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毎回必ずやられてきたわけではない、が……

日本代表は、毎回かならず南米にやられていたわけではありません。例えばフィリップ・トルシエ監督時代やザッケローニ監督時代はアルゼンチン代表相手に組織的な守備の連動で封じ込め、技術とタレントを活かした攻撃で結果を残しています。岡田武史監督時代にも、南アフリカW杯でパラグアイ相手に一進一退の攻防を繰り広げました。組織と堅守をキーワードに、しっかりと相手の攻撃を受けきり、ボールの収めどころを作った上で、長いボールを交え思い切って前に出ていく。そういう戦い方で統一できているときは、うまくいっています。

クラブワールドカップ2016でレアル・マドリーに善戦した鹿島アントラーズも、相手の攻撃を受け止め、中盤での戦いに負けず、しっかりボールを握って組み立て積極的な攻撃を仕掛けていくことで結果を残しています。交代枠をフル活用したり、コンディショニング、フィジカル、メンタルまで含め相手と同等以上になっている条件のなか、スタメンとサブの選手選考、フォーメーション選択、戦い方の選択までうまくいったときはしっかりと結果に結びついているのです。

それでもなお日本は、ブラジルをはじめとした南米勢と戦う中「どのようなコンセプトで戦うか」の整理がついてないのが現状です。特に、組織としての守備があいまいなまま、攻撃面にある程度軸足を置いた戦いをしていくと考えたときは差を見せつけられてしまいます。

引いて守って「耐える」と決めれば、ある程度はうまくいくのです。しかしながら、日本の本当の狙いはプレッシングを機能させ、もっと高い位置で素早く奪い返し、もっと攻撃をしていくところにあります。強豪国であっても、もっとプレーをしたい。今後のことを考えると、そこから逃げず乗り越えていく必要があります。ただ結果を残すだけでなく、どうプレーするか、どう勝つかについて考え取り組む段階に来ていると思います。

1:適切な身体操作を獲得せよ

日本の選手でよく観るプレーは、次のようなものです。ボール保持者に勢い良く突っ込み、簡単にいなされる。あるいは、そうなることが怖いので、相手の前でドカッと止まって見てしまう。そういうことが連続すると振り回され、混乱します。相手との距離が遠すぎたり、立ち位置や角度、ポジション取りや連携も悪い部分が見えます。

特に、止まり方の部分。相手の前で「踏ん張って」「ひざを曲げて」「腰を落として」「低い体勢で」相手に背後を取られないよう見続ける守り方をよく見ます。なんでも対応できる、絶対抜かせないという意識だと思いますが、この守り方ではボールを奪うことが難しくなります。止まっているのでそれ以上寄せにくいばかりか、ボールを触る脚が「埋まって」しまい動きにくいのです。タックルはできませんし、パスカットもしにくく、高いレベルの相手はプレッシャーにすら感じていません。そして何より次のプレーに移行しにくく、疲れやすいのです。

海外の強豪国は、ブラジル相手でもきちんとプレッシャーを与えることができています。急加速しても背中を伸ばすように使って減速し、一発で飛び込むのではなく良い位置からスキップやサイドステップを活用しジワジワとコースを切り、奪えると思ったら弾けるように伸びて深く飛び込んできます。一度外されても、そこから何度も追っていくこともできます。日本がやっているような「身体が伸びず」「奪えない」「疲労度の高い」身体操作のままでは、プレッシングを完遂することは難しいでしょう。

2:相手をよく観察せよ

日本は、最終ラインのように相手のブロックの外でボールを保持しながら選択肢を探ろうとしています。ミスはできませんし、相手ブロックの中に入ると精度が落ちてしまう現状もあります。しかし、不用意に持ちすぎてボールを回しすぎており、しかもスピードが遅いように思います。動きが少なく、周囲の選手が良いポジションを取れていないことも多いです。
 
ブラジルはポジション修正が早く、良い位置で止まり、動き出しや動き直しも絶妙なタイミングで行ないます。事前のシステムのかみ合わせやスカウティングで「ここが空く」とわかっていれば日本も対応できているのですが、ピッチ内で臨機応変にというわけにはまだ行きません。

さらに、ボールをうまく前進させられたケースでも、日本はラインの間にうまく入れても一休みしてしまったり、強いプレッシャーを受けると焦ってボールを奪われてしまうことが、強豪国に比べるとまだ多いように思います。相手をよく観察し、開始10分くらいまでに「ここならボールを持てる」「ここならボールを入れられる」というポイントを見つける必要があります。

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3:ハイプレス・ハイラインを習得せよ

高い位置からのプレッシングは、ラインを高い位置に置くことがセットです。プレスを仕掛けたときに怖いのが、ライン間に侵入されること。最終ラインをしっかり上げておくことで、自然とカバーリングが発生する状況に持ち込めます。もちろんディフェンスラインの背後を取られるリスクはありますし、そのマネジメントは必要です。しかし地上でのつなぎがうまいチームを相手にした際には、ハイプレスとハイラインはどうしても必要です。

