早かったビーチバレーへの順応

©岩本勝暁

かつては春高バレーのヒロインとしてスポットライト浴びた。愛らしいルックスとひたむきにボールを追いかけるその姿勢が、多くのバレーファンの心を打った。

あれから8年が過ぎた。主戦場を砂の上に変えたスーパールーキーが、今、燦々と照りつける太陽の下で奮闘している。

二見梓(東レエンジニアリング株式会社)、25歳。

ビーチバレーに転向してわずか2年目で、「ジャパンビーチバレーボールツアー2017」の開幕戦となる東京大会を制した。第3戦の南あわじ大会で3位に入ると、続く第4戦の行橋大会で2度目の優勝。出場したすべての大会で表彰台に立っている。さらに、7月の「FIVBビーチバレーボールワールドツアー2017アガディール大会」で準優勝。8月のビーチバレージャパンで初優勝を果たすなど快進撃を続けている。

圧巻は、その高さだ。二見は神奈川県の大和南高校を卒業した後、Vリーグの東レアローズに入団。181センチの高さを武器に活躍してきた。

「もともとインドアではミドルブロッカーでした。勘とかそういうのはビーチバレーと同じだけど、ジャンプの仕方や手の出し方が違う。インドアの場合は隣に人がいるから、ブロックをする時もぶつかりながら跳びますから。そういう意味では、いいところは思い出して、違うところは忘れるようにしています」

転向した選手の多くが砂の上での動きに苦しむ中、ネット際での二見は早くもビーチバレーの動きにフィットしている。相手スパイカーの正面にすばやく入り、手を砂のコートにつけてフルスクワットからジャンプ。ブロックは、ビーチバレー仕様に近づきつつある。空中でのバランスも抜群。もう少し手が前に出てくれば、高さのある海外勢とも伍して戦えるだろう。

パートナーにも恵まれた。ビーチバレーに転向して3年目の長谷川暁子(愛媛県競技力向上対策本部)。インドアではNECレッドロケッツに所属し、キャプテンとして黒鷲旗の準優勝などに貢献した。2014年にNECを退団。夫の長谷川徳海に誘われる形でビーチバレーに転向すると、卓越した技術と高い身体能力を武器に、瞬く間に日本のトップに上り詰めた。

攻撃的なプレーが2人のストロングポイントだ。ビーチバレージャパンの決勝戦でも、その持ち味を遺憾なく発揮。二見が要所で高い打点から強打をたたき込み、ジュースにもつれ込んだ第1セットを競り勝った。続く第2セットも、好調をキープ。相手の攻撃を高いブロックでワンタッチを取り、勢いが落ちたボールを後ろで守る長谷川がつなぐ。チャンスと見るや、高い打点から強烈なスパイクを相手コートに突き刺した。ハイライトは、17−14で見せたブロックポイントだ。試合の終盤になってもジャンプの高さが落ちず、その後もブロックでプレッシャーをかけ続けた。7歳上の長谷川は、二見の持ち味を“心”だと言う。

「思い切りがいいですよね。逃げないし、相手と戦える。私もアズ(二見)もプレーの面ではそこまで成熟していないし、もっと精度を高めていけると思っている。その中でも、アズはどんどん新しいことにトライしています。高い打点から打ち込んだり、ブロックで思い切り手を出してみたり、そういったことにトライできる。高さだけでなく、心がいいんだと思います。私が『やってみよう』と言ったことに乗っかってくれるから心強いですよ」

Vリーグ経験者が増え、底上げ進むビーチバレー

©岩本勝暁

ビーチバレー人気の回復に寄せられる期待も大きい。ここ数年、国内で行われるビーチバレーの観客減は顕著だ。かつては砲列を敷いていた報道陣のカメラもめっきりいなくなった。人気の陰りは実力にも比例している。日本はビーチバレーが正式種目になった1996年アトランタオリンピック以降、男女のどちらかが必ず出場してきた。しかし、前回のリオデジャネイロオリンピックで、連続出場がついにストップ。アジアでも勝てない状況が続いている。

しかし、今の日本のビーチバレーは復活の兆しを見せている。7月には、石井美樹(湘南ベルマーレ)・村上めぐみ(株式会社オーイング)ペアが「FIVBビーチバレーボールワールドツアー2017大邱大会」で優勝。Vリーグ経験者の和田麻里江(トヨタ自動車)、橋本涼加(トヨタ自動車)が今年度の日本代表に選ばれるなど底上げも進んでいる。まさに群雄割拠の状況だ。その中でも、二見、長谷川の2人が起爆剤となって再びビーチバレー人気に火をつけるのもけっして難しい話ではないだろう。二見は言う。

「いつもアキさん(長谷川)と話しているんです。私たちが先頭に立って、ビーチバレー界をよくしていきたいですねって。自分たちだけで勝手にやって強くなっても、日本のためにはならない。常にみんなの見本になりたいし、トップでありたい。行動から気をつけています」

国内のビーチバレーシーズンは終盤に差し掛かろうとしているが、面白くなるのはこれからだ。ジャパンビーチバレーボールツアー2017の第7戦が神奈川県平塚市で、第8戦が東京都大田区で、第9戦が宮崎県都城市で行われる。さらに9月30日から大阪でファイナルが開催。10月6〜9日には、グランフロント大阪で「AVCビーチバレーボール アジアツアー2017」が開催される。

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岩本勝暁

1972年生まれ。大阪府出身。2002年にフリーランスのスポーツライターとなり、バレーボール、ビーチバレーボール、サッカー、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオデジャネイロ大会まで、夏季オリンピックを4大会連続で現地取材する。