SVリーグ、アジア、世界で優勝するために必要なこと

 新体制発表会見に先駆けて行われた日本製鉄堺ブレイザーズとのプレシーズンマッチでも、多くのブルテオンファンが会場に足を運び、熱い視線を送っていた。

 いよいよ10月に開幕する新しいバレーボールリーグ「SVリーグ」を控え、西田有志、山内晶大、山本智大といったパリ五輪に出場した選手をはじめ、彼らを含めた大阪ブルテオンの全選手たちが、どんな言葉を発するのか。彼らの登場を待つ多くのファンたちを前に、まずは久保田代表、笹木副代表、南部GMがステージに現れた。

 久保田代表はまず、7月にパナソニックパンサーズから大阪ブルテオンへのリブランディングに込めた意味を改めて紹介した。次に、ファンに対して事業や経営の大切さを訴えた。

「SVリーグで優勝することはもちろん、アジアまた世界でトップになるということをビジョンに掲げている。その競技面を支えていく事業や経営力というのは、これから非常に大切になってきます」

 そして、実業団からプロスポーツチームとして生まれ変わり、いつまでも存在する持続性のあるクラブとなるためにも、ファン達も事業や経営に目を向けて欲しいとした。

「今までのパンサーズ時代は、良くも悪くもパナソニックとしての、企業チームの活動が中心にあったのが事実。これからは大阪ブルテオンとして、地域の皆さま、パートナーの皆さま、ファンの皆さまに支えられて、パナソニックと一緒に、大きくなっていく。ということを考えると、この事業力、経営力も同時に必要となってきます。もちろんこうやって、競技面からチームに応援して頂くは大変嬉しく、1番力になる。同時に、事業や経営のところにも関心を持って頂いたり、応援して頂くことがすごく大切になってきます」

事業面で特に重点を置くのは観戦体験の向上

 事業面での説明を担当したのが笹木副代表。パナソニックの東京オリンピック・パラリンピック推進本部スポーツ事業推進部部長として東京オリパラに関わったり、ガンバ大阪で事業回りを担当した。笹川副代表は、事業担当ではあるが金儲けが目的ではないとした。

「我々の目的は世界ナンバー1のクラブになること。収益をクラブに積み上げるということは決して目的ではありません。(収益は)クラブの価値を正しく表現して、結果として出るもの。まずは『価値の源泉となるトップチームの強化』、そして新たな重点取り組みして『アカデミーの充実』、『練習設備の整備など強化部門への投資』、同時に『皆さまにより良い観戦体験を届けられる投資』を進める。それらのサイクルを回して、将来的に自分たちで継続していけるクラブとなること。それが我々の事業の目的となります。キーワードは『ローカルとグローバル』、『地域と世界』となります」

 大阪ブルテオンは昨シーズン、ホームアリーナでの開催16試合全てのチケットが完売し、主催試合合計で5万6千人を超える観客数を記録した。ファンクラブ会員数も大きく伸び、SNSのフォロワー数がInstagramや YouTubeでリーグ1位となっているという。これらは「我々が重要な指標としている」(笹木副代表)とし、コーチングスタッフや選手達にも共有している。

 そして、集客につながる1番の場である観戦体験の強化や改善に取り組んでいる。その一例として、アリーナ内に設置されたLED標識を挙げた。

「まずは最高の観戦体験のご提供。このパナソニックアリーナでは新規でLED標識をステージ上に設置しているが、開幕戦までに両エンド方向にも新設し、試合の臨場感を高める」

 この数年、プロ野球、Jリーグ、バスケBリーグの試合が行われているスタジアムやアリーナでは、LED標識が設置し、演出利用が増えている。SVリーグにおいて、大阪ブルテオンはこういった演出にも取り組んでいく。

 一方で観戦体験においてストレスにつながる現状の課題の改善にも取り組むという。

「ホームアリーナのトイレでの混雑に関し、本日も本当に皆さまにご迷惑をおかけしております。大変申し訳ございません」

 そう謝罪の弁を述べると、久保田代表と南部GMと3人揃って、四方のファンに頭を下げた。大阪ブルテオンはリーグ屈指の人気チームで毎試合3000人が集まる。そして割合の多い女性ファンが、試合前、セット間にトイレへ殺到して長蛇の列をなす光景はすでに恒例となっている。これまでも外に仮設トイレを設置して対策しているが、それでもまだ解決しきれていない。

