新チーム名「大阪ブルテオン」はあっという間に浸透

 チーム名が「大阪ブルテオン」と新しくなって2カ月が過ぎた。チーム名やシンプルでスタイリッシュなチームロゴなど、パナソニック パンサーズ時代からのファンの間でも、すっかり浸透しているように見える。久保田社長も実感しているという。

「SNSを見ていると、『違和感ある…』みたいな反応はたまに見かけますが、『昔の方が呼びやすかった』とかはほとんどなくなってきている。むしろ、“ブルテ”と略していただいて当たり前のように語られており、すごく嬉しい。受け入れがとても早い。丁度オリンピックもあって、今新規のお客さんも増えてきているので、スッと入ってきているのかもしれない」

 リブランディング直後の7月頃からもっと前面に大阪ブルテオンをアピールするのが理想だが、まだ大きく打ち出せてはいないという。

「例えば、『こうチーム名が変わりました!』と発表した翌日から、鉄道(使った宣伝とか)の広告やホームページが一気にブルテオンに変わるようなことはできていません。数日前(8月下旬)に、ようやく京阪電鉄の最寄り駅とかが変わり始めました。これは、多くの選手が日本代表に選ばれてVリーグ終了直後から代表活動に参加していることから、宣材写真でさえも撮りきれないという、当チームならではの状況があるからです。この辺り、ファンの方々は理解していただいていると感じます。9月頭からようやく撮影に取り掛かれています」

 とはいえ、イベントやテレビ出演などはそれなりの件数をこなしている。パリ五輪の日本代表選手以外で、チーム活動に参加できる選手たちが、大阪ブルテオンのアピールをしている。9月1日にあった、バスケットボールBリーグ・大阪エヴェッサの新体制発表会では、パナソニック スポーツがエヴェッサと共創パートナーを締結していることもあって、エバデダン・ラリー選手と西川馨太郎選手が参加。SVリーグの試合の宣伝や、ブルテオンポーズを交えたショートコントで大爆笑を起こし、十分に大阪ブルテオンをアピールできていた。

 リブランディングに対する前面打ち出しは、SVリーグの開幕前から本格化していくことになるだろうが、久保田社長は現在気に掛けているのは、まずチケッティング。

「認知を広げるのもありますが、まずリーグ開幕を前にして具体的にチケットを売らないといけない。そっちにも視線を向けなきゃいけないから、あまり焦らずにリブランディングへの取り組みをしようと思っている」

どうやったらバレーで稼げるか?そのために必要な「仕組みと装置」

 久保田社長が担うミッションの一つが、どうやったら稼げる様にできるか。常々バレーはチャンスがあると話しているが、そのために必要なことが「仕組みと装置」という。それはガンバ大阪の状況においても見て取れる。

 ガンバ大阪のホームスタジアムである「パナソニック スタジアム 吹田」は2015年9月に竣工し、2016年から本格稼働している。4万人が入るサッカー専用スタジアムで、今シーズンは多くの試合で観客数2万〜3万人台を集めている。

 スタジアムはガンバ大阪が主体となった団体が建設し、完成後に吹田市に寄附。そして、ガンバ大阪が指定管理者として運営をおこなっているが、スタジアムを構えきれなかったクラブに比べ、収益面で違いが出ているという。

「ガンバは、外部収入、つまり母体企業以外の収入も多い。スポンサー料、入場料、飲食代などマッチデーインカムが見込めるため、チーム単独で自主独立できている。こうなるには条件があって、それが『仕組みと装置』です。仕組みとはリーグ戦の試合数とか、サラリーキャップ、選手の保有人数の制限といったもの。財務破綻しないよう気を付けながら、ルールの公平性を守りつつ、試合を増やして収入につなげる仕組みを作る。もうひとつが、アリーナ、スタジアム(=装置)を作ること。装置がない状態で、いきなりプロ(プロリーグ、プロチーム)になっても稼げない。バスケがBリーグとなって苦労したことの一つがこれ。チームごとの装置が十分整っていなかったからだと思っています」

毎試合満席状態で既に機会損失状態

 大阪ブルテオンは自前のパナソニック アリーナを持っているが、悩みを抱えている。観客3000人収容可能だが、昨シーズンのVリーグではホームゲームは毎試合満席状態。観戦したくてもチケットが買えない状況が多発していた。

「今シーズンも席数を増やす努力をしたが大きな改善は出来ず、また買えない人があふれてしまう。現在ファンクラブ会員数は、有料無料を合わせて3万人を超えました。観戦したくてもチケットを買えない人があふれてしまっている状況で、大きな機会損失なんです…」

 SVリーグはホームアリーナで80%以上の開催を条件とし、2030年以降は5000人以上の収容を参入基準にしている。大阪ブルテオンは既に5000人、もしかしたらそれ以上の観客を集められる力を持つにもかかわらず、現状は毎試合千人単位で観戦希望者が機会を逸しているかもしれない。

 今まさに男子日本代表の人気もあり、SVリーグに対する注目が高まっていて、これまで観戦したことがない人たちも含めて新規ファンを取り込めるチャンスがある。現在、新アリーナについての検討を進めているが「まだ詳しく話せない段階」(久保田社長)にある。

