このネーションズリーグは日本代表にとって実戦の場であるのと同時に、7月26日に開幕する五輪本番に向けたチームの調整の場であり、そして、選手選考の最後の場でもある。選手たちは、パリ五輪代表12名(補欠枠1名)という限られた枠に入るべく、VNLでアピールしている。各ポジションでハイレベルな競争となっていて、中でも一番熾烈なのがチームで攻守両輪において大きな役割を持つアウトサイドヒッター(OH)だ。

会見で興味深かったブラン監督の発言

 OHは日本代表の主将で今やワールドクラスの選手である石川祐希、さらには前回の東京五輪で19歳にしてメンバー入りし、今や日本代表に欠かせない存在となっている高橋藍の2人がつとめている、攻守において一番重要なポジションである。日本代表のフィリップ・ブラン監督は5月7日の会見で、直前まであったイタリアリーグで試合をこなした石川と高橋藍について、VNL第1週を休養させ別メニューで調整することを明かしていた。2人が5月31日から代表チームに合流して「福岡とマニラで開催のVNLの最後の1週に参加します」と話していた。

 つまり、この発言からも2人に関しては万が一ケガでもしない限り、ブラン監督はパリ五輪の代表に選ぶとも捉えられた。東京オリンピックでは12名の代表メンバーの内、OHの選手は4名だった。今回も基本的には4名と思われる。また、ブラン監督は会見に登壇した16名の選手が五輪に向けた「ベースのメンバー」とも話していた。16名の中でOHをこなす選手は、石川、高橋藍、富田将馬、高梨健太、大塚達宣、甲斐優斗の6名。石川、高橋藍を除いたOH2枠を、残り4選手が目指す形となっている。いずれの選手もハイレベルな能力を持つ。OHの選手たちはこの残り2枠に向けて、どんな思いを持っているのか、会見時に聞き回った。

強い意欲をハッキリ見せる富田、静かなる決意の高梨

 ハッキリとそのポジション争いに対する意識を口にして、意欲を前面に出していたのが富田だ。高いレセプション能力(サーブレシーブ)が特に秀でているが、今シーズンまで所属していた東レアローズや日本代表での経験を通じて、サーブやアタック能力でも成長を見せている。

 「(激しいOH2枠争いは)間違いないです。自分でも見る側だったら注目したいです(笑)。今まで守備面を買われてきたのでそこを前面に出していきたいですけど、サーブだったりスパイク面も劣らずにやらなければ、五輪に出るという目標に足りないかなと思う。(この2シーズン、リーグ戦で明らかに攻撃面が成長した様に見えたが?)東京五輪はテレビで見ていてやっぱり悔しかったし、ここに出たいという気持ちが強くなった。目指すとなった時に、やはり攻撃面でもチームに貢献しないとやっぱり選ばれないだろうなと感じていた。レセプション、ディグだったり、守備面はもちろんですけど、他の面でもしっかり貢献できると自ずとチャンスがあるかなと思っています」

 あまりに富田が力強く回答したので、五輪にかける思いの強さを感じさせた。

 「(五輪代表争いの)プレッシャーはあるけど、それを押しのけるくらいじゃないと、オリンピックに出る価値がないと思う。誰が相手だろうが、(石川)祐希さんだろうが誰だろうが、打ち勝つ気持ちでやらないと五輪に出られないと思っているので、そこは心に決めてやっています」

 東京五輪のメンバーに選ばれ、ベスト8入りの原動力となったのが高梨。強いジャンプサーブ、難しいボールでも決めきるスパイク能力が優れた選手で、所属するウルフドッグス名古屋でリーグ戦やカップ戦の優勝の原動力となった。メディアの前ではあまり語りたがらない高梨は、言葉を慎重に選びながら語った。

 「(五輪代表に向けてアピールしたいのは)アタックとブロック。(東京五輪以降)まずは自分のパフォーマンスを波が無く一定にすることをリーグで意識してきて、スキル面ではなく気持ちの面でミスを引きずらなかったり、試合中なので切り替えを大事にやってきた。前回の東京五輪に出た時は、あまりイメージができてなくて、ついていくだけだった。今回は(選出されるかまだ)わからないですけど、パリが終わった時に五輪に出て良かったと思いたいですし、充実したと思えるような大会にしたい」

コミュニケーション能力でもチームを助ける大塚、急成長20歳の甲斐

 同じく、東京五輪のメンバーに選ばれた大塚。レセプション、サーブ、スパイクとマルチに能力が高い。現在23歳ながら、強豪パナソニックパンサーズで主力として3シーズンに渡って活躍。来季からはイタリアリーグのミラノでプレーする。幼なじみの高橋藍と共に前回五輪に選ばれているが、試合に多く出た高橋藍と違い、大塚はほとんど出場機会を得られず悔しい思いをした。ただ、この3年でパナソニックでも日本代表でも、逞しさと頼もしさを身につけていった。OHの争いについて問うと、大塚らしい回答をした。

