そのドジャースとカブスの開幕戦が行われた3月18日、会場である東京ドームの周辺は平日にもかかわらず、昼間から見渡す限りの人、人、人。おそらくはチケットはなくとも雰囲気だけでも味わいたいというファンも多かったのだろう。球場正面の広場にある協賛各社のブースにもひっきりなしに人が訪れていて、筆者もそこに足を運んだ。

 まず訪れたのは旅行業界最大手のJTB。ブース前では大谷、山本らの写真がデザインされた「TOKYO SERIES特別オリジナル応援ハリセン」が配られ、これを求めて次々にファンがやってくる。ブース内では豪華景品が当たる抽選会が行われ、ハリセンと同じデザインのキービジュアルの前で写真が撮れるスポットもあって、大勢の人々が列をなしていた。

 「ブースではハリセンを受け取っていただいたり、抽選会に参加していただいたり、(球場の)中に入られない方にも楽しんでいただけると思います」と話してくれたのはJTB広報室広報担当マネージャーの北澤竜司氏。「MLB東京シリーズ」開催にあたっての同社の取り組みはこのブース展開だけでなく、日本で唯一のMLB公認オフィシャルホスピタリティ&トラベルパッケージ提供会社としての強みを生かし、18、19日の両日には「新大阪・京都・名古屋発号車貸切新幹線で行くMLB開幕戦観戦ツアー」も企画した。

新幹線ツアーの旗を掲げて参加したお客さんを新大阪から送り出す様子(提供:JTB)

 これは東京までの新幹線のぞみ号を本ツアー参加者限定で貸切りにして、車中で特別ゲストを招いてのトークイベントや、抽選会などを行うというもの。もちろん試合観戦もセットになっていて、参加者には公式ホスピタリティ・パッケージの「プレミアムラウンジ」パッケージが用意されたという。

「今日(18日)は元メジャーリーガーの五十嵐亮太さんにご乗車いただきました。座席のすぐ横に五十嵐さんがいらっしゃるぐらいの距離感で、皆さんだけのためにトークしてくださるということで(新大阪から東京までの)2時間半は逆に短いぐらいだったかもしれません。この(開幕戦)本番を迎えるまでの期待感を高めるという意味でも、すごくいい時間になったのかなと思います」(北澤氏)

ゲストとして登壇した五十嵐さんが抽選で当たったお客さんに景品を渡す様子(提供:JTB)

 実際にゲストとして新幹線ツアーに参加した五十嵐亮太氏は、「試合開始まで6時間ほどある中でも、ツアーに参加したお客さんのワクワク感が非常に伝わってきました。トークショーでは、日本人対決に関してメインにお話しさせていただきましたが、みなさん熱心に話を聞いてくれて、僕自身も楽しませてもらいましたし、トークも踏まえて、この後の試合を皆さんが楽しんでいただけらたら嬉しいなと思っています。」と振り返った。

新幹線ツアーで行われたトークショーが盛り上がる様子(提供:JTB)

 なお、公式ホスピタリティ・パッケージには「プレミアムラウンジ」の他に「エキサイトシート」、「プレミアムシート」と全部で3つの種類があり、それぞれに特別ギフトが付くほか、たとえば「エキサイトシート」であれば開幕直前レセプションへの招待、「プレミアムラウンジ」なら日本人レジェンドプレーヤーによる特別解説に食事や飲み物といった、さまざまな「ホスピタリティ(おもてなし)」がパッケージされている。

ホスピタリティラウンジの様子(提供:JTB)

 「新幹線ツアーも含め抽選での販売だったのですが、どれも座席数が非常に少ないので、当選された方はすごく幸運だったと思います。もちろんテレビでの観戦も素晴らしいですけど、この(球場の)熱気は生で観戦しないと伝わらないのかなと思います」と語る北澤氏が見据えるのは、MLB東京シリーズの「その先」。JTBは昨年1月にメジャーリーグと国際パートナーシップを締結していて、シーズンを通してMLB観戦ツアーを催行している。「ここ(MLB東京シリーズ)で楽しんでいただいて『ドジャースやカブスっていいね』、『現地に行ってでもMLBを見たいね』っていう方が増えてくれるといいなと思っています」。