もちろん、ハイラインでのラインコントロールを機能させるには練習が必要ですし、実践で積み上げていく時間もかかります。すぐにはできません。ただ、プレッシングに連動して後方も押し上げていくこと、最終ラインが独立して運用することはとても大切です。

Jリーグでも、風間八宏監督率いるチームはJ1の川崎にせよJ2の名古屋にせよ南米的なつなぎ、外し方をしてきます。それに対抗するために、J2の千葉はハイプレスとハイラインをセットで行ない、内容的に完勝を収めることができました。

4:プレー選択の基準を作ること

日本代表選手は、決して考えなしにプレーしているわけではありません。むしろ、各々がいろいろなことを考えてプレーしている。“だからこそ”、呼吸が合わないケースが多いのです。こうした部分で、ブラジルなど南米の選手は非常にシンプルです。「このときはこうする」という基準がしっかりあり、あとは認知に応じて実行するだけ。使っている技術も、ブラジルの選手は難しいことはせず基本に忠実、だからこそ素早くミスなくプレーできるのです。

ここで、南米の選手が行なうプレーの大まかな基準を見ましょう。特にうまいのが、ワンツーの使い方です。ワンツーには、大事な原則があります。「ボール保持者と、それをマークする守備者の距離が近いこと」です。距離が離れていると、相手の背後を取ることができません。距離が近いときこそ、ワンツーを決めるチャンスということです。

2対1の状況を考えてみましょう。ボールを持っている選手とマークする選手がいて、そこにサポートが1人いる状況です。この際に守備者が距離を縮めてくれば、簡単にワンツーで剥がすことができますね。逆に距離を取ってくれば、そのままボールを運んだり簡単にライン間にパスを通したり、ロングパスで展開できたりもします。

それに加え、南米の選手は本来では裏とりできないような距離をとっている守備者に対しても、ワンツーで突破できる術を持っています。ワンツー自体にもいくつも種類があり、横、斜め、縦と縦横無尽です。それに加え、フットサル用語で「パラレラ」「ジャグナウ」といったパスと組み合わせてくるのです。このあたりは、いずれ「ワンツー概論」という形でお伝えしたいと思います。

例えば3対1の状況において、日本の選手でよくあるのは、スペースを潰してしまうこと。AがBにパスを出し、スペースに抜けていこうとする。ワンツーを狙う場合もあれば、そのまま抜けていくだけの動きを狙うことも。そのときに、CがAと同じスペースで受けようとしてしまうのです。本来、CはAが動いてできたスペースを埋めることがセオリー。

Cがこういう動きをすることで、3対1の状況では2つあったパスラインが1つしかなくなり、DFはそこを切るように寄せれば実質Aとの1対1に持ち込むことができる。3対1の数的優位が無くなってしまうのです。もちろん、ブラジルはじめとする南米の選手にこういうことはありません。サッカーにおける暗黙の基準のようなものがあり、それを全員が理解しているからです。

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5:順と逆、表と裏

南米の選手のボールの持ち方を見ていると、「身体の使い方の上手さ」とセットになっているケースが多いように思います。前を向くことで、相手DFの動きを止めてしまったり、相手を動かせる。そういう選手が多いです。ボールはすぐ蹴れる、すぐターンできる位置に置いている。いや、ボールを置くというよりは「自分の身体を自由にできる位置にボールがある」というべきでしょうか。

例えば、味方と意思疎通したうえでパスラインがあったとして、その間にディフェンスがいたとします。そのまま受け手のほうに身体を向けてパスを出しても、読まれます。でも、それでいいんです。「読まれている、と認識している」ことが大切。南米の選手はキックフェイントなどを入れて「読まれているか」を探り、確認するとそのコースには出さない。そうして、相手に選択肢を与えて迷わせるんですね。

その次には、そのまま最初の選択肢で通すこともあれば、そのコースを餌にして別のパスラインに通したり、あるいはターンして身体の向きを変えたりして状況を変える。あるいは、トラップの時点でちょっとボールを動かしたりして、剥がす。「順」「表」の選択肢を作り、相手を対応させたところで「逆」「裏」を突くことをしているわけですね。この順序が逆になってしまったり、それを使いこなせていない選手がいると上手くいきません。

6:ボールのないところの動きを向上させよ

日本はまだまだ、動きながらのプレーも、あるいは「動きすぎないプレー」における質も欠けています。日本の選手が海外でプレーすることで向上するのは、この部分です。ボールを扱うだけではない、サッカーそのものの部分。どうしても、日本ではボールを持っている選手にフォーカスしがちですが、海外の選手が日本の選手以上に的確なのはボールを持っていない部分でのプレーです。

受ける前から良い位置にいて、受けるときはすでに優位性を持っている。南米の選手がとくにうまいのは、ボールを持つ選手の高い技術に目を奪わせることで、ボールを持っていない選手の動きを隠すことです。相手は、気づかないうちに良いポジションを取られてしまう。そうやって、認知と配置におけるポジショナルな戦いができる。

実は、南米の選手は1対1の難しい形に持ち込ませないことがとてもうまいのです。日本の選手も1対1ではそこそこやれるのですが、そうさせてくれない。仮にブラジル代表に1人日本代表選手が入っても、そこそこプレーできると思います。なぜなら、周囲がパスラインを作り、サポートしてくれるから。日本の選手以上にサボらないし、チームプレーに徹します。フットボールとはそういう競技なのですから。