 「(東京五輪を経験した)アドバンテージは全くないと思っていて、ここにいるメンバーはすごい力を持った選手ですし、それは普段の練習から認め合っている。もちろん、普段の練習から刺激し合って切磋琢磨し合っている。だからといって、お互いが認め合えるからこそ、練習以外ではピリピリしている雰囲気はないですし、お互い誰が残っても、自分が入ったら責任を持って戦いたいと思うし、入れなかったとしても素直に応援できるんじゃないかなというぐらいの今のメンバーのこの実力だと思うので、だからこそ、残るのは全然簡単ではなく難しい。だからといって、人と比べてどうこうというよりかは、まずは自分の一番のいいところを出して、そこで勝負したいと思っている」

 大塚自身は自分の良さをこう見ている。

 「攻守両方で安定したプレーと、どんどんアグレッシブに攻撃参加するところ。あとは、プレーで引っ張るというよりは、声とか気持ちで引っ張るタイプだと思う。コート内でも色々声かけしたりするタイプなので、コミュニケーションをしっかり取って、練習中でも普段の生活からも色んな選手との信頼関係を築いて、チームとして良い動きができる。声かけというのをしっかりできればと思っている」

 バレーボールがチームスポーツという観点から、こういったコミュニケーション能力に長けた選手の存在は非常に大きい。

 そして、パリ五輪メンバー入りへ急浮上しているのが専修大学3年の甲斐だ。身長はOHメンバーの中では最長身の200cm、昨年から本格的に代表で試合に出始めた新鋭だ。特にブラン監督が甲斐に期待しているのを感じる。大学在学中ながら昨年末から約3カ月、フランスのパリバレーへ短期移籍して活躍を見せた。ジャンプサーブやスパイクは既に海外の強豪国相手にも十分通用している。

 「自分は守備の面で欠ける部分が多いので、そこの部分を克服すれば(五輪代表へ)一歩近づけるのかなと思ってます。去年代表シーズンを通して、ネーションズリーグでメダルを獲ったり、OQT(五輪予選)で切符を獲得したというのを間近で見ることができて、五輪にかける思いは本当に強くなりました。そこで自分も活躍したいという思いはすごく強くなりました」

 甲斐はハッキリとパリ五輪代表への意欲を口にした。その控えめながらも持つ自信は短期間での海外リーグ経験を得たからこそ。

 「高さの部分や、サーブの部分で少し上がった。3カ月間の最初と終わりの頃を比べて、(対戦相手の)高いブロックに対しての攻略の仕方について幅が広がった。そこが一番成長した部分。打ち方を色々と学ぶことができましたし、常に高いブロックがあったので、本当にそれに対して考える時間が増えた。海外の選手たちと一緒にトレーニングすることで、自分も負けてられないなとは感じました」

 以前から潜在能力の高さ、将来性のある大型OHとして注目はされていたが、今回のVNL第1週で間違いなくアピールできていたのは甲斐だろう。特にスパイク面。強豪国の高いブロックに対して、そのブロックの横のワンタッチアウトを狙うのではなく、ブロックの上から強打して得点を重ねるなど、現状の日本代表OHでは唯一のタイプともいえる。また、甲斐はブロックでも非凡なものを見せている。

ブラン監督はOHの選手たちに何を望む?

 OHはスパイク能力が優れた「攻撃型OH」、レセプション(サーブレシーブ)やディグ(スパイクレシーブ)を得意とする「守備型OH」と役割を分けたOH2選手を起用することが多い。ただ、メダル争いするような強豪国となると、コートに立つOH2選手は攻守両面においてハイレベルで、日本では石川がそうだろう。さらに石川の場合はブロック能力も優れており、いるかいないかでチームが全く変わってしまうスーパーな選手になっている。

会見で意気込みを語るブラン監督(5月7日)

 日本代表でブラン監督が石川や高橋藍に続く、3人目、4人目のOHに望むものは何だろうか。過去の采配や発言から推測すると、次のような点だろう。まず石川や高橋藍がサーブで狙われて守備が崩された時に、交代出場して流れを取り戻せる選手。また前線でのサイドアウトが停滞した時に、例えサーブで崩されて相手のブロックが3枚あろうが、スパイクで打開できる選手。欲を言えば、さらにブロック能力が高い選手。いずれも当たり前といえば当たり前だが、国際レベルで尚且つ五輪でメダルを目指すレベルとなるとなかなか難しい。

 東京五輪では石川が常に出続けている状態だったが、石川と対角を組むOHは五輪を通して使い分けていた。例えば、高橋藍が前衛で相手の高いブロックに苦しんでいれば、スパイク能力がより高い高梨を投入するなどして打開を図っていた。ブラン監督の本音をいえば、恐らく、石川の様な全ての面でハイレベルなOHを対角に入れたいだろう。ただ、石川の様な選手は簡単には出てこない。また、高橋藍もこの3年で攻撃能力やブロック能力を高めつつあるし、富田、高梨、大塚も全ての面でレベルアップはしている。また、甲斐は守備面ではまだまだでも、海外選手に負けない高さとパワーを持つ希有な選手であり、前回の高橋藍の様なチームの起爆剤になりうる20歳前後の選手といった点でも魅力だろう。

 ブラン監督が最終的にどんなメンバー、そしてOH4名をどの様に構成するのか。そういった視点で残りのVNLでのOH各選手たちのプレーを見るのも面白いかもしれない。当該選手たちには大変この上ないが。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。