中垣内祐一、中田久美を支える外国人コーチ

現在の全日本バレーボールチームは、男女ともに監督が日本人、戦術コーチに外国人という体制をとっている。男子が往年の大エース中垣内祐一、女子が天才セッターとの呼び声も高かった中田久美。男子のコーチは、フィリップ・ブランという自身もフランス代表監督として五輪出場の経験があり、最近では2014年世界選手権で優勝したポーランドの代表コーチを務めていたキャリアのある人物である。女子のコーチであるフェルハト・アクバシュ氏は、トルコ人でトルコ代表監督の経験がある。それぞれ、練習メニューは外国人コーチがメインとなって組まれ、試合中のタイムアウトでの指示も多くは彼らから出される。国際映像などで試合が中継される時、カメラはしばしばコーチをアップにして抜く。

日本バレーボール協会のハイパフォーマンス強化事業本部長の鳥羽賢二氏に、この体制について取材を試みたが、多忙とのことで実現しなかった。ここでは選手たちの声や、これまでの全日本バレーチームの指導陣についてなどから、この体制について考えてみたい。

4年前、ゲーリー・サトウという日系三世のアメリカ人が、全日本男子チームの監督として鳴り物入りで就任した。全日本男女チームで史上初の外国人監督だった彼は、「世界標準」を全日本男子にもたらすことを約束し、大いに期待された。しかし、結果は期待からはかけ離れていた。就任直後、毎年行われていたワールドリーグでは参加18カ国中最下位。9月に行われた世界選手権アジア予選で韓国にストレート負けを喫し、参加し始めてから14大会連続で出場していた記録を途絶えさせた。10月のグランドチャンピオンズカップでは全敗。2月に更迭され、パナソニックで指揮をとっていた南部正司監督が新しく監督となった。

バレー界が経験した外国人監督の解任

この時の交代劇のことを、多くのバレーファンが疑問に思っている。先のサッカー日本代表監督解任劇でも思い出した人が多かったようだ。JVAは解任の理由の一つに「コミュニケーションの問題があった」と発表していたこともそれに輪をかけた。サトウ氏は日系人で外見は日本人そのものだったが、日本語は話せず、通訳がついていた。就任が2月と遅くなったため、全日本の登録メンバーはサトウ氏ではなくJVAが選抜していた中から選ばれることになった。「自分でメンバーを選ばせてもらえなかった」「コミュニケーションの問題を理由とされた」「サトウ氏の持ち込んだ練習方法には自主性が必要とされ、日本の選手にはまだ早かったとコメントされた」といったところで、サトウ氏の解任は不当だったと見る向きがあるが、筆者はそうは思わない。

サトウ氏はアメリカ代表チームのコーチを長年勤めてきており、世界標準のバレーを指導することはできた。しかし、「監督」という立場での経験が足りず、メンバー交代やタイムアウトのタイミングなど、疑問を持つ采配が多かった。現に、この年最も優先度の高かった世界選手権アジア予選の要となった韓国戦で、サトウ氏はセットでとれる2回のタイムアウトを使い切らず惨敗した。よく「全日本は育成の場ではない」と言われるが、選手でそうならば、監督は当然熟練者が求められる。サトウ氏解任の「日本の選手の成熟度が追いついていない」というのは、サトウ氏への気遣いのコメントだったと理解している。ただ、ずっと世界でトップを走り続けてきたアメリカ代表チームの戦術や練習方法を知っている指導者として、例えばスーパーバイザーとして残ってもらう道はあったのではないかと当時感じた。サトウ氏自身も「その形でももちろん受諾するよ」と言ってくれた。

後任の南部監督は、パナソニック時代からコーチに外国人を起用していた。南部氏がコーチ時代から親交のあった高名なブラジル元代表監督・レゼンデ・ベルナルド氏から紹介してもらい、ブラジル人コーチを招いてスタッフとした。そして全日本監督担った際には、90年代イタリアに黄金期をもたらした名将・ベラスコ氏の元でコーチをしていたイラン人・アーマツ・マサジェディ氏を全日本のコーチに据えた。南部ジャパンは石川祐希、柳田将洋といった今の全日本の主力となる新戦力を発掘し、ワールドカップでは20年ぶり6位に躍進した。

