初披露と制作の過程
ぐるぐるぐ~る ぐるぐるぐ~る 手を回して♪ のびのびの~び のびのびの~び 大きく伸びて♪ 試合を控えたパナソニックスタジアム吹田のスピーカーから、陽気な曲が鳴り響いた。思わず足を止め、曲に合わせてはしゃぐ子どもたちの姿が見えた。グッズの抽選に待機列ができ、専用のシートやラウンジまで準備された特別な「モフレムデー」に、「モフレムたいそう」がスタジアム初披露となった。
5月31日の鹿島戦で初披露となったこの体操を制作・監修したのは、12代目体操のお兄さんとして2019年から4年間活躍した福尾誠さん。現在も子どもとともに楽しむイベントを数多く行う福尾さんは、「モフレムたいそう」制作のオファーを受けて「誰でも真似しやすい楽しい運動というところはポイントとして作りました」と振り返る。この日、福尾さんはスタジアムを訪れて、モフレムと一緒にハーフタイムに「モフレムたいそう」を披露。試合の合間にスタンドのファンも一緒になって体を動かした。

リズムがどんどん変わっていく音楽に、子どもでも楽しみながら覚えることができる親しみやすい動き。「モフレムだったらこういう動きをするんじゃないかなとすごく想像して一緒に作りました。立って体操するのはもちろん、スタジアムの中で座ったままでも動けるようにというのも大事にしています」と福尾さん。この体操がサッカーやガンバ大阪を知る入り口のひとつとなるように思いを込めている。
新しいクラブへの入り口として
「モフレムたいそうを一つのきっかけとしてチームの盛り上がりや、スタジアムに実際に足を運んでみんなで応援する楽しさも知ってほしいです。サッカーをまだ始めていない子どもたちがスタジアムに来てサッカーを見るきっかけを作ることで、サッカーを始めていく夢という部分も応援できるんじゃないかな」
モフレムたいそうの制作から披露を通してモフレムとの仲を深めた福尾さん。クラブの公式YouTubeチャンネルにもアップされているメイキング動画などからその様子を見ることができる。ハーフタイムの披露では、コミュニケーションを取りながら息を合わせて活動。福尾さんはモフレムの印象について「ただものじゃないオーラを感じました。いい匂いもするし。初めて会った時に名刺をいただいたりして、人気すぎる理由がわかります」。モフレム独自の香り「MOFFICÉ(モフィ―チェ)」にも魅了された様子で、「モフレムには世界で活躍してもらいたい」と今後の活動にエールを送った。福尾さん自身もモフレムとの関わりを通してサッカーの魅力に改めて気づくことができたと語っている。
「僕が届けられる応援のスタイルはすごくモフレム体操にマッチした部分があったし、直接この現場に来てサッカーはやっぱりかっこいいなと今までよりも強く思いました。僕もモフレムたいそうをきっかけにサッカーをより調べましたし、お子さんがいてこの体操を知った大人の皆さんも、大人になってからでもサッカーを応援するきっかけにもなったら嬉しいなと思います。まずは足を1歩踏み出して応援しに行くところのきっかけになればうれしいです」
ポイントは「脱サッカー」

モフレムは2022年5月に誕生したガンバ大阪のマスコットキャラクター。以降さまざまなイベントやグッズの制作、ホームタウン活動などでぐんぐんと人気を伸ばし、今回「モフレムたいそう」が初披露となった「モフレムデー」では32013人の集客があった。石丸さんはこの「モフレムたいそう」の発案について、「モフレムには既に『モフレムダンス』という、モフレムの特徴や世界観を感じられるダンスがあります。スタジアムへお越しになられるお客様に、少しでもテーマパークの様な感動を届けたいという思いで、とあるテーマパークで披露されているダンスをイメージして制作しました。今では、スタジアム、地域や企業様のイベントでも毎回披露するモフレムにとっては欠かせない演目となっています。今年のモフレムデーをきっかけに、さらにモフレムの魅力を小さなお子様にも届けたいという思いから、たどり着いたのが『モフレムたいそう』でした」と語る。
制作にあたって考えられた大きなポイントは、「あくまでモフレムのキャラクターにフォーカスして作る」ところだったと石丸さんは明かす。大きな特徴として見られるのは、サッカークラブのマスコットキャラクターでありながら体操の中にはボールを蹴る、ヘディングするなど、サッカーの要素がひとつも見られないことだ。モフレムは大きな体を揺らしながら森を動き回り、動物と一緒に踊り、水の中に飛び込んで全身を動かしている。
「モフレム自身がサッカー界を超えた場所でも認知をされたい、そういう思いで活動しているところもあったので、ちょっとサッカーというものからは少し離れたところは意識しています。単独で出ていってもお客さんに受けいれられる必要があるので、ガンバとある程度切り離した状態でも、モフレムが自立していってほしいなという思いも込めています」
「常勝」のマスコット、その小さくない影響

Jリーグでは過去にあった「マスコット総選挙」という企画の存在を通してマスコットキャラクターが独自の注目を浴びたり、ゆるキャラ大国らしくキャラクターが単体で活動の幅を広げたり、認知とともにファンを獲得していくことがしばしば見られた。モフレムもそんなキャラクターのひとつとして注目を集める存在になっている。この「モフレムたいそう」が初披露された「モフレムデー」では、小さな子どもが遊べるスペースをスタンドに準備した「モフレムチケット」や、モフレムのグリーティングを体験できる「モフレムラウンジ」など多様な企画が用意された。なかでも大・中・小のモフレムのぬいぐるみが抽選で当たる「モフくじ」は、「1時間半くらい並ぶ方もいらっしゃって、ひとつのグッズでここまで反響があるとは想定外だった」(石丸さん)というほどの人気を誇った。
どうしてもチームの勝敗に振る舞いが左右されてしまうサッカークラブにおいて、いつでも「勝てる」マスコットの活躍は重要だ。石丸さんによると、「モフレムデー」では今季のこれまでのホームゲームと比較して女性観客の比率や15歳以下の来場者の比率が増加。平均年齢の低下やモフレムが普段活動しているホームタウン内からの来場者数の増加など、スタジアムを訪れる人の傾向にも一定の影響があったことが伺えたという。福尾さんも「世界で活躍してもらいたい」と期待を込めていたモフレムだが、石丸さんもその思いは同じだ。
「サッカーの枠にとらわれず今後も幅広い活動をしていきながら、もちろんゆくゆくは世界っていうところも見据えているので。どのように活動を広げていくかはわからないですけど、そこに繋がるような活動はしていきたいですね」
クラブを飛び出して脚光を浴びることが、クラブへの何よりの還元になる。そんな思いがこめられた中で生まれた「モフレムたいそう」が、今後どのように周知されて広がっていくか注目される。