 続いて足を運んだのは、アルバイト求人情報サイト「バイトル」で知られる人材サービス企業、ディップ株式会社のブース。

抽選会やチケット引き換えに多くの人が訪れたディップのブース

 ここでは同社のアプリ「スポットバイトル」をダウンロードすると参加できる抽選会が行われていて、「運だめし」とばかりに多くのファンが訪れていた。

 「TOKYO SERIES」のロゴ入りタオルやサコッシュといった限定グッズを手に入れ、嬉しそうな表情を浮かべる当選者の姿が印象的だった。

「TOKYO SERIES」ロゴが入った限定グッズが当たる抽選会が行われた

 ディップ株式会社では「MLB東京シリーズ」を前に開幕2連戦のチケットが計30名に当たるキャンペーンも実施していて、その当選者もチケットを受け取りにこのブースを訪れていた。キャンペーンは「バイトル」もしくは「スポットバイトル」に求人情報を掲載した企業に向けたものと、「スポットバイトル」のアプリをダウンロードして応募した一般ユーザーに向けたものの2つがあり、双方の当選者から話を聞いてみた。

 「就職や卒業などでスタッフが入れ替わる時期に、たまたまこのキャンペーンがあることを知って応募したんですけど、当たるとはまったく思ってなかったので嬉しいです」と言うのは、神奈川県で飲食店を営む男性。「大谷選手にデカい一発を打ってほしいですけど、純粋に野球が好きなんで、ナイスプレーにはチーム関係なく拍手をしたいです」と話す傍らで、大谷のユニフォームを着た同行の母親が「普段は何もしてくれないんですけど、初めて親孝行をしてくれました」とほほ笑む姿に、こちらもほっこりした。

 「(チケット発売に)全部申し込んだんですけど、取れなくて……。キャンペーンにも片っ端から応募して全部外れて、最後の最後で当たりました」と破顔一笑だったのは、今永ファンだという都内在住の会社員の女性。「(当選の知らせも)最初は迷惑メールかなと思いました」と笑いながらも、超プラチナと言われるチケットを目の当たりにして「まだ夢を見てるみたいです。みんな大谷くんを応援してますけど、私は今永くんを全力で応援します!」と、数時間後に迫ったプレーボールに思いをはせていた。

 「今回のキャンペーンは『スポットバイトル』のアプリのダウンロードを促進するためなんですけど、これまでにもこういうキャンペーンやブース展開をやってきた中で、今回が一番促進できています」と言うのは、ディップ株式会社マーケティング統括部ブランド戦略部部長の大門一将氏。その最大の要因は、何と言っても2023年12月から同社のブランドアンバサダーを務める大谷の存在になるだろう。

「『私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる』という企業理念に共感いただき、野球を通じて「夢とアイデアと情熱」を体現されているのが大谷選手。大谷選手のCM放送前の弊社の認知度は64%だったのが放送後には74%にまで上昇したというデータもありますし、大谷選手が活躍するとそのシナジーで我々のビジネスに良い効果が出ているというのはすごく実感しています。この開幕戦だけでなく、今シーズンも大谷選手の活躍に期待したいですね」

 山本と今永による、MLB史上初の日本人開幕投手同士の投げ合いで始まり、“令和の怪物”こと佐々木が先発としてメジャーデビューを飾った2025年開幕シリーズ。だが、そのハイライトはやはり第2戦で飛び出した大谷の今季第1号ホームランに尽きる。日本中を熱狂の渦に巻き込んだ「MLB東京シリーズ」が幕を下ろしても、ファンのみならずスポンサー企業の期待も乗せて“大谷フィーバー”は野球の本場・アメリカを舞台に続いていく。


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。