文=岩本勝暁

勝てる集団に変わりつつある全日本

 ド派手な初陣だった。6月9日から行われたFIVBワールドリーグ2017高崎大会で3連勝。日本は初戦のトルコ戦を3−1で勝つと、第2戦ではスタメン(リベロを除く)の6人が2メートルを越えるスロベニアに対して、高さで打ち勝った。相手にマッチポイントを与えてからの逆転劇に、高崎アリーナを埋めた6,500人の観衆が沸いた。

 最後の韓国戦も、ストレートで快勝した。人身事故を起こして活動を自粛していた中垣内祐一監督の初采配だったが、周囲の不安もどこ吹く風。会心のスタートを切った。

 遡ること一年前、リオデジャネイロ五輪の世界最終予選は2勝しかできなかった。8チーム中7位と惨敗した。あれから1年、なぜ日本は勝てる集団に変わったのか。選手の言葉を紐解いていくと、日本がこれから目指すべきスタイルがおぼろげながら見えてくる。

 まずはサーブだ。圧巻だったのが、第2戦のスロベニア戦である。フルセットにもつれ込んだ第5セット。スコアボードの数字は、13−14でスロベニアのマッチポイントを指していた。ここで柳田将洋にサーブが回ってきた。相手に1点を与えたら、その時点で試合が終わる。緊張を強いられる場面で、背番号「8」は渾身の力で右腕を振り抜いた。相手のコートにただ入れておくだけの安全策ではない。リスクを負って、思い切り攻めた。「打つしかない」。覚悟と勇気が集約されたサーブが、相手の腕を弾き跳ばした。

 これで14−14。とんでもない強心臓の持ち主だ。次のサーブでも相手を吹き飛ばし、連続サービスエースで15−14。一度はサイドアウトを切られたが、最後は山田脩造が連続で決めてフルセットの接戦を締めくくった。試合後の柳田は、「高さとパワーがある相手に、どう戦うかが課題だった。サーブとブロックがうまくかみ合った」と手応えを口にした。

 サーブレシーブにも変化があった。ポイントは、相手のフローターサーブを、オーバーハンドで返球していたことだ。両腕の面でボールをとらえるアンダーハンドに比べて、指先でボールをコントロールできるオーバーハンドは安定感が増す。選手に意識づけをしているのが、新たに加入したコーチのフィリップ・ブランだ。「ブランコーチからオーバーで返すことを薦められていて、それがしっくりきている」と柳田。リベロの鶴田大樹も「オーバーの方が計算しやすく、返球率も高い」と言う。

「フローターサーブに対しては、オーバーハンドで返す方が安定するというのが世界でも主流になっています。ボールがつかめるので、変化にも対応しやすい。たしかに、僕の中ではそれまで、リベロは後ろで広い範囲を守るというイメージでした。でも、ブランコーチのやり方は、(サーブレシーブをするウイングスパイカーを含め)3人が前に詰めてオーバーで取る。最初はすごく驚きでした」

 それでも、所属するサントリーサンバーズではウイングスパイカーも経験している鶴田にとって、ブランコーチの要求に応えるのはそれほど難しいことではなかった。

「もともとオーバーハンドでパスをするのは得意なほうでした。前に詰めていけるので、僕としてはありがたい。ただし、ウイングスパイカーは後衛の時、パイプ(センター付近からのバックアタック)も打たなければいけません。オーバーハンドで取ろうとすると前に詰めるので、その分、助走が取れなくなるんです。その点では(他のウイングスパイカーは)悩んでいる部分があるかもしれないですね。そこは僕が、もうちょっとカバーしてあげなければいけないと思っています」

 オーバーハンドでサーブレシーブをするメリットは他にもある。たとえば、ボールをヒットする位置がやや前方になるため、ボールが変化する前に触れることだ。さらに、オーバーハンドのほうが次の動作に移りやすく、レシーブした選手がスムーズに攻撃に参加できる。当然のことながら、スパイカーは1人よりも3〜4人いたほうが、相手のブロッカーは的を絞りにくい。

 その攻撃の舵を握るのが、セッターの藤井直伸だ。V・プレミアリーグ2016/17を制した東レに所属。チームでも武器にしているミドルブロッカーの速攻を軸に、攻撃を組み立てた。同じ東レの李博とのコンビネーションも抜群だった。Bクイックで何度も得点を奪った。ただの速い速攻ではない。高さがあった。「速さと高さ、そこは意識しています」と李。藤井も「あの攻撃は、相手にとって嫌なオプションだと思います。それがうまく機能したおかげで、サイドが1枚になるシチュエーションもありましたから」と自信を深めている。

