文=池田敏明

契約発表から1カ月、いまだ出場機会なし

7月14に本田圭佑がパチューカとの契約を発表してから、1カ月が経過した。メキシコではすでに17-18シーズン前期リーグが開幕しているが、本田は今なおパチューカでのデビューを飾れていない。加入直後から足の違和感を訴え、チームのトレーニングにも合流できていないのだ。

本人は7月24日付けの自身のツイッター(@kskgroup2017)で「I heard that I need 3 to 4 weeks but I think that I can come back earlier than expected. I feel good.((全治までに)3、4週間かかるそうだが、予定よりも早く復帰できると思う。経過は良好だ)」とツイートし、早期回復をアピールしていたが、実際にはその逆だった。8月に入っても欠場が続き、10日は精密検査を受けることに。そしてチームドクターのフェルナンド・マルケス氏は、検査結果について次のように報告した。

「彼は右足のヒラメ筋を損傷した状態で加入した。この3週間で状況はだいぶ良くなっており、ケガの程度はだいぶ軽くなっている」

そして、今後の予定についてはこのように語った。

「数日中にはピッチでのトレーニングの量を増やすことができるだろう。来週月曜日(8月14日)からは、別メニューでのトレーニングができるはずだ。ベラクルス戦かティファナ戦の頃までには試合ができる状態になるだろう」

ベラクルス戦は8月22日(火)、ティファナ戦は8月25日(金)に予定されている。興行面を考えればホームのベラクルス戦で華々しくデビュー、といきたいところだが、筋肉系のケガだけに慎重を要する。ちなみに、加入当初は標高約2400メートルという高地への順応を不安視する声もあったが、すでに現地で1カ月間生活していることを考えると、身体的な適応は済んでいると考えるのが妥当だ。

それより、8月は試合が立て込んでいるため、全体練習に合流できたとしても、チームに順応し、じっくり戦術を練り上げる時間がないことのほうが不安だ。いずれにしても、ディエゴ・アロンソ監督が彼を信頼して起用してくれるかどうか、という根本的な問題はあるものの、アウェイのティファナ戦でメンバー入りし、状況に応じて途中投入されてメキシコデビュー、というのが現実路線ではないだろうか。

そうなると、気になるのは8月31日(木)に予定されている2018年ロシア・ワールドカップのアジア最終予選、オーストラリア戦に間に合うかどうか、そもそも本田がこの試合と9月6日(水)のサウジアラビア戦に向けたメンバーに招集されるかどうか、という点だ。過去の実例から判断する限り、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は間違いなく本田をメンバーに加えるはず。「2、3試合に先発出場することを前提として考えたい」と海外組へのノルマを明かしているが、この言葉を額面どおりに受け取るわけにはいかない。パチューカでの状況がどうあれ、本田は確実に招集され、ほぼ“ぶっつけ本番”で日本代表が迎える大一番に挑むことになるだろう。

チームの不振でマイナスからのスタートに

©Getty Images

さて、本田が移籍したパチューカはリーグ戦で開幕から3連敗と極度の不振にあえいでいる。2015年11月以来、ホームゲームでの無敗記録を続けていたが、第2節のクラブ・アメリカ戦ではそれすらも途切れてしまい、第3節ではクラブ史上初めて1部リーグを戦っているロボスBUAPにまで敗れてしまった。記録断絶や格下相手の敗戦と直接的な因果関係があるわけではないが、怒りの矛先を本田に向ける地元ファンも出始め、ツイッターでは次のような書き込みが見られるようになってきた。

「トゥーソス(パチューカの愛称)に質問。ケイスケ・ホンダはいつプレーするんだ? 彼には高額の投資をしたのに、まだプレーしていない。この損失をどうやって埋め合わせるんだ?」

「ロボスBUAPは3-2でトゥーソスを倒し、首位に立っている。ケイスケ・ホンダは『ミランに帰ったほうがいいかな』と言っている」

「ケイスケ・ホンダに何が起こったのか。プレーしないつもりなのか」

また、すでにいくつかの日本のメディアが報じているとおり、『as』のメキシコ版では「パチューカのドレッシングルームに起こった不都合と異変」と題し、本田を糾弾する内容のコラムを配信した。一部を抜粋しよう。

「伝統的に選手たちのサラリーを安く抑えてきたクラブにやって来た高額年俸の日本人は、過去にこのクラブに在籍したどんな選手にも許されなかった特別扱いを受け、多くの選手たちの怒りを買っている上に、ドレッシングルームに異変を巻き起こしている」

「ケイスケは大金を受け取っている。月に300万ペソ(約1824万円)近くを手にしているのだ。これまで、最も高給取りだったのはヘルマン・カノ(現レオン)の140万ペソ(約850万円)だ。ケイスケの半分にも満たない。今シーズン加入したもう一人のスター選手、エドソン・プッチは100万ペソ(約608万円)だ。コネホ(44歳のGKオスカル・ペレス)はどうか。たったの85万ペソ(約517万円)だ」

「特別扱い」とは、ヘスス・マルティネス会長が本田のために警備員3人をつけ、通訳や個人的なフィジカルトレーナーの帯同を許し、そしてシェフの用意まで約束したこと。ここまで周到に環境を整えてもらい、しかも破格の高給を受け取っていながら試合に出場していないのだから、批判されても仕方ない部分はあるだろう。しかし先ほど述べたとおり、チームの不振と本田の存在とは無関係だ。それなのに、彼に責任を押し付けるような記事が配信されてしまった。これを読んで「すべて本田が悪い」とミスリードされてしまうファンもいるのではないだろうか。

確かに今の本田は、立場的にはかなり厳しい。「マイナスからのスタート」という表現も言い過ぎではないだろう。それだけ期待が大きかったことの裏返しでもあるが、とにかく今の本田に求められるのは、デビュー戦での“一発回答”だ。ゲームをコントロールし、得点やアシストでチームを勝利に導いて、批判の声を黙らせなければならない。だが、これまでに何度も逆境を跳ね返し、重要な局面で結果を残してきた本田にとっては、不可能なミッションではないだろう。8月、9月のW杯アジア最終予選に向けても、パチューカでのデビューと活躍に期待したい。

妄想スポーツショー 第1回 メキシコの風を連れての巻

漫画家、荒井清和氏による漫画連載「妄想スポーツショー」。毎週月曜、木曜に更新予定。

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本田圭佑、パチューカに移籍。現地メディアはどう報じたか

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池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。