バスケットボールB1川崎ブレイブサンダース、サッカーJ3相模原SCを運営するDeNAだが、スポーツ事業の中心にはプロ野球がある。ベイスターズは2024年シーズン、主催試合の観客動員数が235万8312人と球団史上最多を更新。1試合平均の入場者数も過去最多の3万2754人を記録した。DeNAが球団を取得した1年目の2012年は、それぞれ約116万5933人、1万6194人だったのだから、いずれも2倍になった計算だ。スタンドに閑古鳥が鳴き、動員数は12球団ワースト。当時の報道によると売上も50億円ほどで、年間20数億円の赤字を垂れ流す極めて厳しい経営状況にあった。

《2024年 ホーム試合観客動員数ランキング》
順 球団名 1試合平均 試合数  合計
1  阪神 41,801人 72試合 3,009,683人
2 巨人 39,247人 72試合 2,825,761人
3 ソフトバンク 37,862人 72試合 2,726,058人
4 中日 32,951人 71試合 2,339,541人
5 DeNA 32,754人 72試合 2,358,312人
6 オリックス 30,270人 71試合 2,149,202人
7 広島 29,376人 71試合 2,085,671人
8 日本ハム 28,830人 72試合 2,075,734人
9 ヤクルト 28,153人 71試合 1,998,846人
10 ロッテ 26,975人 71試合 1,915,246人
11 楽天 23,143人 70試合 1,620,025人
12 西武 21,601人 72試合 1,555,280人

《2012年 ホーム試合観客動員数ランキング》
順 球団名 1試合平均 試合数  合計
1  巨人 40,333人 72試合 2,903,947人
2 阪神 37,886人 72試合 2,727,790人
3 ソフトバンク 33,993人 72試合 2,447,501人
4 中日 28,896人 72試合 2,0803,530人
5 日本ハム 25,813人 72試合 1,858,524人
6 広島     22,079人 72試合 1,589,658人
7 西武 21,195人 72試合 1,526,028人
8 オリックス 18,482人 72試合 1,330 ,676人
9 ヤクルト 18,371人 72試合 1,322,678人
10 ロッテ 17,211人 72試合 1,239,168人
11 楽天 16,358人 72試合 1,177,793人
12 DeNA 16,194人 72試合 1,165,933人

 「昔はガラガラだった。僕の記念のベースボールカードを見ても、スタンドが空いていた」と述懐するのは、当時を現役の投手として知る三浦大輔監督。昨年11月、東京都内の日本記者クラブでの記者会見に南場智子オーナー(DeNA本社会長)とともに出席した際、様変わりした横浜スタジアムの空気をそう説明。「信じてくれたファンと喜びたかった」と、熱気に包まれる現在の状況が日本一という昨年の成果に結びついたことを強調した。

 2002年に食品大手マルハ(現マルハニチロ)からTBSホールディングスが球団を取得した際の金額は140億円。10年を経てDeNAに譲渡された際の金額は、TBSの取得時に免除された日本野球機構(NPB)への預かり保証金30億円を除くと65億円。価値の低下がどれほどだったのかが、数字に如実に表れている。

 DeNAは初代球団社長の池田純氏のもと、マーケティングを重視し、仕事帰りの20代後半から30代男性を「アクティブサラリーマン」と位置づけて、イニング間イベントの充実や球場周辺での野外ビアガーデン開設など、球場を勝敗に左右されない非日常空間として構築することに力を入れた。そうした意識改革の積み重ねで横浜の街の「空気」を変え、球界屈指の人気球団へと変貌を遂げたことは多くのメディアで語られている。中でも、現在の隆盛に至る最大の転機となったのが2015年オフの革命的な取り組みだった。それが横浜スタジアム運営会社の友好的TOB(株式公開買い付け)。重荷になっていた球場の使用料負担がなくなっただけでなく、球団主導での球場の改修、改善に自由度が増し、ここから球団の収支は単体で黒字に転換した。

 動員・収益増の追い風となったのが飲食事業のテコ入れだった。今では他球団も取り入れる球団オリジナル醸造ビールの先駆けとして「BAYSTARS ALE」「BAYSTARS LAGER」を開発。「食」では「ベイカラ」などの球団オリジナル商品を次々と送り出した。

 この球団オリジナルから揚げ「ベイカラ」は、まさに飲食改革の象徴的といえる存在だ。東京・西麻布にある日本料理の名店「La BOMBANCE(ラ ボンバンス)」のオーナーシェフ、岡元信氏が監修。「ミシュランガイド東京」で10年連続の星獲得という実績を持つ岡元氏が手掛けた「本物」の味が大評判となった。登場から9年がたった今もトップ級の人気を誇る名物スタジアムグルメとして不動の地位を築いている。

 その後、横浜中華街の人気店「江戸清」と共同開発した「ベイ餃子」、横浜中華街発展会監修の本格中華が味わえる店舗「濱星楼(はますたろう)」、関係者食堂で愛されてきた「目玉チャーハン」、人気ラーメン店「らぁ麺 飯田商店」と共同開発した「すたぁ麺」などを次々とスタジアムで展開。ストーリー性を持つ「本物」の味を追求し、ハマスタでしか体験できない一連のグルメ商品を目当てに、一つの観光名所としてハマスタを訪れる層も増えた。「ベイカラ」は、まさにその起点ともいえる代表例だろう。

 ちなみに「ベイカラ」を監修した岡元氏は、今年2月に米ロサンゼルスに初進出。ダウンタウン西側、ルート66の一部であるサンタモニカ・ブルーバード沿いに日本料理「麻倉」(https://asakura.la/)をオープンさせた。東京・西麻布、富山・環水公園、沖縄・古宇利島の「La BOMBANCE」、東京・広尾の「スダチ(Sudachi)」に続く店舗として、今度は米大リーグ、ドジャースの大谷翔平投手の拠点でもある地に出店。香りや食感、見た目に細やかな演出が施された料理が早くも話題となるなど、日本の食文化を国際的に発信している。そんな名料理人監修の味が球場で気軽に味わえるという、野球とはまた異なるタッチポイントを持つところが、ハマスタの一つの強みになっている。

ベイカラは西麻布の名店、日本料理「La BOMBANCE」の料理長岡元信氏監修のもと制作(ベイスターズHPより)

 2020、21年の新型コロナウイルス禍による動員制限で一時低迷した時期はあったが、再び経営で上昇トレンドをつかんだベイスターズ。昨季は筒香嘉智外野手が推定年俸3億円の3年契約で5年ぶりに復帰。今季はサイ・ヤング賞(米最優秀投手賞)投手のトレバー・バウアーが総額9億円規模の契約で2年ぶりに戻ってきた。積極的な大型補強が可能になるのも、好調な経営があるからこそだ。

 今季も球団オリジナル醸造ビールとレモンサワー各10リットル、弁当がセットでつく定員8人のBOXシート「AKTエグゼクティブBOX」や、スタンドには入れずコンコースに限定して球場グルメを楽しめる「ハマスタ入場券」(税込み1000円~)を発売するなど、ハマスタでの新たな楽しみ方を提案するチケットの販売もスタートする。

 「みんなが一つの『強くなりたいという気持ち』で頑張れるような環境をつくることに、今後も腐心していきたい」という南場オーナーに、三浦監督も「日本一になって、また目標があるのがすごくいいこと。リーグ優勝から、もう一度日本一に」と呼応する。「球団」と「チーム」の両輪がかみ合い、好循環が生まれる中、27年ぶりとなる悲願のリーグ優勝、2年連続日本一への機運は確実に高まっている。

画像:横浜観光情報サイトより

VictorySportsNews編集部