構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹
DeNAの教え子たちがいかんなく力を発揮

──クライマックスシリーズ(以降CS)のファーストステージは、3位のDeNAが2位の巨人を2勝1敗で下してファイナルステージへ進出しました。中畑さんにとっては、現役時代から長年過ごしてきた巨人と、昨年までの4年間に渡り監督として指揮したDeNAの対戦ということで、人並みならぬ想いがあったのではないでしょうか。
中畑 そりゃ、そうさ。ただ、今年はついこの間まで我が子を育てるかのように一緒にやってきたDeNAへの愛情がまだ強いから、一緒に戦っている気分だった。あの、3塁側のスタンドがベイスターズ・ブルーに染まった姿を見て、「ああ、これこそオレが作りたかった世界だ」と、感無量だったよ。結果が出る前からそれだけで嬉しかった。
──東京ドームがあれほど青くなっているのは、それこそ初めて見る光景でした。
中畑 第1戦で一緒にテレビ中継をした原(辰徳)が「これは“中畑色”と言っていいですね」なんて言ってくれたよ。「持ち上げてんじゃねーよ!」と返したら、「いやいや、本心ですよ」だって。本当かな(笑)? まあ、悪い気はしないけどさ。
──DeNAの戦いぶりを見ていると、打線の粘りが際立っていました。各打者が簡単には三振せずにボール球を見極め、際どいコースに手を出してファウルにしていました。
中畑 “粘り”と、あと“積極性”な。オレが監督の頃から、常々、「若い選手は、同じミスなら“積極的な”ミスをしろ!」と言い続けてきた。「打席でも守っていても“消極的な”ミスは許さないぞ」とね。その代わり、積極的なプレーをしたうえでのミスなら、オレはそれをミスとはしなかった。嬉しいことに、このCSファーストステージの3連戦では、そうした積極的な姿勢が明らかにDeNAの特徴として出ていた。
──打席では打てるボールはどんどん振っていき、投手は逃げの姿勢による無駄な死球は出さない。また、守備では、ゴロに対して前に出ていく。そんなスタイルですね。
中畑 そう! そういう姿勢なら、仮にミスをしてしまったとしても次につながるじゃないか。引きずらないからね。だから、アイツらを見ていて、凄く頼もしく見えたよ。
──特に目立ったのは、梶谷(隆幸)と筒香(嘉智)ですかね。梶谷は第1戦でマイコラスの初球を見逃さずに同点ホームラン。ただ、第3戦では初回に左手にデッドボールを受けて、早々に退場するアクシデントに見舞われましたが……。
中畑 でも、あれも8球目だろう? 良くも悪くもあっさり「パカ~ン」と打ってしまうカジが、ファウルで散々粘ったあとの死球だったからな。随分と成長したよ。薬指を骨折してしまったようなので心配だけどな(※広島とのファイナルステージにも強行出場)。
──第1戦で逆転ホームランを打った筒香はどうですか? 翌日に掲載されたスポーツニッポンの中畑さんのコラムでも「褒める言葉がもうなくなっちゃった」とベタ褒めでした。
中畑 第1戦の第1打席や第2打席は、気負ってボール球にもボール球に手を出していたけど、あの逆転ホームランはまさに“4番打者の仕事”だったな。第2戦、第3戦で、再び厳しい攻めもあって苦しんでいたけど、そのなかで粘ってヒットを打っていた。今年は本当に成長したな、と思っているよ。それ以外には、もうなにもないよ。
嶺井は“意外性の男”、石川はまだ試合に入れていない
──そして、第3戦では控え捕手の嶺井(博希)が、延長11回表に初球打ちでレフトフェンスにライナーで達する勝ち越しタイムリーを放ちました。
中畑 あれは“意外性”ね(笑)。
──嶺井については、捕手不足のチーム事情から即戦力としてドラフトで獲得しましたが、レギュラー定着には至らず。今年入団した戸柱(恭孝)に先を越される形になりました。
中畑 現状では戸柱で決まりだろう。ところどころ休みを入れながらも、1年間通してレギュラーとしてやれたんだから。ただ、プロ野球は控え選手にも求められる役割も重要。だから、嶺井には第2、第3の捕手としてベンチの信頼を獲得しつつ、戸柱を脅かすような存在になって欲しいな。そうすれば、お互いのレベルも上がっていく。
──倉本(寿彦)の成長については、過去のこのインタビューにおいてお話しいただいていますが、CSでも粘って粘ってつなぐ打撃をしていて、今年の活躍を象徴するような姿を見せていました。あとは、第3戦で先発出場したセカンドの石川(雄洋)ですかね。
中畑 第3戦では、最初の打席のチャンスで簡単に甘い真っすぐを見逃してしまったからな。あれが、アイツの現状を物語っているよ。
──初球スライダーのあと、2球目のストレートはほぼど真ん中でした。やはり、9月にしばらく出場が遠ざかっていたので、バットが出なかったのでしょうか?
中畑 打ち気になっていなかった。いわば、ゲームに入りきれてないんだよ。それではなかなか結果を出すことはできない。
高橋監督よ、笑顔を見せてくれ!
