構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

あまりにも情けない姿を見せたのは選手層の薄さにあり

──今回は、今シーズンの巨人についてです。OBとして、思うところを存分に話してください。

中畑 とにかく、8月後半以降のふがいなさには怒りを覚えるよ。球界全体を盛り上げるためにも、もっと存在感を示してほしかったのに、緊張感がまるでなかった。8月の前半頃は、阿部(慎之助)が4番に入って、一時期4.5ゲーム差まで迫ったのに、9月になったら、その状態からプラス10ゲーム差以上、合計15ゲーム差以上も広島に離されてしまったというのは、いくらなんでも酷すぎる。あまりにも情けないよ……。

──特に、広島にマジックが出てからの大失速には目を覆うものがありました。

中畑 もう少し頑張って、広島の優勝へのカウントダウンを遅らせることができれば、優勝争いの話題で日数を引っ張ることができるし、ファンだって「ひょっとして……?」と、しびれてくるのになあ。

──具体的に、今季において良くなかったところというのはどこにあったのでしょう。

中畑 そもそも、戦力のバランスが悪かった。ベテランと若手の力の差がありすぎる。若い選手の成長がなく、中途半端になってしまったよな。大田(泰示)にしても、岡本(和真)にしても……「この選手は期待が持てる!」と思ったのは新人の山本泰寛くらいかな。逆に、片岡(治大)やクルーズをなんで使い続けるのかがわからんよ。それよりは、期待の若手をアピールするほうがファンは絶対喜ぶと思うよ。

──とはいえ、一軍に復帰してきたら、実績のある選手を使わざるを得ない部分もあります。

中畑 そこだよな。巨人は“常勝巨人軍”という命題があって、確かにものすごくつらい。それは、よくわかるけれど……選手を“作る時期”があっていいと思うんだよ。いまは、選手層を厚くするのが急務だからな。現状でこれほど控え選手が乏しいチームは、ほかにないぞ、だから、成績は2位だけど“弱い”よ。ここ数年、対戦相手として見てきたけど、率直にそう感じる。スカウト、編成の責任は、ある意味大きい。

一軍で通用する選手を数多く輩出する底上げをすべし!

──現在の巨人の選手で、生え抜きレギュラーとして長期にわたって安定感のある主軸になっているのは、野手では阿部慎之助以降、坂本勇人、長野久義、投手では内海哲也以降は菅野智之くらいですよね。

中畑 長野と菅野は獲ってきたというよりも、本人が巨人に入ることを望んで、遠回りしてまで入ってきてくれた選手じゃないか。坂本はドラフト1位だったか?

──はい。ただし、ハズレ1位です。堂上直倫(中日)を抽選で外した後に、大森剛スカウト(現・育成ディレクター)の強い推薦で1位指名しました。

中畑 大森が? おお、アイツはいいスカウトだね(笑)。それにしても、一発で1位指名して成功している選手というのは、いないわけだからな。それに比べて、DeNAはほとんどがドラフトで獲得してきて、自前で育てた選手ばかりだぞ。

──ただ、今年の巨人は、ドラフト3位だった田口麗斗が台頭しました。

中畑 そうだな。田口の成長は、本当に大助かりだっただろう。今シーズンはあの選手の成長だけは飛び抜けていた。もし、いなかったらゾッとするよ。

──いずれにしても、育成による選手層の底上げは、今後の巨人を左右しかねない、大きな課題ですね。

中畑 以前から三軍制にしたりして、取り組んでいるのはわかっているんだけどね。また、ファームのリーグ戦では成績を残しているのも知っている。でも、結局はそれが花咲くのは、数多くの選手が一軍の試合で活躍するかどうかだから。同じ三軍制ながら、ソフトバンクと違うのはそこだよ。あそこは、選手間の競争をものすごく煽って、一軍で使えるだけの選手をしっかりと送り出している。

──保有している選手の数は、巨人も多いのですけどね。

中畑 そのうち、外国人選手が10人以上いるんだぞ! 一軍でベンチに置けるのが最大でも4人なのに、そんなに抱えてどうするんだ? それなら、日本人の若い選手をそのぶん獲得したらいいじゃない!? オレには、この意図がわからないよ。方向性としておかしいと思う。

坂本勇人の成長だけは素直に喜べる

──今シーズンは、坂本が首位打者争いを演じています。

中畑 うん、成長したね。もともと、インコースをさばくのはメチャクチャうまい選手だった。バットマンというのは、実はインコースが一番イヤなんだ。体に近ければ近いほど、バットコントロールって難しいから。それを打つには、技術が要求されるし、あと感性も必要なのよ。瞬時に打てるかどうかを判断するというね。坂本はそういったことを、最初から持っていた。

──にもかかわらず、ここ3年間はかなり不調でした。今年、復活した理由はなんでしょうか?

中畑 今シーズンは逆方向へ簡単にヒットを打つコツを、ようやく自分のものとして覚えてきたんだ。具体的には、以前は左足を大きく上げた一本足打法だったところを、足の上げ方を小さくしたことで頭がブレなくなった。それに合わせてスタンスを少し広くしてね。それらの変化によって、長くボールを見られるようになり、広角に打てるようになったのが、久しぶりの高打率につながったと思う。

──成績を見ても、例年同じくらいの打席数で三振の数が80台だったのが、今年は60台に減っています。

中畑 「苦しくなったら逆方向」という、ある種の割り切りができるようになったからだろう。とはいえ、基本姿勢として積極的にファーストストライクを絶対に打ちにいくという、打者として一番大事なものも持っている。魅力的なバッターに飛躍したよ。

──坂本に関しては、ベタ褒めですね。

中畑 ただし、守備に関しては、ときどき弱気になることがあるけどな(笑)。ただ、今年の坂本については、打席でも守りでも、できるだけ積極的にいこうとしているのはヒシヒシと伝わってくる。だから、気持ちのなかで引きずらないんじゃないかな? そういう選手は、仮にミスしても格好いいよ。逆に消極的なミスというのは、あとを引くんだ。しかも、自分だけじゃなくて、チーム内部にも誘発させてしまうから。悪い空気を伝えてしまうんだよな。

──そうでなくても、今季の巨人はミスによる敗退が目立っている印象がありますからね。

中畑 坂本自身は、キャプテンとして、一番いい状態になっているんだけどな。野球人として、あの年齢ですでに脂が乗ってきているよ。だから、本人はもっと勝ち試合を作りたいと、思っているんじゃないかな。

──9月以降、チームの状態は正直なところ最悪に近いですが、まだ、クライマックスシリーズがあります。そこで勝てば、日本シリーズに出場するチャンスもありますからね。首位打者を獲って日本シリーズで勝てれば、シーズン終盤のチームのふがいないイメージも払拭できるし、自分自身の年俸も上がりますよね。最後まで頑張ってほしいです。

中畑 年俸については、あの若さでどこまで稼ぐんだ。まだ、28歳だろう? 「少しはオレに分けてくれよ」と言いたい(笑)。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