サーブが決まらず、レシーブも安定しない日本

全日本女子チームが苦闘している。今年度から始まった国際大会、ネーションズリーグ(昨年まで12カ国で争ったワールドグランプリが、16カ国総当たりで戦うネーションズリーグとなり、上位6カ国がファイナルラウンドに進む)で現在2勝4敗で16チーム中の11位。

ホームの豊田大会3日目には、ランキング8位のオランダにストレートで破れた(日本は6位)。内容も、第3セットにようやく21点とギリギリ20点台に乗せられたものの、第1、第2セットはともに18点で惨敗。試合後の記者会見では、中田久美監督は言葉をつまらせて涙した。「(涙の訳は)ただ悔しさだけです。選手云々ではなく」と答えた中田監督だったが、2年目の中田ジャパンはどこに苦しんでいるのか。

敗因はもちろん様々な要素がある。初戦のセルビア戦では「チーム全体が緊張していた」(古賀紗理那)ということだったが、すでに6試合をこなし、それを理由にすることはできない。負けた試合では、サーブで相手を崩せず、逆に日本がレセプション(サーブレシーブ)で崩される場面が多かった。ベストサーバーランキングで日本トップなのは、なんと53位の古賀紗理那で、100位までに3名しかランクインしていない。

現代バレーは男女ともサーブ&ブロックが基本と言われている。日本のサーブがほとんど相手のレシーバーを崩せず、セッターがどんな攻撃でも使える状態で、日本より高さのあるチームの攻撃を絞り、ブロックにかけていくことはほぼ不可能だ。ベストレシーバーランキングでの日本トップは7位の石井だが、次が96位の古賀。いかにレセプションで崩されているかがわかる。オランダ戦では日本のサービスエースが1本のみなのに対して、オランダが7本。アメリカ戦でも日本1、アメリカ4。

アメリカ戦で中田監督は「サーブがまったく機能しなかった」と振り返っている。「アメリカのAパス(セッターが動かずにセットアップできるサーブレシーブ)率が高く、レフトに振られて決められました。こういう緊張感の中でも、もっと相手を崩すサーブを打っていかないといけないと思います。流れが来てもサーブミスをして流れをもっていかれてしまう。状況判断をしっかりしていかないといけないと思います。サーブレシーブに関しては、井上(琴絵)が狙われ、そこが崩されると厳しい。途中から新鍋(理沙)、内瀬戸(真実)を入れてある程度は安定しましたが、もっと精度を上げなければならないと思います」と語っていたが、オランダ戦では新鍋と内瀬戸を入れても崩され、構想していた「速いコンビネーション」まで持っていくことができなかった。

日本のスパイクはなぜ決まらないのか

またディグ(スパイクレシーブ)も、日本より大型選手の揃う上位国のほうが拾っている。ベストディガーランキングで、上位10人の中に日本は石井優希一人しか入っていない。オランダは3人、アメリカ(ランキング2位)は2人入っている。

日本のスパイクはなかなか1本では決められず、セルビアやアメリカ、オランダのスパイクは1発で決められていた。日本は今年はリードブロック(相手のトスがどこに上がるかを見てから跳ぶブロック)に取り組んでいると言うが、それでも相手に1枚にされている場面が目立った。リードブロックをする場合は、見てから跳ぶためどうしても遅れがちだが、それでも諦めず手を出し続けることが必要だ。ゾーンでのブロックがあって初めて後ろのディガーとの連携が取れるからである。遅れても粘り強く跳びに行って、抜けたコースにはしっかりとディガーが入るということを徹底すべきだ。

しかし、いかにリードブロックを徹底しようとしても、最初に相手のサーブレシーブが綺麗にAパスとなった場合は、バックアタックも含めて4枚同時に攻撃態勢に入られるとどうしようもなくなる。つまりは最初の「サーブで崩す」ことができていないことが、ディグの悪さにもつながっているのだ。また、せっかく1本目をなんとか拾っても、2本目が雑になってつながらない、トスにできない。「拾ってつないで」を日本ができずに、大型チームにやられている。

そして、なぜ日本はなかなか1本目でスパイクを決められないかというと、もちろん身長やパワーも違うのだが、その前にレセプションを崩され、トスを上げられる場所が絞られてブロックにかけられることが多いこと。また、そもそもトス自体がスパイカーが打ちにくいトスになっているのだ。セッターの田代佳奈美も「トスが短くなってしまった時が多々あった」と認めている。

中田ジャパンはレセプションを大切に考え、それを中心とした練習を行ってきた。しかし、今の所成果は出ているとは言い難い。中田監督は、「強化方針の一つとしてレセプションアタックをずっと挙げてきて、試合にAパスに入らなかったりするのはしかたないですが、それをカバーしてあげる技術とか、高いブロックにフォローする気持ちとか、もっとギリギリのところでできることがあると思う」と、Aパスにできなかった場合について言及した。

これまでに見えたポジティブな要素は

では、ネーションズリーグで明るい材料ないのか。そんなことはない。昨年は登録されたものの招集されずに終わった黒後愛や井上愛里沙が参加し、成長の兆しを見せている。黒後は中田監督から「エースとしてのオーラがある」と期待される逸材。初戦のセルビア戦でスタメンで出場したが、スパイク得点を1点も取れず下げられ、オランダ戦で5試合ぶりのスタメンとなった。オランダ戦でははつらつと駆け回り、日本チーム最多得点の10点をあげた。黒後は「セルビア戦の初戦でスタートで出してもらった時に、思うようにスパイクが決まらなくて、一人で下を向いてしまって、1セット目だけで終わってしまったんですけど、決まらなくて当たり前だし、自分はまだこのシニアの世界でプレーしたことが初めてなので、そこで自分ができなかったときに、次はどうしたらいいのか考え、もっと前向きに次の試合に向かいたい。今日1本目、ドシャット(アタックが完璧にブロックされること)くらって逆に良かったというか、そこから自分でトスを呼んでスパイクを決めきれたことが良かった」と手応えを感じていた。

コメントにもあるように、第1セットの入りは岩坂のクイックがシャットされたのに始まって、黒後も含め連続被ブロックをくらった。そこで普通なら意気消沈するところだが、「逆に良かった」と言えるメンタルの強さは貴重だと言えるだろう。今後の課題として、「今日はスパイクだけ(レセプションは免除)という形で入った。やはり日本は世界と戦うのにディフェンス面でも大切だと思うので、もっとレセプションでもディグでもチームに貢献したい」と、レセプションを担当するスパイカーとして意欲を見せている。

また、昨年までバックアタックを打たなかった内瀬戸(170cm)が、イタリアセリエA2で経験を積み、バックアタックにも果敢に挑戦するようになった。どうしても身長が低い選手はバックアタックを敬遠しがちなものだが、内瀬戸が入って後衛に回っても攻撃枚数が減らないことは一つの光明だろう。男子では178cm(代表クラスの男子スパイカーとしては非常に低い)の浅野博亮も普通にバックアタックに入る。Aパスにこだわりすぎず、BパスCパスからの攻撃を想定することと、攻撃枚数を増やすこと。アジア大会と世界選手権に向けて、どこまで修正できるか。まずは香港ラウンドだ。

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』