メジャーのオールスターは「本物のスターがぶつかる」場。
7月14日、15日の2日間にわたって、プロ野球のオールスターゲームが開催されました。オールスターに関しては、その開催前に報じられた2つのトピックが物議を醸しました。
1つは、あるスポーツライターの方が、故障で試合にほとんど出場していない大谷翔平選手がファン投票1位で選出されたことに対して「プロ野球ファンの『民度』が問われかねない」と疑義を呈したこと。そしてもう1つが、ダルビッシュ有投手が「2試合も要らないんじゃないか」と語ったことでした。
いずれも、スポーツ先進国であるアメリカMLBのオールスターのあり方と比較すると、論点が明確になってくるように思います。
私は2012年、カンザスシティで開催されたオールスターを視察したことがあります。まず、降り立ったカンザスシティの街そのものがオールスター一色。まさに街を挙げてのお祭りとなっていたのが印象的でした。
メジャー1年目のダルビッシュ投手や170kmのストレートを投げるチャップマンも選出されていて、彼らがグラウンドに登場してくるだけで、スタジアムの興奮はものすごいものでした。
彼らはまさしくスター選手です。強者ぞろいのメジャーの中で際立った成績を残している本物のスター選手です。その本物のスターたちが本気でぶつかる一夜限りの宴に、ファンは価値を感じるのです。
プロ野球のオールスターは、“人気投票”。
一方、プロ野球のオールスターはどうか。
もちろんファン投票で選出される選手たちは日本のスター選手であると言えますが、どこか“人気投票”的な色合いが濃いように感じます。だからこそ、故障を抱え今シーズンはあまり活躍できていない大谷選手も選出されたのでしょう(来季のメジャー挑戦の可能性も投票を後押ししたと思いますし、私自身は大谷選手のファン投票選出について特に思うところはありません)。
ベイスターズの球団社長だった2016年には横浜スタジアムでオールスターが開催されました。たしかに12球団のファンが入り混じっての応援合戦には普段は見られない楽しさがありましたが、このオールスターが選手のプレーそのものや本気の対決を目を凝らして見る舞台だという印象はあまり受けませんでした。交流戦もあり、12チームしかない日本では、オールスターでないと見ることができないという対戦はほぼなく、どこかでシーズン中に目にする光景だからです。
日本のオールスターは人気選手が集まる場所で、メジャーは今シーズン活躍している旬の選手の最高のプレーを、最高の対決を見る場所。そんな違いがあるように感じます。
大切なことは、言うまでもなく「お客さんが喜ぶオールスターとはどんなものなのか」という一点です。
たとえば、試合前に行われるホームランダービー。日本では、オールスターに選出された選手の中から「ホームランを打ちそうな人」が出場しますが、アメリカの場合は違います。極端な言い方をすると「ホームランしか打たない人」を、たとえオールスターには選出されていなくても、ホームランダービーに出場させています。
なぜなら、それこそお客さんが求めているものだと考えるからです。その結果、ホームランダービーも含めたあらゆる要素、演出の一つひとつがショーとして、エンターテイメントとして非常に質の高いものになっています。
2試合に増やせば、価値は2倍になるのか?
その観点からいくと、ダルビッシュ投手が指摘した通り、オールスターは2試合も開催する必要はなく、1試合であるべきだ、と私は思います。
たとえばボクシングで、無敗の王者どうしが対決するビッグマッチが2試合制で行われるとしたら、果たしてその価値は2倍になるでしょうか?
決してそんなことはありません。
一発勝負、1度きりの対決、次のチャンスはいつあるかわからない大勝負だからこそ価値は高まるのであって、試合の数を増やせば増やすだけ価値は半減していくのです。
そもそも、今年のオールスターがナゴヤドーム(名古屋)とZOZOマリンスタジアム(千葉・幕張)で行われることを、一般の人たちがどれだけ認識していたでしょうか。名古屋や幕張の街がオールスター一色に染まり、訪れた人すべての記憶に残るような祭典になっていたでしょうか。
2つの会場で、2度も試合をするから、そのイベントに対する社会的な注目度や、開催する側の力の入れようが半減してしまう。結果的に、野球ファンだけが盛り上がり、開催地となった街の人々ですら特に印象に残らない、毎年恒例のルーティン的な行事となってしまっているように思えてなりません。本当にもったいないことだと思います。
オールスターは本来、野球振興という面においても、ビジネスの面においても、この上ないビッグチャンスです。
だからこそ私は昨年、横浜スタジアムでオールスターが開催されるのに合わせて、「オールスターエクスペリエンス」という大々的な前夜祭イベントを企画して、“プロ野球のある街”としての横浜を、横浜の内外の人々に向けて幅広く訴えかけました(残念ながらイベントは豪雨のためにやむなく中止となりましたが)。
また、「オールス“T”」というTシャツを150種類も用意。こうした各球団を連想させるデザインを駆使したTシャツに加え、球団オリジナルビールを特製のスーベニアセットにするなど、オールスターならではの企画商品を取り揃えました。これらは売れに売れて、オールスターにはまだまだビジネスとしての可能性があることを証明しました。
本来であれば、こうした取り組みは球団ではなく、NPBがリーダーシップを発揮すべきところだとは思います。オールスターエクスペリエンスの開催を発表した時、NPBのある担当者は「NPB内でもこうしたイベントの可能性を議論したことはあるが、実施するのはやめた」とおっしゃっていました。
これまでにやったことがないから。
採算がとれるかわからないから。
そういう理由だったのかもしれません。
しかし、ファンが楽しくて、街ごと、国ごと盛り上がるオールスターは、もうアメリカにあるのです。それを一つのモチーフとし、顧客主義を大前提とし、常識やしがらみや業界構造に縛られることなく、根本からオールスターのあり方を見つめ直すべき時代がすでに来ていると思います。
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