「建築から60年がたつ施設で抜本的な対策というのは難しいのでございますが、来月のホーム開幕戦から、仮設トイレを昨年よりさらに追加のブースをつけて対応してまいります」(笹木副代表)

 また人気チームならではの悩みが、ファンがチケットを入手しづらいこと。毎試合完売ということは、逆にいうと、チケットを買えずに涙を飲んだファンも大多数いるということ。 SNS上では不平不満が飛び交ったり、転売屋が暗躍したりするなど、大きな問題となっている。

「チケットの入手が困難というご指摘もございまして、このシーズンは昨年使用したおおきにアリーナ舞洲のホームゲームに加え、Asueアリーナでも開催することで対応します」

 ホームアリーナでは無いので開催試合数は少ないが、キャパの大きいアリーナを利用することで、当面はチケット問題に対応する。

新体制発表会においてビジネス戦略を踏まえたチームの方向性を公表

 一方で、昨シーズン初めて開催したおおきにアリーナでの試合で、ある問題が発生していた。舞洲という場所が交通の便が悪いのだ。同アリーナはバスケBリーグの大阪エヴェッサがホームアリーナとして使用しているが、長年使用しているだけに、エヴェッサのファンたちは自動車での来場が多く、またチーム側で有料の臨時バスを出して対応している。

 大阪ブルテオンのファンにそんな知見があるはずもなく、ただでさえ通常の運行便が少ないこともあって、冬の寒い時期にファンが長蛇の列をなしてバスを待つ羽目となった。その件も当然把握しているとあって、笹木副代表はお詫びと対策を説明した。

「大変なご苦労をおかけしてしまいました。事前に大阪エヴェエッサ様と連携して、我々も新たに輸送対策専任者を任命して必ず改善を図りたい」

 問題が起こった時にホームページ上、SNSの公式アカウント上で謝罪文を出しても、大抵のケースでファンの怒りは鎮まらない。ただ、今回の会見の様に、立場のあるフロントスタッフが直接ファンたちに語りかける意味は大きい。信頼感や期待感など、ポジティブな印象を持ったファンは多いのではないだろうか。

経営面で目指している数字

 そして久保田代表が経営面の説明で再び登壇し、目指している指標を示した。

「我々の目指すところとして、まず経営のいわば自立化。1つの目安として、(投影した資料には収益の内訳を表した円グラフがあって)25%くらいがいわゆる外部収入。もっとはっきり言うと、パナソニック以外から収益を上げている。それを、事業、チーム力を上げながら、2030年ぐらいまでに半分くらいを外部収入で上げられるようにしていきたい」

 実業団チームからクラブチームに生まれ変わっても、メインの収益源が実業団時代の親会社や関連会社が引き続きスポンサー料を払っているというのは日本のスポーツチームではよくある。それではいつまでもチームの運営規模が発展していかないのは自明の理。だからこそ、その第一歩として重要になるのがアリーナ。

「アリーナの問題は欠かせない。まだ詳しく言えるような段階ではないけれども、必ず皆さんに楽しんでいただけるようなアリーナを作りたいと夢に思っている」(久保田代表)

 この他にも25分ほどの限られた時間で、ファンたちにあらゆる想いを伝えていった。そして最後に、久保田代表は「バレーボールは他の競技に比べて、本当に世界が狙えると思っている。ファンの皆さんと共に世界一を目指していきたいと思います」と締め括った。 
上場企業が株主、投資機関、メディア向けに決算会見や事業説明会を開くことは一般的なことだが、いちバレーボールチームが具体的な数字を出して、ファンの前で説明を行うのは極めて珍しい、あるいはバレーボールチームでは初めてだったかもしれない。バスケBリーグやサッカーJリーグではメディア向け記者会見であったり、ファンイベントでそれらを発表することはあるが、バレーではなかなか見ない。

 「バレーボールはチャンスがある」と常々話す久保田剛社長は、就任以来、積極的にビジネス回り、事業面で新たに取り組んでいると同時に「ファンの理解を得てもらうためにも、もっと発信する必要を感じる」とも話していた。

 だからこそ、「大阪ブルテオンが何をしようとしているのか」をファン自身が見て聞いて、知ることができる今回の新体制発表会は、新鮮だったのではないだろうか。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。