文=向風見也

揺るがぬ“国技”への誇り・オールブラックス

©Getty Images

 2015年にイングランド開催された第8回ラグビー・ワールドカップでは、日本代表が史上初の3勝をマークして一大ブームを生んだ。アジアの市場拡大も目的となる2019年の日本大会においても当然活躍が期待されるが、そこには、世界の強豪が大きな壁として立ちはだかることになる。2年後、日本に乗り込んでくるラグビー界の“主役”たちを紹介しよう。

 南半球では、世界ランク1位のニュージーランド、同3位のオーストラリア、同7位のこと南アフリカと、ワールドカップ優勝経験国が3つも揃う。いずれも国家発展の過程で、ラグビー発祥国とされるイギリス連邦と強く結びついてきた。競技普及の礎ができるのは自然な流れだったと言える。

 3カ国の代表チームは、1996年からトライネーションズという対抗戦を毎年、開催。2012年からはこれをラグビーチャンピオンシップと名称変更し、同9位であるアルゼンチンの代表も交え計4チームでの総当たり戦を続けている。

 それと同じく南半球のラグビーを進化させたのが、国際プロリーグのスーパーラグビーだ。ラグビーユニオンと呼ばれる15人制のラグビーが「オープン化」(プロ選手容認)に踏み切った1995年の翌年、1996年に発足。今季はトライネーションズ勢から5チームずつ、アルゼンチンから1チームずつが参戦している。各国とも、代表強化のための装置としてこのリーグを活用している。

 この3カ国ないし4カ国による切磋琢磨は、互いのぶつかり合いの強度、ゲームスピードを高めた。2015年のワールドカップ第8回大会では上位4強を独占した。

 なかでもオールブラックスことニュージーランド代表は、ワールドカップで直近の2連覇を含め最多3度の優勝を誇る。好判断に基づくラン、パス、キックでスペースを切り裂く。試合前の見られる「ハカ」は迫力満点だ。
 
 この国で野球の普及に従事したある日本人アスリートは、球場に集まった子どもたちのカバンに楕円球が入っているのを見て驚いたという。ニュージーランドではラグビーは国技だ。

 国内の地域代表選手権で活躍した選手がスーパーラグビーのクラブへ引き上げられ、そのなかの実力者のみがオールブラックスになれる。それゆえオールブラックスの常連は、国内きってのセレブと見なされる。

 第8回大会の翌年の2016年も、大きく戦力を入れ替えながら選手層の厚さを示した。以前から続いたテストマッチの連勝を、18まで伸ばしている。

組織力のワラビーズと力勝負のスプリングボックス

©Getty Images

 オールブラックスと双璧をなすのが、ワラビーズことオーストラリア代表だ。こちらも国内の争いから選抜されたスーパーラグビープレーヤーを中心にメンバーが編成される(一部海外プロ選手も含まれる)。

 ワールドカップでは過去2度優勝。クリケットやリーグラグビー、独自のオージーボールなどさまざまな競技に人気が分かれる国内にあって、組織だった攻撃でファンを楽しませてきた。

 なおリーグラグビーとは、ユニオンラグビーの「オープン化」の前からプロの市場を開拓してきた13人制の競技である。加えてオージーボールは、オーストラリアで発展したエンターテインメント職の強いスポーツだ。キック、球に拳を当てるハンドボールという動きで攻めを展開する。

 歴史的に力勝負を好んできたのは、スプリングボックスこと南アフリカ代表だ。2015年の第8回大会では、それまで大会通算1勝だった日本代表に惜敗。しかしその後は、正面衝突を繰り返すスタイルで3位に躍り出た。国内のスーパーラグビーチームをはじめ、日本、フランスなどにも代表候補選手が散らばっている。

 この国ではスポーツが人種問題や政治と密接に関わっていて、スプリングボックスもその影響下にある。

 人種隔離政策のアパルトヘイトが廃止される1991年まで、ラグビーは「白人のスポーツ」とされてきた。それに対し現在の同国協会は、第9回大会時のスプリングボックスのうち5割を黒人選手にすると決めている。ちょうど過渡期にあるためか、2016年は4勝8敗と同国史上最低の成績に苦しんだ。それでもなお、大きな潜在能力を備えている。

日本代表の命運を握るロス・プーマスとアイランダー

©Getty Images

「ロス・プーマス」の愛称を持つアルゼンチン代表は、2007年の第6回大会(フランス)で初の3位。トップ集団のティア1に仲間入りした(ちなみにティアには他に南半球の北半球のイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、イタリア)。

 2016年からは、新たな強化機関を始動させた。スーパーラグビーへ参入したのだ。

 同時期に加わった日本のサンウルブズが代表の新ヘッドコーチ来日前に舵を切ったのに対し、アルゼンチンのジャガーズは代表のコーチだったラウール・ペレスをトップに配置。ジャガーズ入りが国内プロ選手になる唯一の方法だったこともあり、一貫した方針で代表候補を集めた。

 オフロードパス(タックルされながら球を繋ぐプレー)も利した大きな展開を目指し、それをロス・プーマスのプレースタイルに昇華させた。同年11月に東京・秩父宮ラグビー場であった日本代表戦では、敵地ながら54―20の大勝を決めた。

 また南半球には、アイランダーと呼ばれる環太平洋諸国も存在する。

 なかでも世界ランク10位のフィジーの代表チームは、身体が大きく足の速い選手が自在にパスをつなぐ戦いで「フィジアンマジック」と恐れられる。日本へ多くの留学生を輩出する同13位のトンガも、ワールドカップでは代表チームが何度も大物食いを実現。同14位のサモア代表とともに、身体の強さを活かして豪快に戦う。

 これまでち密な準備や献身ぶりで魅してきた日本代表は、歴史的にアイランダーを苦手としてきた。躍動した第8回大会ではサモア代表を26-5で制すも、現体制発足後の昨秋は、フィジー代表に28-35で屈した。

 第9回大会で日本代表の入った予選プールAには優勝経験国がないため、一部では「幸運な組み合わせ」と報じられた。しかし同組の「プレーオフ進出枠」には、オセアニア予選を戦うアイランダーが加わる公算が高い。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが楽観ムードにくぎを刺すのも、納得である。


向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、ラグビーのリポートやコラムを『ラグビーマガジン』や各種雑誌、ウェブサイトに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。