構成・文/キビタ キビオ 写真/塚原孝顕
パ・リーグのパワー野球にセ・リーグはお手上げ!?
──今年も、5月31日から交流戦がはじまります。昨年はパ・リーグが圧倒的な力を見せつけて、全体の勝敗ではセ・リーグに大きく勝ち越しました。交流戦が導入された2005年から昨年までの11年間で、セ・リーグが勝ち越したのはたった1度だけというデータがあります。
中畑 昨年は主にわたしが指揮したDeNAが原因です(3勝14敗1分)、はい。ガックリ……(苦笑)。
ダンカン そんななか、阪神だけは10勝8敗で勝ち越しましたよ(笑)。
──今年はどうでしょうか? セ・リーグの巻き返しは可能でしょうか。
ダンカン ハッキリ言って無理でしょう。DH制の有無の違いがある限り、永遠に変わらないと思います。なにせ、野球そのものが違いますよ。DH制のパ・リーグは打線に切れ目がないから、ピッチャーは困ったときにフォアボールで逃げることができない。だから、ストレートを中心に、強く思い切って勝負する。すると、力でねじ伏せられるピッチャーが生き残るし、どんどん育つという図式ができますよね。
中畑 それに対してバッターも思い切り振ることで対抗するから、打撃も含めてリーグ全体が育っていく。DeNAの監督として4年間交流戦で対戦してみて、パ・リーグは、やはりパワー野球だと実感したよ。そこに、テクニックまで加わった最近のソフトバンクは、もう“鬼に金棒”状態。選手のバランスが実に良く整っている。いや、整い過ぎているくらいだ。スキがあるとしたら、工藤(公康)監督くらいじゃない(笑)? それは冗談として、あのチームなら采配もスムーズだよな。
ダンカン 清さんの話が決して大袈裟に感じないくらい、いまのソフトバンクは強いですからねえ。
昨年は柳田悠岐のスコアボード直撃弾からDeNAは12連敗へ……
ダンカン ソフトバンクは組織としても万全ですよね。今年、新たに建設されたファーム用の「HAWKSベースボールパーク筑後」を、あるTV番組の企画で建設中に見せてもらったんです。ヤフオクドームと同じ広さのグラウンドをメインに、室内練習場や選手の寮など、施設も本当に素晴らしかった。おまけに、三軍制ですからね。
中畑 その三軍のキャンプをこの春に見たんだよ。凄いぞ! どの選手も身長190センチくらいあって体がデカイんだ。ブルペンでは、150キロ近い速球を当たり前のようにバンバン投げるピッチャーがたくさんいて、フリー打撃ではホームランをガンガン飛ばす野手ばかり。「ここにいるのは三軍の選手です」って聞いた日には、もうビックリだったよ。「昨年までのDeNAなら、みんなレギュラーだぞ!」って思わず叫んじゃった(笑)。
ダンカン まあ、実際のところはピッチャーならコントロールが悪いとか、決め球になるような変化球が不十分だったりするのでしょうね。また、打者なら打てるコースの範囲や変化球への対応力が乏しいというような“粗さ”が大きいから三軍なのでしょうけど、スケールの大きな素材を育成するというのは魅力です。
中畑 そういうシステムを、十分なお金をかけて構築するやり方は、ちょっと他の球団にはないな。というか、できないと言った方が正しいか。既に、ある意味では“固有の世界”を作り上げているよ。
ダンカン ソフトバンクだけで、メジャーリーグに参戦したら面白いんじゃないですか?
中畑 よく、「日本の最強チームを結成してメジャーに挑戦したら?」なんて言われるけど、いまのソフトバンクは最強チームみたいなものだからな。真面目な話、メジャーでやってもいい勝負をするよ。
──昨年、DeNA対ソフトバンクの交流戦では、柳田悠岐が横浜スタジアムのセンターバックスクリーンを直撃する特大ホームランが出て、スクリーンの電飾が破損するという衝撃的なシーンもありました。
中畑 あの後に柳田に会った際、「あれは、いくらなんでも三浦大輔に失礼だろう!?」って、冗談混じりに言ってやったよ(笑)。アイツ、あそこまで飛ばしておいて、試合後の談話で「少し詰まっていました」なんてコメントしていたんだから。もし、その場で大輔が聞いたら、きっと自殺を考えたに違いない(笑)。
ダンカン 柳田には、せめて電飾の修理代くらい請求しないといけませんねえ(笑)。実際、あの修理だけで何十万円、いや、ひょっとしたら何百万円もかったかもしれません。
中畑 まってくれ! それだけじゃ、全然足りない! なにしろ、あの試合をきっかけにして、悪夢の12連敗がはじまったんだから(苦笑)。あれがなければ、オレは今年もDeNAで監督をやっていたかもしれないぞ。まあ、野球に“たられば”はないけどな。確かなことは、柳田のあの一発は、ソフトバンクの強さを象徴するものだったということだよ。
セ・リーグはエース級をソフトバンクにぶつけて意地を見せよ!
