文=氏原英明

身長175センチの則本が三振を奪える理由とは

 楽天の則本昂大投手が8試合連続2けた奪三振を記録し、日本記録を更新した。世界新記録の樹立が期待された15日のヤクルト戦では、7回まで8三振を奪ったものの、6失点を喫して7回に降板。連続2けた奪三振記録は、8試合で止まった。

 かつての奪三振王というと、則本以前の記録を保持していた野茂英雄やダルビッシュ有のように、上背が高く、打点の高い所からの投球を身上とするピッチャーが多かった。則本はその野茂と同じ、フォークを武器とするパワーピッチングがスタイルとはいえ、身長175センチは明らかに見劣りする。

 では、なぜ、ボールの角度を生み出せない則本投手が、これほどまでの三振を奪取できるのか。

 編集部がまとめた奪三振のデータを基に、三振奪取の秘訣を考えてみた。

 まずは則本が三振を奪った際の決め球になった球種割合がこちらだ。

則本が奪った90三振の内訳

 このうち空振りと見逃しの内訳がこちら
 
ストレートの空振26個(右13左13)
ストレートの見逃7個(右3左4)
スライダーの空振19個(右17左2)
スライダーの見逃1個(右0左1)
フォークの空振31個(右24左7)
フォークの見逃2個(右2左0)
チェンジアップ空振2個(右0左2)
カーブの空振2個(右1左1)

 則本の武器は150キロをゆうに超えるストレートに、スライダー、フォーク、カーブ、チェンジアップの変化球を併せ持つ。チェンジアップは左打者にしか投げないが、これらすべてが高いレベルにある。さきほどのデータにあるように、どの球種でも空振りが取れる“クオリティピッチ”なのだ。

 スライダーをメインの決め球にする投手の場合、ストレートとスライダーに注視していればいいが、則本の場合はそういうわけにはいかない。ストレートとスライダーに、フォーク、時折混ぜるカーブも邪魔して、打者にスイングをさせない。

 例えば、西武の菊池雄星は上背が高く、左腕としての独特な角度を有しているが、ストレートとスライダーが主な球種であるために、則本ほどの三振は奪えない。高水準の球種の多さが、二人に差をもたらしているといえるだろう。

基本を逆手にとったかのような配球

©共同通信

 さらに、則本がこの8試合連続2ケタ三振記録を更新した試合のうち、1試合で同じ打者から三振を複数奪ったケース――マルチ三振と命名しよう―は22例ある。

 そのうち、連続した打席での三振を同じ球種で奪ったケースが8例しかないのだ。

 どういうことかというと、1打席目はスライダーで三振を取った打者に対して次は異なる球種で抑えている。

 ただ、同じ球種で抑えている打者に対しても、3例は3三振以上だ。例えば、5月24日・オリックスの中島宏之からは4三振を奪ったが、1打席目はフォーク、2打席目はストレート。3打席目もストレートだが、4三振目はフォークという風に連続するすべての打席が同じ球種というわけではないのだ。

 このことは、つまり、打者がそれだけ、則本が投げてくる球種を絞り切れないということを示しているかもしれない。

 打者は三振したときの球を残像として頭に置くことが多い。その球種をケアーするといういい方になるが、そこへきて、もう一つの球種がくるのだから、対応は難しいだろう。

 則本のストレートが特質したものであるというのは、すでに有名な話だ。

 楽天がチームとして取り入れているトラックマンデータによると、則本のストレートの回転数は2500を超えている(中継を参照した)。これはメジャーの投手たちをも上回る数字だとのことだ。

 回転数の多いストレートに、クオリティの高い変化球を加えたピッチング。打者たちが苦しむのも無理はない。

 侍ジャパンのメンバーとして、あるいは、オールスターなどで則本のボールを受けたことがある西武の正捕手・炭谷銀仁朗は、則本の変化球について「変化し始めるのが遅い」とこう解説する。

「スライダーは曲がり始めるのが遅く、フォークは真っすぐに見えるんです。受けていても、打者としても思いますが、フォークであるはずやのに、ある程度の回転数があるようにみえるんです。真っすぐの回転をしているかのようなフォーク。それでも、ちゃんと落差はある。だから、打者は打ちにくいのだと思います」

 さらに、この解説を基にして、配球面をみていくと、面白いデータを見つけることができた。

 則本は8試合連続2ケタを奪った90の奪三振のうち60個を右打者から奪っているのだが、その配球が実に洗練されている。

 野球の配球の中の一番の初歩として「内(インコース)に速く、外(アウトコース)に緩く」というのがある。

 インコースに速い球を見せておいて、外に逃げる球や落ちる球で勝負する。原点球と言われる球、アウトローのストレートを重視することももちろん多いが、速い球を右打者のインコースに見せておくという配球は、アウトコースの変化球の出し入れに長けた投手であれば有効になる。

 しかし、則本の場合は、その配球をほとんど使っていないのである。

 三振を取った際のデータだけなので、一概には言い切れないが、インコースのストレートを使って外勝負という配球はそれほど多く見られない。あるとすると、ホームランの少ない打者であることが多く、インコースは0-2と追い込んだ際の見せ球というケースがみられる。

 そして、もっとも注目したいのが、フォークで三振を奪った際のコースだ。

 8試合連続三振のなかで、フォークで奪った三振は26個あるのだが、コース分布をしていくと、17個がインコースであるのが分かる。外に落とすというケースは2例しかなく、内側、そして、中も含めていくと24個がバッターに近い所で勝負するということになっている。

 打者というのはインコースの速い球を詰まるのを嫌う。インコースを詰まることを意識することにより、身体の開きが少し早くなるからだ。

 しかし、則本は、この基本を逆手に取ったかのような配球をしている。

 インコースにストレートを投げることはほとんど稀で、打者サイドからすればインコースに来たストレートと思われたボールが、手元で沈んでいくのである。

 炭谷が証言していたストレートのように見える回転のフォークボールは、内側に持ってくることで、打者の幻惑を招いているというわけだ。

 もちろん、だからといって、則本がアウトコースへ変化球の出し入れしていないわけではないのだから厄介だ。

 事故の少ないアウトコースの出し入れで勝負をしつつも、配球の基本を逆手に取ったかのようなフォークを巧みに使い分ける。

 球種一つ一つに水準が高い“クオリティピッチ”とこの多彩な攻め方が三振を多く奪取できている要因といえるのではないだろうか。

氏原英明

著者プロフィール 氏原英明

2003年地方紙記者を経てフリーライターに。高校野球の取材からはじめ、夏の甲子園は03年から現在まで全試合を取材・観戦。ドラフト候補を取材してきたため、現在のプロ野球選手の”プロ以前”のプレーを知る。プレイヤーだけでなく、高校野球の指導者、プロのスカウトとかかわりが深い。プレーから見える選手の人間性をフィーチャーする一方、野球の教育論、高校生の肩ひじの問題、甲子園の在り方などに深く切り込んでいる。