅村の変化を追っていくと、組織のなかで人を成長させる配置法や、リーダーを育てるための環境設定の重要さを見てとることができる。

セカンドは頭を使うポジション

©共同通信

「ファーストからセカンドになって目標としていました」

 昨季、二塁手のベストナインに選ばれると、浅村は喜びをそう表した。ショートとしてプロ入りし、ファースト、レフト、サードとさまざまなポジションを守るなか、二遊間へのこだわりを内に秘めていた。セカンドやショートは守備のうまい選手が守るポジションで、野球をはじめてからずっとそこを任されてきたたからだ。

 恵まれた身体能力と軽やかなステップワークを誇る浅村だが、スローイングに難を抱えていた。それを克服することができた裏には、ふたつの要因がある。

 ひとつは、二塁手というポジションの特殊性だ。

「いまも感覚で守ることを大事にしていますが、昔より頭を使うようになりました。セカンドは打球に応じてプレーが変わるので、状況判断や頭を使うことが昔よりできるようになったと思います」

 二塁手はあらゆるプレーでカバーリングにいく必要があり、外野の間を抜けた場合はカットプレーに入らなければならない。ゲッツーでサードやショートの送球を受ける際には、一塁手が見えないなかでプレーを行わなければならず、同時にランナーの動きも目に入りにくい。ゆえに、自分の感覚に落とし込むまでプレー精度を高める必要がある。そうした点を踏まえ、浅村は「セカンドはショートより難しい。キャッチャーの次に頭を使うポジション」だという。

 もともと打撃も守備も感覚的にプレーするタイプだが、セカンドを守ることでさまざまに考えるようになった。その成果のひとつが、昨季、二塁手としてリーグ最多の110回の併殺を記録したことに表れている。ゲッツーは、セカンドの肩が強く、素早く送球できなければとることはできない。さらに言えば、瞬時に思考を巡らせての決断も求められる。

「たとえばエンドランがかかった場面でも、ファーストランナーの足がそんなに速くない場合、このくらいのタイミングならセカンドに投げてもアウトになるとか、こういう打球が来たらこうしようとか、昔以上に考えていますね。バッターやランナーの能力、自分のポジショニングとか、本当にいろいろ頭に入れています」

“遊び感覚”と責任感

 セカンドにとって難しいプレーのひとつに、二遊間へのゴロがある。送球方向に対して“逆の動き”になるため、体幹の強さやバランス感覚を含めて高度な技術を要求される。

 浅村は自主トレから体幹を徹底的に鍛えることに加え、練習で意識的に取り組んでいるのが「遊び感覚」だ。捕球して上から投げるだけでなく、横、下、グラブトス、バックハンドなどの送球を、ときにジャンプイングスローを混ぜて楽しみながら行なっている。メキシコからやってきた名手ルイス・クルーズ(巨人)や、ベネズエラ人でメジャーリーグ屈指の二塁手ホセ・アルトゥーベ(アストロズ)のように、いわゆる“ラテン系”のプレーを見せているのだ。頭を使って野球を楽しむことこそ、上達の秘訣なのである。

 加えて、セカンドを守るようになった2014年からグローブにこだわるようになった。練習では試合用よりポケットの浅いものを使い、捕球してから素早く投げることを習慣づけることで意識と技術を高めてきた。

 持って生まれた感覚に頼るだけでなく、論理的にレベルアップを追求するようになったのは、プロでシーズンを重ねてきたことに関係がある。

「ずっと試合に出してもらっている以上、とれるアウトは絶対に取らないといけないという責任があります。ピッチャーが『これはゲッツーだ』と思った打球に対してゲッツーをとれないとか、そういうのは絶対にやってはいけない。“チームとして戦っている以上、感覚だけでやってはダメだな”と、ずっとセカンドを守って思うようになりました。自分だけのプレーじゃない、というか」

フルスイング封印の理由

 入団当時から全球フルスイングを繰り返してきた浅村は、強く振れることを“天性の才”と評価されてきた。いまも本人は「フルスイングを一番大事にしている」と言い切る。しかし近年、コンパクトなスイングを織り交ぜるようになり、とりわけ今季はその回数が増えている。

「ここは真っすぐで勝負してこない場面など、状況を見ればわかります。そこで無茶なスイングをすると打てないので、状況判断で軽打に切り替えていますね。決してフルスイングをしないという考えではないです。今年はとにかくヒットでランナーを還すという気持ちでやっています。それが自分の引き出しになれば、レベルもどんどん上がると思うし」

 試合後にそう語った20日のソフトバンク戦では、2回2死一、三塁で3ボールから144キロのストレートをフルスイングで打ちにいき、試合の流れを大きく引き寄せる本塁打を放った。

「3ボールというカウントだったので、強く振りにいきました。中途半端に行くカウントではないので。変化球で3つボールが続いていたので、(球種に関係なく)真ん中だけ狙っていました」

 交流戦前最後のソフトバンク戦は、初戦をエース・菊池雄星で落とした。相手は前年王者で、今季もここまでひとつ上の2位につけている。カードの残り2戦をなんとしてもとるために、浅村はコンパクトなスイングでのチャンスメイク、持ち味とする豪快な本塁打、チームを優先してのセーフティバントと打席や試合の状況に応じて結果に結びつけた。短期と中期の目標が明確だからこそ、いまなにをすべきかがわかっている。

「僕らはまずソフトバンクを倒さないと、順位を上げられない。毎年負け越して、負け越してがずっとなので。とにかくソフトバンク相手には、目の色変えてでもやらないといけないと思っています」

 身体能力と野球センスを備える男は近年、「チームのために」と考えることで己をレベルアップさせてきた。責任感と勝利への渇望。キャプテンマークを背負う今季、ふたつの気持ちがうまく交錯し、グラウンド上のプレーとして表れている。


中島大輔

1979年、埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材し、『日経産業新聞』『週刊プレイボーイ』『スポーツナビ』『ベースボールチャンネル』などに寄稿。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)がある。