 当面は残り20%の部分で、キャパの大きい外部のアリーナを活用する計画だ。機会損失という点を踏まえて、新アリーナ確保までの暫定的な特別措置としてSVリーグには「80%」の緩和を認めてもらえるよう相談する考え。

積極的に東南アジアに乗り込んでいく理由

 大阪ブルテオンが自主独立で回すために久保田社長が最も重要だと考えるのが、リーグの放映権の収入拡大。そのためにも、アジア市場は大切だと久保田社長は訴える。現在東アジアや東南アジアでは、日本代表が当地で試合を行った際には、超人気アイドルグループのごとく悲鳴が起こるほど。また、日本代表でなくても日本のバレーボール選手への人気が非常に高い。ただ、それをどうビジネスなどにつなげていくのか。

 大阪ブルテオンは昨年秋、サントリーサンバーズ大阪、ウルフドッグス名古屋と共にタイで試合を行い、日本のバレーファンであるタイ人女性を中心に、多くの観衆を集めて話題となった。

 今年はフィリピンから国際大会に招待されて、9月7、8日に女子のSAGA久光スプリングスと共に現地で試合を行った。さらにタイでの興行も継続する。こういった活動の先に見据えるのが、SVリーグの放映権・配信権による収入大幅増。リーグがその収入を増やしたら、当然チームにも分配される。

「最終的にはやはり放映権。これはリーグと共同してやらなきゃいけない。リーグはバレーボールワールド(※)と交渉もしてくれているし、独自でSVリーグとしてタイの放送局に交渉していくことも可能性としては今後ありうる。大阪ブルテオンらがアジアに出て興行するのは、最終的には日本のリーグ戦の放映につなげたいためで、興行と放映権のセールスはセット。試合興行のみでは意味がない。アジアの国々で日本のリーグ戦を放送してもらうのがメイン。サッカーのプレミアリーグと一緒で、プレミアリーグのチームがアジアツアーをやっているが、メインはイングランドで行われる試合を観てもらうこと。(今や世界中のファンが)放送を通じて見ていてくれる。だから、放映権が高くなっていく。今、SVリーグは、人気のある海外リーグと肩を並べられるくらいの価値を既に持っていると思う。だから、それをちゃんとお金にして回せる仕組みを作っていきたい」
(※国際バレーボール連盟と投資会社の合弁企業。国際大会や配信プラットフォームを運営する)

 放映権交渉自体は、SVリーグを管轄する一般社団法人ジャパンバレーボールリーグ(JVL)の範疇ではあるが、そのきっかけを作ってもらうためにも、久保田社長は先頭に立って他のチームにも参加を呼び掛けて、アジア興行に乗りこんだ。

「会場に1万人が入ってものすごい歓声が起こると、誰もがこれはすごいと感じてくれる。そこに可能性を感じるだろう。タイのテレビ局、タイの企業、もしかしたらタイに会社のある日本の親会社もそうかもしれない。(リーグが発信している)SVリーグを世界のトップリーグにするというのは、私はできると思っていて、それをやりたいからこそ、今回9月14、15日のタイへのツアー(※※)を見てほしいと大河さん(JVLの大河正明チェアマン)たちに要望した」(久保田社長)
(※※大会名称は、JAPAN VOLLEYBALL ASIA TOUR IN THAILAND2024「Panasonic ENERGY CUP」)

 こういった活動の先、数年後にはSVリーグの開幕戦を東南アジアで行うことも視野に入ってくる。そしてさらにアジア市場での拡大や放映権のセールスへとつながるという好循環になる。

 久保田社長が大阪ブルテオンで取り組んでいることは、チームの発展だけでなく、SVリーグや日本のバレーボール界の発展にもつながっていくだろう。

久保田社長が夢見るもうひとつの「装置」

 久保田社長は現在、新アリーナという「装置」の構想を進めているが、実はアリーナとは別の「装置」も進めていて、8月末に既に実証実験を行っている。その「装置」はスポーツバーだ。

「パナスタなどの他に、人が集まるコミュニティを目に見える形でできる場所を作りたい。そこに行くことが目的になって人が集い、コミュニケーションを生み出す場。それにはスポーツバーがいいんじゃないかと思った。アメリカを視察して回ったが、これからスポーツバーは没入感満載に進化していくと感じた。実際に、スタジアムと同じ感覚で味わえるような場所が、アメリカでできてきている。日本でも、50人とかのレベルではなく、何百人も入れるようなオールスポーツ型の装置を作りたい。これは私の夢、そのプレゼンテーションとして実証実験をやってみた」(久保田社長)

先月末に実証実験を行ったスポーツバー(筆者撮影)

 今回、観戦コンテンツとなったガンバ大阪の試合はもちろん、大阪ブルテオンや埼玉パナソニックワイルドナイツ、共創パートナーを締結している大阪エヴェッサなど、パナソニック スポーツが関わるスポーツの試合が見られるようにしていきたいという。

 実証実験は、大阪のテレビ局・毎日放送のビル1階に特設スポーツバーを用意し、ガンバ大阪とセレッソ大阪のダービー戦観戦イベントをする予定だったが、台風の影響で8月30日の前日イベントのみの実施となった。ただ、筆者自身、スポーツバー観戦が大好きなのだが、日本には客層や雰囲気や内装を含めた本格的な大型スポーツバーが全く無い。久保田社長の取り組みはぜひ実現してほしいと切に願う。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。