──敗れた巨人については、どうご覧になりましたか?
中畑 負けてしまったけれど、いまやれることはすべて手を打ったんじゃないかな。
──菅野(智之)が、体調を崩して登板できないという“想定外”もありました。
中畑 この一年間を物語っていたな。巨人はペナントレースの開幕直後からマイコラスが不在で、内海、ポレダも不調。当初予定していた先発ローテーションが手薄になってしまった。攻撃陣も若手が伸びず、結局はベテラン頼みという苦しい状況。そういう苦しさが、CSでもそのまま露呈されてしまったわけだ。ただ、敗れはしたけれど、2位というポジションを最終的に収めた。(高橋)由伸監督はよくやったと思うよ。だって、監督を引き継ぐタイミングとしては最悪といってもいいくらい、どん底に近いチーム状態での交代だったんだから。一番、損なくじを引いたのは由伸だよ。それを踏まえて、評価してあげたい。
──監督1年目ですしね。
中畑 ただ、ベンチにいるときの表情がなあ……。無表情というか。勝っていても負けているかのように見えるのはなんとかしてほしい。見ていて切なくなるよ。
──現役時代から感情を表に出すタイプでは……。
中畑 ない! ないけど、選手がホームランを打ったときや、試合に勝って選手を迎えるときには笑顔をみせればいいじゃない? そういうときもブスーっとしていたら、選手だって喜びがあるのかないのかよくわからない。第一、損だよ。テレビにも映るんだからさ。
──高橋監督の性格でしょうか?
中畑 いや、あれはああいう表情を作っているんだよ。「表情を変えない」という姿を自分のなかで良しとして作っている。オレは、それはいらないと思う。シーズン中からグラウンドで会うと、いつも本人にはそう言ってきたんだけどな。オレは出し過ぎだったかもしれないから、そのマネをしろとは言わないよ(笑)。ただ、ファンも見ているのだから、みんなで喜びたい場面では、素直に喜びを表現してほしいな。
──先ほど「ベテラン頼み」という話が出ましたが、ベテランは頑張りましたね。
中畑 そうだな。(阿部)慎之助が夏場に4番に復帰してチームを引っ張ったし、村田(修一)も良かった。サードは、開幕前に2年目の岡本(和真)が注目されていたが、結局、村田が守り通したからな。選手は危機感を持つことがいかに大事か、ということ。安堵の地位にいるのはよくない。常にチーム内に競争意識を持っていることが、集中力やモチベーションを高めるのには必要なんだ。緊張感のないところにいいプレーは生まれないよ。
大田や中井はいつまでも同じことを繰り返すな!

──来年に向けて、巨人の課題はなんでしょうか?
中畑 「若手よ、出てこい!」だよ。とにかく、生きのいい選手が出てこないと。個人的に注目しているのは、CSでセカンドに入ったルーキーの山本(泰寛)だな。オレは、ああいう闘争心のあるタイプが好きだから。
──巨人には、他にも期待の高い若手がたくさんいるはずなんですけどね。
中畑 橋本到、大田泰示、中井大介、それに岡本……。みんな中途半端になっている。原監督は、このうちひとりでいいから一人前にしておくべきだったんじゃないかな。特に大田だよな。入団したときから“大物”と言われてきただけに。
──しかし、大田はファームの試合では本当によく打っていて、堂々たる雰囲気を発しています。今年は、岡本も18本塁打、74打点でファーム打点王を獲得しました。
中畑 その雰囲気を持ってして上がってきながら、結局、一軍ではボロボロ。それは結果だから仕方がないにしても、なぜ学習しないのか? ということだよ。そういうチャンスを、大田や中井は何度もらっているんだから。そこに気がつかないということ自体、オレはおかしいと思う。危機感を持って工夫しないと、アイツらこのままで終わっちゃうよ。
──それは、指導者にも問題があるのでしょうか?
中畑 オレは、彼らの普段の姿を知らないし、巨人のファームの指導者がどういう人間教育をしているのかはわからないから、指導の良し悪しまでは言い切れない。ただ、結果としていまのような状況になっているということは、問題があると言わざるを得ないよ。
──技術や体力だけでなく、メンタルや日頃の生活から改善した方がいいかもしれません。
中畑 そうそう。それが教育だよ。きちんと学べない選手がいたとしても、それなりに一所懸命にやれる方向へと導いたら、みんな考えてやるようになったよ。
──若手の意識改革からの底上げですね?
中畑 現在の巨人は、それが一番の最重要課題だと思うよ。だって、逆にDeNAは若い選手ばかりで、これからが楽しみじゃない? だから、ファンもついてきてくれるんだよ。
──ファンと選手が「一緒に成長していこう!」という雰囲気を感じます。
中畑 だろう!? オレは最初からマスコミを通して、ファンに「みなさんとチームを作っていきましょう!」とお願いしてきたんだ。だから、いまDeNAのファンが喜んでくれている姿が見られて本当に嬉しいよ。“おらがチーム”という雰囲気になっている。
──CSのファーストステージで勝利したときも、涙を流す観客がいましたからね。
中畑 そこは、去年までのオレの演出も貢献度大だな(笑)。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。