 ブロックも、ブランコーチの指導で改善されている。「試合を重ねるごとに、どういう手の出し方をすればいいのかが少しずつわかってきた」。こう言うのは、スロベニア戦で4本のブロックポイントを稼ぎ出した李だ。

「手の出し方はけっこう言われますね。まず、流れて出すなと言われる。(隣のブロッカーとの)間が空いても、まっすぐに手を出せ、と。その方が、レシーバーがポジションを取りやすいんです。逆に斜めに手を出すと、レシーバーが(どこにポジションを取ればいいのか)迷う。だから、まっすぐ出すことを意識しています」

 象徴的だったのが、韓国戦の第2セット中盤だ。ラリーの中で、李がレフト側からやや体勢を崩しながらスパイクを打った。その直後だった。ライト側に移動しながらも、相手のスパイクに対してまっすぐ手を出した。体は流れていなかった。クロスに放たれた相手のスパイクは李の左手に当たり、真下に落ちた。会心のガッツポーズだった。

世界と戦ううえで大切な“逃げない勇気”

©共同通信

 新戦力の台頭も忘れてはいけない。オポジットの大竹壱青は21歳の大学4年生。身長202センチの高い打点から繰り出されるパワフルなスパイクが魅力だ。韓国戦では、ライトから放ったスパイクが相手ブロッカーの頭に当たり、ボールは天井付近まで高く舞い上がった。

 日本は長い間、清水邦広がこのポジションを努めていた。大会によっては他の選手がオポジットに入ることはあったが、大きな大会になるとやはり清水がコートに立っていた。しかし、この不動のポジションも、その序列が変わろうとしている。中垣内監督は「清水の可能性を消したわけではない」としながらも、世代交代を示唆した。

「大竹が大きく変わったのは、イタリアに行ってから(練習生として約1カ月、イタリアで武者修行)。選手にはぐっと伸びる時期があります。彼は今、そのゾーンに入ったと思っています。清水が故障していたということもありますが、大竹をオポジットとして日本の柱にしていくという決断にいたりました。大砲という言葉がピッタリで、ハンマースイングの持ち主。アメリカのスタンリーのようなオポジットに育ってほしいですね」

 韓国戦のあとの会見でこう語った中垣内監督。アメリカを2008年北京五輪の金メダルに導いたオポジット、クレイトン・スタンリーを引き合いに出して期待を寄せた。

 果たして日本はこれから、どんなバレーを目指していくのか。「ブランコーチからは速さと言われている。そこを求めていきたいし、中垣内監督もそういうことを求めてくると思う。それに近づけるように頑張りたい」と話すのは石川祐希だ。

 たしかに今大会には、いくつかのエクスキューズがあった。FIVBワールドリーグ2017は36チームが1〜3部にグループ分けされており、日本が戦っているのは2部に相当する。つまり、ここでいくら白星を重ねても、上のグループにはさらに強い12チームが存在するということだ。トルコもスロベニアも弱いチームではなかったが、荒さがあった。脆さもあった。さらに日本には、ホームの大歓声が味方した。そう考えると、相手にセットを与えたトルコ、スロベニア戦は、日本にも詰めの甘さがあったと言わざるを得ない。

 しかし、3日というわずかな期間で、チームの戦い方がおぼろげながらに見えてきた。勝つことの喜びも知った。そして、世界と戦っていくうえで何よりも大切な“逃げない勇気”を手に入れた。こればかりは、いくら練習しても身につけられるものではない。その意味では、3連勝したことが、最大の収穫と言えるだろう。

 FIVBワールドリーグ2017はこのあと、6月16日からの中国大会と、勝ち上がれば6月24日からのファイナル4がある。そして7月12日からは、オーストラリアのキャンベラで、2018世界選手権のアジア最終予選が開催される。前回の世界選手権を逃している日本にとっては、今シーズンの中でもっとも重要な大会だ。

 錨(いかり)は上げられた。少しばかり遅くなってしまったが、針路も決まった。いよいよ出航の時である。

岩本勝暁

著者プロフィール 岩本勝暁

1972年生まれ。大阪府出身。2002年にフリーランスのスポーツライターとなり、バレーボール、ビーチバレーボール、サッカー、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオデジャネイロ大会まで、夏季オリンピックを4大会連続で現地取材する。