翻って、国内リーグを見てみよう。パナソニックで南部氏の後任である川村慎二監督も、南部氏と同じようにブラジル人コーチに戦術面を任せている。V・プレミアリーグ(1部)では、一時上位3チームの監督が外国人だった年もあった。その後、パナソニックのように、あるいは今の全日本男女チームのように、日本人監督、外国人コーチの体制を取るところが増えてきた。昨季はサントリーサンバーズとFC東京と堺ブレイザーズがこのスタイルを導入し、今季はアーマツ氏が監督をしていたジェイテクトSTINGSも監督を日本人の高橋慎治氏に、コーチにイタリア人を入れた。また、アーマツ氏は今季からV1(1部)に参入するVC長野のコーチとなった。監督は日本人である。

Vリーグでは30年ほど前から外国人監督をトップに据えるチームも存在した。男女で監督としてオリンピック銀メダルを獲得したアリー・セリンジャー氏や、ロシア代表監督だったパルシン・ゲンナジー氏、現在中垣内ジャパンの元で、シニアBチームの監督を任せられているゴーダン・メイフォース氏、2014年度、創部84年目の初優勝を成し遂げたヴコヴィッチ・ヴェセリン氏、その翌年に豊田合成を優勝させたアンディッシュ・クリスティアンソン氏らなど。だが、今のトレンドは日本人監督-外国人コーチに傾いているようだ(*FC東京は今季、外国人コーチが監督に、坂本監督はGMに昇格した)。

二頭体制に対する現場での反応は

昨年中垣内監督ブランコーチ体制が始まってしばらくして、選手たちにこの体制についてどう思うか聞いたところ、パナソニックの選手たちからは「チームと同じ感じで、とてもやりやすい」という回答を得た。今年度全日本に選出されたパナソニックの久原翼も、「世界の先端をいく知識が得られるのは、チームのマウリシオコーチでも、全日本のブランコーチでも同じでメリットですね。ただ、どうしても文化の違いとかで、ぶつかる場面もあります。そういうときに、トップが日本人だとうまくバランスを取ってくれるんですよ。だからすごくいい体制だと思います」と、話している。

チームでも全日本でも他チームに先んじて、この外国人コーチに戦術面を任せる体制を作った南部氏は、「もちろん自分自身も学びながら、でも効率よく世界標準の知識を取り入れるためには、このやり方が一番いいなと思いました。監督、特に全日本代表監督というのは、戦術だけでもだめで、選手一人一人を把握することも大事ですし、JVAやその他周りとの調整役も必要とされますから」とそのメリットを語ってくれたが、一方で「でもですね、例えば僕がレゼンデにいろんなアイディアを話すと、『それはいいじゃないか』とか評価してくれるんですよ。だから、日本人監督が知識がないとかアイディアがないというわけでは必ずしもない。でも、同じことを僕が言うのと、外国人の姿形の人間が言うのとでは、選手の受け取り方も違うんですよね(笑)。それもまあ一つの効用と言えるでしょう」とちらりと本音も垣間見せた。確かに、今の全日本男子をとりまく反応を見ていても、自分にとって好ましい施策はブランコーチが、好ましくない施策は中垣内監督がしていると主張するファンも多く、南部氏の苦笑混じりの指摘が思い出される。

チームなら企業やスポンサーなどと、全日本ならJVAやメディア対応など、「監督」が担う役割はいくつもある。そこに日本人を据えて(アイコンとなるような知名度の高い監督を置くことも可能だ)、コーチに異国の血を入れるやり方は、これからも機能していくだろう。今話題となっているサッカー日本代表監督も、「外国人監督か日本人監督か」の2択だけでなく、この方法も試してみるのもよいのではないだろうか。

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』