──それにしても、いくら野球が違うといっても交流戦でこれほどまでにリーグの差が出ている現状はいかがなものでしょう? セ・リーグのチームには意地を見せてもらいたいと思います。
中畑 意地って言うけどさ。そこを“イジ”って、どうすんだよ?
ダンカン 清さんすいません。それ、あまり……面白くないですよ(笑)。
中畑 すまん、すまん……(笑)。でも、実際のところ、胸を借りるつもりでぶつかっていくくらいしかないんじゃないか? ただ、誤解してほしくないのは、強過ぎるのはソフトバンクだけってこと。他の5球団については、いくらでもやりようがあるんだ。セ・リーグの各球団だって十分に戦うことができるよ。
──パ・リーグを見渡せば、日本ハムには二刀流の大谷翔平がいます。
中畑 大谷はもちろんスペシャルな選手だよ。だけど、昨年の交流戦でDeNAが直接対戦したときは、砂田(毅樹)をプロ初登板、初先発でぶつけて6回途中まで1対0でリードしていたんだ。ランナーを出したところで交代させたら、リリーフが逆転3ランを打たれてしまって、そのまま3対1で逃げ切られてしまったけど対等に戦うことはできた。
ダンカン わたしも結局は、ソフトバンクだけが図抜けていると感じますね。しかし、かつて黄金時代を築いたV9時代の巨人や、1980年代から1990年代の西武に対して、他のチームはローテーションを崩してでもエース級の投手を先発でぶつける“包囲網”を敷いて、なんとかしようとしました。そのくらいの意地は、どの球団にも見せてほしい。これってパ・リーグの5球団に言うべきことかもしれないですけど、ソフトバンクが苦もなく予想通りに優勝したら、まったく面白くないですからね。もちろん、セ・リーグの6球団も、交流戦ではソフトバンクへの“包囲網”を敷くべきです。
中畑 それがせめてもの意地だよな。そういう意地があってもいいと思う。でも、「ローテーションを崩してまでも意地を貫く」ということを、いまのプロ野球ができるかどうか。実際は、なかなか難しいんだよなあ……。
ダンカン 優勝が難しくても、クライマックスシリーズに出場できるAクラス入りが狙えるなら、下位チームの取りこぼしはしたくないですからね。それから、下位に低迷するチームにしても、エースを少しでも勝てる可能性のある相手に先発させて、目先の勝ち星を拾いたい。そのためには、無理にローテーションを崩すより、そのままの方が……と、考えてしまうのでしょう。でも、清さんがよく仰っている“ファンに魅せる野球”をするのであれば、ソフトバンクの独走を野放しにする方がファンに失礼ですよ。むしろ、露骨にソフトバンク潰しを公言して、対決感を出したほうが盛り上がると思うんだけどなあ。
中畑 毎年、ロッテが交流戦で挑発ポスターを作っているじゃない? 他の球団も同じようにして、しかも、ソフトバンクだけに集中的に攻めたら面白くなるんじゃないか? 「バンクを潰せ!」とか言ってさ。それを他球団の選手やファンの合言葉にすればいい。
ダンカン それは、いいですねー! 解釈の仕方によっては、“銀行破綻”かぁ。まるで、日本の経済みたい(笑)。
中畑 実際、そのくらいハッキリしているよな、力の差が。昨年の日本シリーズの戦いをみれば一目瞭然だったよ。
ダンカン 4番打者でチームの中心である内川(聖一)が故障で出場していないのに、4勝1敗であっさりヤクルトに勝ってしまいましたからね。
中畑 そして、今年はイ・デホ(マリナーズ)が抜けてしまったんだから。もう、みんなそのことすら忘れちゃったんじゃない? そのくらい、今年のソフトバンクも強いけど、イ・デホがいない分だけ他球団にとってはラクなはずなんだ。まだ、だいぶ、イー・デホ?(いいでしょ?)
ダンカン 清さん、それは苦しすぎます! もう退場です(笑)!
中畑 そうかあ? この対談のいい締めになると思ったんだがなあ(笑)。
ダンカン 逆に締まらなくなったじゃないですか!!
中畑 まあ、まあ。とにかく、交流戦では独走態勢に入っているソフトバンクに対して、セ・リーグいかに意地を見せるか。それが、シーズン後半も見据えた大きなポイントになるよ。
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
ダンカン
1959年、埼玉県生まれ。元は立川流の落語家だったが、北野武率いる「たけし軍団」の一員となり、お笑いタレント、俳優、放送作家などとして、バラエティー番組や映画、ドラマなど多彩に活躍している。熱狂的な阪神ファンで、長男に「甲子園」、次男に「虎太郎(とらたろう)」と命名したほど。サンケイスポーツのコラムなど、タイガースに関する執筆活動も多数。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。