文=手嶋真彦

特別強化指定の運動部のチームカラーをグリーンに統一

「僕自身が、アンダーアーマーをやたらと着用するようになりました(笑)」

 関東学院大学の副学長、小山嚴也(よしなり/写真右)のその一言が、取材の場を一気になごませた。2016年4月のアンダーアーマーとの包括的パートナーシップ契約締結から1年が過ぎ、どんな手応えや効果があったのか――。最初の質問で小山にそう訊ねると、返答の最後に自身の変化を持ち出し、こちらの緊張を解きほぐしてくれたのだ。

 アメリカの大手スポーツ用品ブランド、アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームと率先して手を組むパートナーシップの手始めに、関東学院大学は特別強化指定の3つの運動部を対象にチームカラーを統一し、エンブレムを一新。バラバラだったユニホームの色を同じグリーンで揃え、エンブレムは「K」の文字を大きく目立たせた。

「すごくホッとしたのは、駅伝の結果を受けてです。スポーツに関わる人には、験を担ぐところがあるじゃないですか。成績が悪くなったのはユニホームを変えたせいだと、そんな話にならなくてまずは良かったと」

 関東学院大学の2017年の箱根駅伝出場は叶わなかったが、予選会では15年秋の23位から16年秋は17位へと順位を上げている。なぜ、チームカラーとエンブレムを統一するのか――。OB向けの説明会は陸上競技部だけでなく、同じく特別強化部のラグビー部と硬式野球部でも事前に開いた。

「論理的に説明すれば、頭では分かってくれます。しかし、心の中の感情的な部分では納得しにくいところもあったでしょう」

 野球部のユニホームは白地に黒のストライプから一変して、新たにグリーンを基調とする大胆な変更だ。ラグビー部は1997年度からの10年間で大学日本一に6度輝いており、水色と紺色の横縞のジャージは誇らしい記憶と結びついている。チームカラーとエンブレムの統一から1年が過ぎ、小山は学内の変化をこう受け止めている。

「視覚的に慣れてきました。実際にユニホームを着ている選手たちだけでなく、とくにOBやOGが見慣れてきたようです。学校法人としても新たに歴史を作っていくというメッセージを込めたユニホームの変更統一でもありましたから、その強いインパクトのおかげで多くの人たちに見てもらえたのも大きかった」

 チームカラーとエンブレムの統一は、特別強化指定部以外のチームスポーツの運動部を中心に順次広げていくと言う。アメリカのカレッジスポーツマネジメントを意識しながら、スポーツを軸とした大学改革の旗を振る小山は、こんな手応えを感じているようだ。アンダーアーマーとのパートナーシップ契約の効果は、「じわりじわりと広がっています」

日本版NCAA創設の動きが追い風に

©手嶋真彦

松本直樹スポーツ振興課課長(左)、小山嚴也副学長(右)

 本格的に進めていく取り組みのひとつに、大学による各運動部の管理がある。この4月にはスポーツ振興課を新たに設け、特別強化部とそれに準じる強化クラブの各運動部にこれまでも提出させてきた会計帳簿の対象範囲を拡大する。悪意がないとはいえ、会計知識の不足やどんぶり勘定がトラブルの種となってきたからだ。

「運動部の活動資金は、大学からの助成金、後援会(父母会)からの支援、そして部員からの部費の3本柱です。今後は会計帳簿にこれまで把握できていなかった部費も加えて、お金の流れをさらに透明化していきます」

 小山が「マイナスをゼロに戻す」と表現するこうした取り組みには、スポーツを活用したパブリシティも含まれる。小山が目指しているのは、運動部の再強化をアカデミックな要素と結び付けた大学の認知度向上だ。

「スポーツを入口にして大学自体を知ってもらう。そこから入学したい学部や学びたい学問分野に、受験生が辿り着ける流れを作りたい」

 一時はラグビー部を筆頭とする体育会の印象が強くなりすぎ、関東学院大学がミッション系であるという事実の認識はその後も薄れたままだ。ラグビー部員が起こした07年の不祥事も、忘れるわけにはいかない。

「課外活動はひとつ歯車がおかしくなると、コントロールが効かなくなります」

 関東学院大学はその反省を踏まえ、学長を委員長とする「スポーツ振興委員会」を09年に立ち上げている。その意思決定機関で突き詰めてきたのが、「ゼミや研究室と同じような教育効果を持つ」各運動部の存在意義であり、パブリシティ、ロイヤルティ、エデュケーションの3つに認められる大学運動部の効果だった。スポーツ振興委員会の意思決定にはスピード感もある。そんな下地を整えていたからこそ、アンダーアーマーの日本総代理店であり、大学スポーツの価値をよく理解している株式会社ドームとの提携に、いち早く呼応できたのだろう。

 追い風となったのが、カレッジスポーツの振興とその統括組織となる日本版NCAAの創設を進める政府の動きだ。文部科学省やスポーツ庁の意向が関東学院大学スポーツ振興課新設の必要性に説得力をもたらしたと、同課課長の松本直樹(写真左)は振り返る。聞けば、松本自身はバリバリのアスリートだったわけでも、スポーツ分野のエキスパートだったわけでもないと言う。むしろ門外漢であるがゆえ、「言いにくいことも出てきます」と松本が予想する職務、すなわち当面は運動部管理の実務に適任という判断があったようだ。体育会とは何のしがらみもなく、小山とともにスポーツビジネスに関する政府の動向を熟知する松本に、白羽の矢が立ったのだ。

「ちなみに僕も、硬式野球部の副部長という立場ではありますが、個人的には体育会系ではありません」

 そう告白する小山は、関東学院大学のスポーツ全般を統括するアスレチック・デパートメント(大学体育局)の創設をすでに視野に入れている。ただし、大学スポーツの産業化、あるいはビジネス化については慎重に事を進めていく考えだ。

「ウチの大学だけ単独で突っ走っても、難しいところがありますから」

 学内合意の形成も、現時点では容易ではない。

「当面の課題をうまく解決できれば、収益事業のような部分にもより積極的にシフトしていけるのかもしれません。それでも、ここ1~2年のうちにというのは……」(松本)

 それではアンダーアーマーとのパートナーシップを、どう活かしていくつもりなのか。後編では、小山たちが思い描くビジョンと戦略を紹介しよう。小山の口から度々出てくるのが、「戦略的に」というキーワードだ。
(文中敬称略)

手嶋真彦

著者プロフィール 手嶋真彦

1967年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、新聞記者、4年間のイタリア留学を経て、海外サッカー専門誌『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を5年間務めたのち独立。スポーツは万人に勇気や希望をもたらし、人々を結び付け、成長させる。スポーツで人生や社会はより豊かになる。そう信じ、競技者、指導者、運営者、組織・企業等を取材・発信する。サッカーのFIFAワールドカップは94年、98年、02年、06年大会を現地で観戦・取材した。