構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

「一軍昇格=完治=戦力」でなくてはいけない!

──大谷翔平がようやく一軍に復帰しました。しかし、当初は代打での起用にとどまりましたね。6月24日の楽天戦では、試合終盤のチャンスに先に矢野謙次が代打で起用され、大谷はネクストバッターズサークルに立ちながら結局出番なしというシーンがありました。この場面について、中畑さんはテレビなどのメディアを通して「なぜ?」と疑問を呈しています。

中畑 オレの考えとしては、「一軍に登録しているのなら、戦力として使わないのはおかしいんじゃないか!?」ということなのよ。だから、大いにクエスチョンマークをつけたんだ。あれでは、「もしかしたら、状態はまだよくないのではないか?」と、オレだけではなくてファンも不安になる。勘ぐってしまうよ。監督というのは、見ている人たちにそういう不安を与えてはいけないんだ。一軍に上げるなら100パーセント治った状態にしてから上げるべきだと思う。

──実際、ピッチングについては調整中の段階でしたし、野手としても最初のうちは慣らしながらプレーしている感じでした。

中畑 であれば、シーズンのほぼ前半を棒に振ってまで治療と調整に専念したのに、なぜ、このタイミングでの昇格なのか? ということだよ。昇格するということは出場OKだからでしょう? となる。そんなことは決まりきっているじゃない? 誰もが「完全に治して上がってきたんだな」と判断するよ。それでいてあの起用の仕方だったから、ファン心理としては納得がいかないわけ。オレも大谷の大ファンだから。一軍のベンチに入っているなら、プレーする姿を見たいよ。しかも、「ここは大谷が出る場面だ!」と期待しているところに、ベンチから本人が姿を現して「おお!」と喜ばせておきながら、結局、使わない……となればさ。「どうなっているの?」というのがオレの心の叫びよ。みんなそう思ったんじゃないの?

──そうですね。やはり、大谷がベンチ入りしているなら、プレーする姿を見たいですよね。

大谷は球界の宝 客寄せパンダじゃない

──また一方で、控えめに出場しているということはやはり足が完治しておらず、一軍で治療と慣らしを兼ねていると考えるファンも多いと思います。

中畑 最初に話した「勘ぐる」発想だな。もしそうだとして、一軍に昇格させる理由はなんだ?

──首脳陣が、低迷するチームの雰囲気を少しでも高めるために一軍に上げたのかなと。打つだけなら可能だが、まだ、無理をさせたくない。でも、大谷をベンチに入れるだけで敵味方とも影響力がある。そう考えたのではないでしょうか。

中畑 それじゃあ、ただの客寄せパンダじゃないか! そんな中途半端な状態で使っていい選手か? そんなレベルじゃないぞ。いまや大谷は、日本を代表する正真正銘のスーパースターだよ。そんな選手を単なる話題作りのためだけに見切り発車で一軍登録させるのは正しい時間の使い方ではないよ。オレだったら盤石の状態にしてから戻すぞ。

──極端な話になりますが、まだ不安を残しているのであれば、たとえ今シーズンを棒に振ってでも完治させたほうがいいですか?

中畑 あたりまえだよ! 故障を引きずっていたらメジャーに行くもなにもないんだから。もし、来年アメリカへ行ってメジャーリーグでプレーするのであれば、最高の状態の大谷を見せることができない状態ではまったく意味がない。勝負できる環境を整えてあげなくてはいけないよ。そのためには、ネクストバッターズサークルに出てきて「出る? 出ない?」ということだけでハラハラドキドキさせている場合じゃないということ。プロ野球というのは、プレーでファンの期待に応えるのがそもそもあるべき姿なんだから。それを裏切ってはいけないよ。野球界をダメにしてしまう。だから、オレは声を大にして「それを許しちゃいかん!」と言っているわけ。

──球界の宝ですからね。

中畑 そうよ。言っておくけど宝田明さんじゃないよ? それは、わかる?

──はい。

中畑 やっぱ、わかるか。ハッハハハ!

中途半端な起用だけはしないでほしい

──復帰直後の大谷はそんな状態でしたが、7月3日に86日ぶりに指名打者で先発出場を果たしました。そして、以後も多くは指名打者として起用されています。

中畑 一応な。ただ、最初の頃は3打席くらいで代走を出されて交代とかしていだだろう? それだと、「やっぱり、完璧には治っていないのかな?」と思ってしまうよ。

──また、ピッチャーとしては、7月1日のファームでの調整登板を経て、7月12日に今季初の先発マウンドに上がりました。しかし、2回途中で降板。スピードは150キロ台後半が出ていましたが、制球が定まらずボール球が多かったですね。

中畑 だから、そんな状態だったら登録するな! 使うな! だよ。一軍で投げるのが早すぎる。それこそ中途半端だ。大谷本人にとってもチームにとってもよくない。栗山は一軍で投げることで得るものがあるようなコメントをしていたけど、ファームで一度投げただけですぐに一軍で先発させるというのは、やはり疑問符がつく。

──ただ、この登板のあとオールスターがあって……。そのオールスターでも、今シーズンわずかな出場しか実績がない大谷が選ばれたことは物議にはなりましたが、試合そのものは2打席立っただけでした。ホームラン競争には出場するなど、盛り上げ役に徹する感じでしたね。プレーについては無理はしていませんでした。そして、オールスター明けからようやく指名打者として全打席に立つようになってきています。

中畑 要するに、最初からそれができるくらいの状態になってから一軍に上げるべきだと思うんだけどなあ。投手と野手で状態が違ってくることは昨年もあって、野手に限定して出場するというのはもちろんあっていい。でも、足の故障はすべてのプレーに響くことだから。そして、完治していない状態で「無理はするな」と言ったって、いざ、プレーをすれば無意識に目一杯やってしまうのは、開幕直後にそれをして故障した経験でわかっていること。だから、復帰してからここまでの一連の流れは、あくまでも足は完璧に治っていたのだと信じたいよ。より慎重を期したがゆえに、最初は慣らし運転のような起用をしたのだ……とね。

──そうですね。幸い、その後は一貫して指名打者としての起用で固めています。守備は不確定要素が多いので外野手としての起用は避け、その間に投手としての調整を並行して行いつつ状態を上げていくものと思われます。いずれにせよ、中途半端なことはしないでほしいということですね。

中畑 そう! 起用方法にしても、試合中の采配にしても、こと大谷に対してはハンパなことはしてはいけない。球団を枠を越えて野球界全体の期待を背負っている選手だけにね。日本の野球ファンや関係者はもちろん、普段それほど野球に興味をもっていなくても彼の一挙手一投足にだけは注目しているという人も多い。もちろん、オレも注目しているぞ(笑)。とにかく、いい方向に進むための準備をしっかりしてほしい。それだけを願っているよ。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