特に南米の場合、「うまく攻撃したい」からそうしているのだと思います。そういう意味で、顕著な違いが「鳥かご」プレーのうまさに出ます。段違いにうまいです。相手をいなし、前進し、プレス回避から前進までがグループとしてセットになっているのです。日本の選手は、まだまだそこが遅いですし、状況をよく見ないで早すぎるタイミングで先に行ってしまうことも多いです。行くべきでないタイミングで、前進してしまう。対応が遅れているというより、早すぎる結果後手に回るケースも多いように思います。

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7:「仲間を助ける」ためにプレーせよ

南米の選手は、イメージと違い「仲間を助ける」ために自分が関わろうとすることが多いです。ボールを持ってからが大切であることを理解しており、より良い状態で受けようとします。それでいて、邪魔になるポジションは取らない、無秩序にはならない。スペースを作り、そこに入っていく。そのタイミングや動き直しやコース取りが、的確で早い。効率よく、最短距離でプレーする。そして、難しいことはしない。

何より、いろいろと考えていないのです。全部が「当たり前」なので、自然と身体が動くのです。逆に言えば、それらが当たり前にできないから「考えて」やらねばいけないわけですね。南米の選手は、自分たちがやりたいことをやるのではなく、その時・その時で状況と基準に照らし合わせ「こうするのが当たり前」という決断をすることが自然と染み付いているのです。だからミスも少なく、極端にタイミングが合わないこともなく、早くプレーできるのです。

8:「蹴り方」の差を埋めよ

結果を出す上で最も重要なのは、キックでありシュートの質です。ここでパスが通るか、ゴールが決まるかですべてが変わります。この蹴り方の差はとても大きいので、ぜひ注目してもらいたいポイントです。日本の選手はシュートはもちろん、パスにしてもクロスにしても質の部分でまだまだ向上の余地があります。

南米の選手は、ボールを自分の前に置いてから最短距離でラクに打つ蹴り方を身につけています。軸足をかかとから地面につけ、足の裏全体で「トン」というリズムで軽く踏む感覚で置き、自分の身体をそこに移動させて蹴っているだけ。まっすぐ置いて、まっすぐ走って、まっすぐ蹴る。軸足はひざを曲げず垂直にまっすぐ、蹴り足もまっすぐ目標へ向かって放り出される。重心・体重がしっかりボールに乗って、運ばれていく。フカさず鋭く伸びて突き刺さるようなボールが蹴れる。

ひねりもしないし、寝かせもしないし、横にもずらさない。それほどチカラもいらない。どこにボールがあってもシンプルに打てる。そうした蹴り方を習得しているのです。逆に、それができないとシュートチャンスを逃すことも多く、精度やパワーも落ち、GKにも読まれ、コントロールミスも多くなります。

蹴りたいときにいつでも蹴れる、タイミングを逃さない、決断を迷わない。こうした蹴り方の差が埋まるようになれば、結果の差もかなり縮まるように思います。

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9:フットサルに学べ!

南米勢と戦うと、特に20メートル×40メートル、5対5といったフットサル的なエリアの戦いで差をつけられることが多いように思います。先ほども述べましたが、日本の選手も1対1の戦いではむしろ対応できることが多いのです。しかし、2対2となると途端に状況が難しくなります。フットサル的な攻防に持ち込まれると、日本はどうしていいかわからなくなるのです。

日本は数的不利な状況に持ち込まれたら、それを1対1、数的同数の状況に持ち直し、それから数的優位に持ち込み、その優位性を活かすというような、「不利⇒有利、優位」への発展のさせ方、さらに優位性の中でどういう有効手を打つかということがまだ苦手なように思います。

南米勢はそれをスモールフィールドの中で、シンプルに、相手の距離感が近い中でも何のプレッシャーも感じずに行えます。そういうプレーを学ぶ上で、フットサルは有効だと考えます。逆に、日本代表選手たちがフットサルの基本が身についた状態で試合をすればブラジルとも面白い試合ができるように思います。実際、現代フットボールはフットサル化している部分もありますから。

まとめ

日本は、まだまだ「日常ではないことをやっている」状況だと思います。フットサルもそうですし、ポジショナルプレーという定位置攻撃の考え方の基本が、まだ身についているわけではありません。ゆえに、南米勢を相手にすると優位性を発揮され、勝つことが難しくなっています。

南米勢は、自分のことをよく理解しています。自分の特徴をよく理解し、ライバルを理解し、劣ると思ったら真似はしない。南米勢と戦うには、そういう相手との積み重ねの中で成長していく必要がありますし、世界の最先端を見つめ続け良いものは積極的に取り入れていくことも重要になります。例えばスペインはそうした最新の知見を発信し続けていますし、ドイツやイングランドにもそうした考え方が入ることで変わりつつあります。

固定観念にとらわれず、サッカーを再定義し続け、常にブラッシュアップし続けています。日本もそうなっていけば、自ずと道は開けると思います。

<了>


VictorySportsNews編集部